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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
25/119

24th story リアル

後半、グロ入ります。

「よし。あの一匹を俺達で殺ろう」


小柄な男の先輩が三匹の“トラキア”の内の一匹に目をつける。三匹の中では一番体格の大きい個体だ。


強く出ますね、先輩。


他の二チームも、それぞれ標的を定めたようだ。護衛の二人の居るチームは、森の中に残っているであろう残りの五匹が登場したときのために残留だ。


「それじゃあシェル、頼んだぞ」


小柄先輩は俺の肩をポンと叩くと、標的の“トラキア”に距離を詰めた。


「そんなに気負わなくても大丈夫。幾らでも私達がフォローしてあげるから」


今度は女勇者先輩が、俺の背中を軽く叩いた。


よし、と俺は気合いを入れる。俺ならできる。


俺達三人は少しずつ“トラキア”に近付いた。あと八メートルというところで、そいつが俺達へと警戒を顕にした。牙を剥き出しにして唸る。


先ずはどう近付くか。迂闊に近付けば、あの鋭い爪に殺られるか、あのえげつないほどに長い牙に貫かれるかの二択になりそうだ。


「まあ、その二つにさえ警戒すればいいだけの話なんだけどな」


小柄先輩はそう呟くと、いきなり“トラキア”に向かって走り出した。


「....は?」


思わず俺は呆ける。何やってるんだ?


いや、駄目だろ!そんな真っ正面から挑んだら、爪ですくわれて、はい天使さんこんにちはじゃねーか!


案の定、“トラキア”は向かってくる小柄先輩に吠えると、右前足を振り上げた。


畜生!


俺はサブマシンガンを構えた。こうなったら、たとえ効かないとしても奴を撃つしかない。


“トラキア”が前足を振り下ろす。俺は慌てて照準を合わせた。が、


“トラキア”の前足は空を切っただけだった。いつの間にか小柄先輩は、“トラキア”の左側へと回り込んでいた。


「シェル君、そんなに慌てなくて大丈夫よ。彼、身体は小さいけれど、その分すばしっこいから。そう簡単に攻撃を食らうことはないわ」


女勇者先輩が俺の構える銃を押さえた。


「この距離で撃っても、精度が落ちるだけよ。落ち着いて、シェル君。戦場では、冷静さを保つことが大切」


はい一回深呼吸して、と女勇者先輩に言われ、俺は深呼吸をした。


「オーケー?それじゃ、私達も行くわよ」


小柄先輩は、今もなお“”トラキア の攻撃を避け続けている。あっちこっちに跳んだり行ったりの、アクロバティックな回避だ。


「私と彼とで“トラキア”の隙を作るから。貴方はその隙を狙って」


女勇者先輩は俺にそう言い残すと、“トラキア”へと駆けていった。


“トラキア”が女勇者先輩に気付く。その隙に、小柄先輩は“トラキア”の死角へと回り込んだ。“トラキア”が女勇者先輩を攻撃しようとした、正にそのタイミングで、小柄先輩が“トラキア”を小突く。


“トラキア”は、女勇者先輩への攻撃を止め、小柄先輩の方を振り向いた。それと同時に、今度は女勇者先輩が“トラキア”の死角に入り、小突く。


再び“トラキア”が女勇者先輩を振り向く。


小柄先輩が死角に入る.......


たったそれだけの動作で、二人は“トラキア”を混乱させた。“トラキア”の知能が低い故に成せる、ある意味罠である。


さて、そろそろ潮時だろうか。“トラキア”の隙を見つけるため、俺は集中モードへ入った。目の前の出来事以外の全てをシャットアウトする。


タイミングを見計らうと、俺は“トラキア”の背後になるべく回るようにしながら接近すると、銃で“トラキア”の背中を叩いた。


“トラキア”が背後を振り向く。だが、俺は既に地面には居なかった。“トラキア”の頭上に“?”マークが浮かぶ。


「はい、チェックメイト」


俺は、“トラキア”の頭上を跳んでいた。頭を地面に向けた姿勢で銃を構える。“トラキア”の弱点部位は.........


俺は、銃身を“トラキア”の左眼球に突っ込んだ。


ブチッ


気色の悪いような音がして、銃口が“トラキア”の左目に突き刺さる。


〔グェアアアアアアアアアアアアアアアアアア〕


“トラキア”が悲鳴をあげる。俺はすかさずトリガーを引いた。“トラキア”の頭の中で、弾が射出される。


弾は“トラキア”の脳を掻き乱した。


〔グゥ〕


一声だけ発して、“トラキア”の巨体が地面に沈む。俺は銃身を“トラキア”の左目から引き抜いた。


ズルリと、本来出てきてはいけないものが引っ付きながら。


うぇ


「........死んだな。よくやったな、シェル」


小柄先輩が、地面に倒れ込んだ“トラキア”を確認する。“トラキア”はピクリとも動かない。


ホッと胸を撫で下ろそうとしたそのタイミングで、女勇者先輩が何かに気付いた。


「ちょっと、アレ........」


女勇者先輩が他所を指差す。俺達は訝しみながら女勇者先輩の示す方向へと目を向けた。


気付けばいつの間にか、森の中に身を隠していた“トラキア”が姿を現していた。


俺の視界に、部長の率いる隊の四人と、サルゴンの姿が映る。どうやら、部長達も一匹は仕留めたようだ。


五人は、四匹の“トラキア”を一度に相手にせざるを得ない状況になっていた。


俺達と部長達が倒したのが二匹。あそこに四匹。じゃあ、残りの二匹は?アグル先輩達他の部員は?護衛のスナイパーお兄さん達は?


その答えは、部長達と四匹の“トラキア”の隣にあった。


残る二匹の“トラキア”が何かを喰らっていた。おい..................まさかだが......


俺達はその“何か”を凝視した。


そして凍りつく。


「うっ!」


俺の隣で、女勇者先輩が吐瀉物を地面に撒き散らした。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!!!!」


小柄先輩が叫びながら部長達五人に加勢しにいった。俺は..........


俺は、その場から動くことが出来なかった。


二匹の“トラキア”が喰らっていたのは、護衛の二人と、アグル先輩達部員四人だった。


恐らく六人は、生きたまま喰われたのだろう。無惨に食い散らかされた肉片の中に、辛うじて頭部を残していたアグル先輩は、頬に涙を伝わらせたまま息絶えていた。


その苦悶の表情に、俺は思わず目を逸らした。


.............何だよ.......何でだよ。


こんなはずじゃないだろ。“はじまりのやま”が危険なのは承知していた。でも、この戦力なら無事に帰れるっていう確証があったから、ここに来たんじゃねえの?


どうして。何で。


俺達がもっと早くさっきの“トラキア”を仕留めていれば......


そもそも、俺が“ペリクレス”に教われなければ....あれがなければ.....こんなことにはならなかった。俺がもっと冷静になって、もっと静かに対応していれば、こんなことにはならなかった。


入部してからこれまで、もっとちゃんと部活をやっていれば.......死ぬ気で取り組んでいたら、あるいは........


この状況は、俺のせいなのか?護衛の二人が死んだのは...アグル先輩達が死んだのは...........................俺のせい?


罪悪感が、俺の心に深く刺さる。


悲しみ 怒り 憎しみ 後悔....


色んな感情がごっちゃ混ぜになって、もう何が何だか...




ガリッ



一匹の“トラキア”が、アグル先輩の頭部を噛み砕いた。

小柄(な男の)先輩の叫びで、見事にゲシュタルト崩壊起こした。


次回更新は土曜日です。






現実は非情なのです。

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