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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
22/119

21st story 一難去ってまた一難

世界がスローになる。事故の時によくある、時間の進みがゆっくりに感じられるという、あれだろうか。何でも、アドレナリンが関係しているとか、そうでないとか。


“ペリクレス”


俺の頭上で大口を開けているそれの名前だ。


主に樹上で生活する猫科の生物。その足は特殊な形状をしている。

出したりしまったりが可能な、掌から突き出た一本の骨。外と内に、それぞれ二本ずつ大きく湾曲した指。


骨は、気を昇る際に幹に突き刺したり、獲物を仕留めるのに用いる。


ヤバイ。

俺は銃をペリクレスに向ける。くらえ!!


引き金を絞る。だが、弾は射出されない。


..............え?


何だ!故障か!?原因は不明だ。だが、こうしているうちにもペリクレスは迫ってきている。待ったはない。


ああ、これ、詰みですか?今からでは、回避しても無傷では済まないだろう。だが、死ぬよりは。


俺は回避行動に移る。


ダン!!


列の後方で発砲音がした。ペリクレスの側頭部に穴が開く。その目から光が消えた。即死だ。


だが、そのペリクレスだったものは重力に従っているので、落下が止まることはない。人の体長程の大きさをしたそれを身に受ければ、無事では済まないだろう。


もっと早く回避に移行していればよかったな。そう後悔しかけたとき。


「オラァッ!」


ペリクレスだったその巨体が、直角に進行方向を変え、地面と水平に吹き飛んでいった。


飛んでいった先で、大木に激しくぶつかる。


バキバキバキと音をたてて、大木が倒れた。


俺は受け身をとって地面に着地すると、ペリクレスを吹き飛ばした何かの正体を探した。


「あれだけの勢いでぶつかったら、タダじゃ済まねえよな。絶対俺は死体確認しないぜ?」


俺の横に並んでいたアグル先輩が、右手の拳を擦っていた。


「大丈夫か?シェル」


俺は首肯く。ペリクレスは、アグル先輩に殴られて吹き飛んでいったらしい。流石、力自慢。


俺はアグル先輩に助けられて立ち上がると、服についた土を払った。


「おい、今襲われたお前。ちょっと銃貸せ」


列の後ろから、誰かに声をかけられる。振り向いて声の主を確認する。列の最後尾に居た護衛の男である。


「おい、早くしろ」


急かされながら、慌てて男に銃を手渡す。男はそれを受け取ると、じっくりと観察した。


「セーフティーが外れてるじゃねーかよ。おい」


苛立ったような口調で、男が俺に銃を突きつける。


しまった。森林に入る寸前で外そうと思っていて、そのまま忘れていた。男が舌打ちをした。


「あのなぁ。分かってんのか?ここは遊び場じゃねえんだぜ?ちょっとでも気抜いたら、即刻死ぬかもしれない所なんだよ。勇者なのか何なのかよく知らねーけどよ。調子乗ってて痛い目見んのはテメーらだからな?」


「はい。済みませんでした」


「謝って済むような話じゃねーだろ。今のだってテメー、危うく死にかけたんだぜ?俺がペリクレスの脳天ぶっとばして、そこのデカイのがペリクレスが落ちてくるのを防いだから、テメーは無傷なんだよ」


あの精度の高い狙撃はこの人だったのか。流石は軍人。


「全く。俺らの経歴に傷つけるよーな真似は止めろよな。出世できなくなるじゃねーかよ」


口ではそう言っているものの、言葉の端々から、本気で俺のことを心配してくれているんだということが分かる。


時々思うんだけど、俺の周りって優しい人が多いよな。


「いいか。明日無事にここを出るまで、二度とこんなヘマすんじゃねーぞ。次やったらーーーーーーーー」


そこで男は口を止めた。視線を周囲にせわしなく巡らせる。その表情が急に強張った。


「おい!!全員固まれ!!!囲まれてやがる!!」


男が唐突に叫んだ。部員は皆、キョトンとした表情で男を見た。


「何ボケッとしてる!!急げ!!!」


男の表情に気圧され、隊はゾロゾロと一ヶ所に固まった。


「さっきの物音に集まってきたのか......しくったな」


男の額に脂汗が流れる。さっきから男の様子が可笑しい。一体、何が起きているのか。


「おい相棒。この状況、どうする」


男が、部長と列の前方を歩いていたもう一人の護衛の男に視線を向けた。


「ヤバイな。気配がするのだけでも、完全に逃げ道を塞いできてやがる」


「四面楚歌ってやつか。上も駄目だな。ゾロゾロ集まってきてやがる」


男達の会話から察するに、どうやら俺達は、多数の動物に囲まれているようだ。


「全体で何匹くらいですか?」


部長が護衛の男達に尋ねた。


「さあな。俺らも具体的な数までは把握できねえ。まあ、百五十からニ百ってところだな」


最低でも、一体につき生身の覚醒勇者三人分の戦闘力を持つ化け物が二百匹。単純に計算して、生身の覚醒勇者六百人分。


.......いくら俺らが銃を持っているからといっても、俺ら全体の戦闘力はおそらく生身の覚醒勇者百五十人程度。


絶体絶命だわ、これ。次こそ、本当の詰み、かもしれない。


「何か手段は?」


追って部長が尋ねる。


「.....無いな。少なくとも、俺らはそんなもの持ち合わせていない」


周囲が青ざめる。だが、パニックにならないだけ、流石と言うべきなのだろう。


「........死にたくなかったら.......やるしかない、か」


部長が溜め息を吐く。


「まさか、初日早々にこんな危機に瀕するとはね。流石に予想外だったよ」


俺は、他の部員を確認した。ああ、駄目だ。ほとんどの奴が既に諦めかけてる。まだ冷静であるのは、俺と部長と、アグル先輩と......それからサルゴン。護衛の二人は流石、場馴れしているだけあって、状況をしっかりと把握しているようだ。


「取り合えず、外部に応援要請を。あとは........可能性があるとすれば、一転突破か」


護衛の男の片方が呟く。


「一一塊になって、一番獣の集まりが薄いところを突破するぞ」


あくまでも、生存の道にかける。


ここからは、本当の“命のやりとり”だ。

当サイト様にて、「O_LIFE」という新作を投稿させて頂きました。本「Near Real」とは、また違った作風になっております。あくまでもこちらの作品の投稿を優先しているので、「O_LIFE」の方は不定期更新となります。


次回更新は水曜日です。

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