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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
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22nd story 賭け

「ここに到着するまでに、三時間から四時間はかかるそうだ」


先刻、ペリクレスからスナイパーのような精密射撃で俺を救ってくれた護衛の男、スナイパーおじ....お兄さんが、無線で軍へ援助要請を送った。その応答を俺達に告げる。


「結局、この場は自分達で何とかするしかなさそうだ。ったく。厄介なことになったぜ」


スナイパーお兄さんが溜め息を吐く。


「それで、どのタイミングで突撃するんですか?」


部長がスナイパーお兄さんに尋ねる。が、その視線は周囲を忙しなく警戒していた。


「向こうが襲ってくるのを待ってるのは、馬鹿のやることだ。こっちから仕掛けた方が、向こうに隙が生まれやすい。全員、銃をフルオートに切り換えろ。走りながら狙ったって、お前らじゃ当たらねえ」


スナイパーお兄さんに言われて、俺達はサブマシンガンをフルオートに切り換えた。


「撃つのは戦闘と、それから列の左右に並んでる奴だけだ。弾切れしたら、列の内側を走っている奴と交代しろ。そうすれば、弾幕が途切れることが極端に少なくなる。五秒後に突撃だ。いいか?間違っても列から離れるなよ。死ぬぜ」


隊に緊張が走る。銃を握る手に、汗がまとわりついた。


「五.....四.....三....ニ............GO!!!」


スナイパーお兄さんが叫びながら飛び出す。俺達は、その後に続いて走った。とはいっても、普通の一般人であるスナイパーお兄さんのスピードに合わせているから、俺らからしたら凄く遅い。


スナイパーお兄さんは、進行の妨害になりそうな獣を片っ端から銃で仕留めていった。この暗闇の中で、しかも走りながら一分の狂いもなく獣の脳天を破壊していくスナイパーお兄さん。年季が違う。


そのスナイパーお兄さんの横に並んで走りながら、銃を掃射する部長とアグル先輩、サルゴン、俺。

何だか、よく知っている顔ぶれが並んでいる。


ただ、フルオートで掃射しているとはいえ、そのほとんどは獣に当たることなく闇に飲まれていく。運良く獣に当たっても、致命傷には至らない。まあ、この場合は足止めすれば十分だからな。


減速することなく、隊は闇の中を駆け抜けていく。


誰も木にぶつからないし、木の根に転ぶこともない。それは、ここにいるほとんどの部員が覚醒勇者であり、極限の状況下で神経が研ぎ澄まされているからか。それとも、スナイパーお兄さんが、そあいう道を選んでいるからか。


おそらく、両方なのだろう。勇者のスペックの高さには改めて驚かされるし、スナイパーお兄さんにも脱帽だ。


隊の左右から、俺達前線が撃ち漏らした獣が襲ってくる。


背後からの獣は、もう一人の護衛の男が対応し、左右から迫ってくる獣は隊の両端に並ぶ人達が必死に打ち落としていく。


どれだけ走ったか。


時の流れが遅い。


獣の襲撃は止むことを知らない。こいつら、一体どんだけ居るんだよ。


「おい!森の出口が見えたぞ!!もう少しの辛抱だ!!」


スナイパーお兄さんが叫ぶ。俺は前方に目を細めた。視界の先に、微かに開けた明かりが見える。


やった。あと少しだ。


みんなの顔にも希望の色が見え始めた、その時。


カチリ


誰かの弾切れする音が、やけに鮮明に響いた。


「おい、交代だ」


弾切れを起こしたであろう本人の声が、後方からする。


「駄目だ。もう弾がない」


別の声が答える。

全員が、その声のする方向を振り向いた。無意識に自分の残りの弾倉を確認する。.....交換はあと一回きりか。


「他に!弾切れした奴は!?」


スナイパーお兄さんが全体に尋ねる。恐る恐る手をあげたのは、計六人。


「全員!自分の残りの弾倉を確認しろ!後何回交換できる!」


「後一回です」


部長が、射撃を止めることなく答える。それを皮切りに、次々と答えが帰ってきた。

ほとんどが、あと一回、多くてもあと二回しか交換できない。


「出口までは.........堪えられねえな......」


スナイパーお兄さんが舌打ちする。絶体絶命。いや、マジどうするんだよ。


「あの......」


サルゴンがスナイパーお兄さんに反応を促した。


「何だ」


「この距離なら、全力疾走すれば獣でも置き去りにできると思うんですよね、俺らなら」


そうじゃん!流石サルゴン!あと数百メートルぐらいのこの距離なら、もう余裕じゃん!良く考えたら、百メートルを六秒ありゃ走れるような連中の集まりなんだぜ?


「まあ......それもありだけどな.......だが、それを実行したら、この森を抜け出た先で何かあっても、自力で何とかしなくちゃならなくなるぞ」


「......?何故です?」


「何故って.....俺らはお前達と違って、ただの一般人だからな。そんなに速くは走れねえよ」


いえ、とサルゴンが首を横に振る。


「僕たちの中の誰か二人が、貴方達を背負って走ればいいんです」


スナイパーお兄さんが、ポカンと口を開けた。


「そんなことが可能なのか?」


サルゴンが首肯く。


「可能です。それを絶対にやってのける二人を、僕は知っています」


まあ、体格からして一人はアグル先輩だろう。もう一人は.........


サルゴンと視線がぶつかる。


............え?


俺?もしかして、もう一人は俺すか?


出口まで、あと三百メートル。

次回更新は土曜日です。



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