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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
20/119

19th story ユグは見た

活動報告にも掲載しましたが、昨日は東田が多忙だったため、土曜日にも関わらず更新を見送らせて頂きました。


楽しみにして下さっていた読者のみなさん、申し訳ありません。これからはなるべく定期更新できるようにしますので、これからも東田と「Near Real」を宜しくお願いします。

六月っていえば、もうすぐ梅雨時か。雨ばっかり続くと、気分も駄々下がりになるから、梅雨は余り好きじゃない。

けど、今日はまだ、暖かくていい天気だ。


なんでかは知らないけど、駅のホームって、寒いっていう印象が昔はあった。


でも、いざ電車通学を始めてみると、そうでもないな。きっと、寒いのは秋とか冬とかだろう。

駅のホームって、屋内なんだか屋外なんだか、よくわからないよな。中途半端な空間。

シェルの見せてくれた国語探求コースの教科書に、そんな文章が載ってたような。


シェル・クライマン


俺の高校での最初の友達だ。

あいつはスゲェ奴だ。頭がいいのもそうだし、何よりあいつは“勇者適性者”だ。ただの農民の俺とは全然違う。


今日は、そんなシェルと、駅前のカラオケに行く約束をしている。楽しみだ。


ホームに放送が流れた。もうすぐ、俺が乗ろうとしている電車が到着する。


俺の家は田舎にあるから、電車の本数もそんなに多くない。


朝の六時半と、昼の十二時半、夕方の六時半の三本しかない。俺の通う学校への最寄り駅までは、大体一時間半ぐらいかかる。乗り換えがないだけラッキーかな?

今日は、十二時半の一本に乗る。


電車が駅に到着する。車両が完全に停まってからドアが開いた。降りてくる人は居ない。

そりゃそうだよな。こんなド田舎にゃ、誰も用ないだろ。夕方の一本ぐらいかな、この駅で人が降りるのは。


電車に乗る。田舎発の電車だから、席は空きまくっている。スッカスカだ。


俺はいつもの定位置を目指した。

この電車は三両編成。俺の定位置は、三両目の一番手前の席。


入学してすぐの四月に、たまたまこの席で十円玉を拾った。それ以来、俺は絶対この席に座るようにしている。また十円拾えるかもしれないだろ?


各駅停車をしつつ、三十分も走った頃、急に街並みが変わった。都市に入ってきたんだ。


都市に入ってからさらに十五分。ある駅に停まる。


平日なら、いつもこの駅でサルゴニア・コシチューシコって人が乗ってくる。

そいつも“勇者適性者”で、シェル程でもないが凄い奴らしい。

で、女子に人気もあるんだとか。


そいつはいつも一両目に乗るんだけど、そうすると、うちの学校の女子が物凄い勢いでそっちに集まる。これも、俺が三両目に座る理由かもしれない。


でも、今日は休日の昼だから、そいつは乗ってこない。だから、いつも聞こえてくる女子の歓声みたいな、黄色い悲鳴みたいな、キャーキャーという奇声も今日はない。


平和だなあ。


けれど、その代わりに、十人ぐらいの団体がこの三両目に乗ってきた。


何の団体だろう。みんな同じ、白い服装をしている。それも何か、ちょっと高貴そう。


その団体はこの車両の一番後ろを陣取ると、ガヤガヤと騒ぎだした。


全然平和じゃねえなぁ.......


いつも降りる駅の三つ前の駅まで来た。停車時間も含めて、あと十分ぐらいで着く。楽しみだなあ。ソワソワしてきた。


この駅で、また団体が乗ってきた。今日はやけに団体客が多いなあ。休日だからかな。


今度の団体は、全員で二十人弱ぐらいだった。最初に乗ってきた団体が全員白い服なのに対し、こっちは全身黒で統一されている。流石に暑くない?


黒ずくめの団体さんの一人が、車内を見回した後


「行け」


と仲間の人に小声で言った。

俺の定位置、入り口のすぐそばだから聞こえたんだよね。

その言葉で、二十人ぐらいのうちの半分が、この車両を出て、別の車両へ移った。


丁度それぐらいの時に、ドアが閉まって電車が発車した。


余りにポカポカ陽気だったから少しウトウトしてたんだけど、電車が駅を出た後すぐ、目を覚まさせるようなことがあった。


さっき乗ってきた全身黒ずくめの団体さん達が、急にフードとかマスクみたいなので顔を隠し始めた。それらの色も全部黒で、文字通り、全身真っ黒になった。


団体さん達は次に、服の胸の辺りに腕を突っ込んで、車内をウロウロしだした。この車両には十人ぐらい居たから、物凄い鬱陶しかった。


それから一分ぐらい走ったのかな。うろつく黒ずくめの団体さんを、誰か注意してくんねーかなー、なんて思っていたら、電車が急停車した。


何事だろう。他の乗客もオロオロしている。


すると、黒ずくめの男達が、同時に服から手を抜いた。


その手には、黒い銃が握られていた。


「騒ぐな!」


黒ずくめの一人が、大声で怒鳴った。


何か、モノスゲー面倒臭いことに巻き込まれたんじゃね?俺ってば。

寝たふりしてようかな。それが一番安全な気がするし。


「今、この電車を俺達が占領させてもらった。目的は一つ。“アクピス教”との交渉だ。一般人に手を出すつもりはねえが、少なくとも一・二時間は電車が遅れることになるな。済まんな」


えーと?何?つまり?俺らは人質みたいだけど、人質じゃないの?え?よくわかんねえ。

聞いた方が早いかな。俺は手を挙げた。


「えっと.......質問.....いいすか?」


「この状況で質問たぁ、いい度胸してんじゃねえか。いいぜ。聞いてやる」


お褒めの言葉、頂きました。よかった。聞いてくれるって。


「あの、俺達を逃がしてはくれないんすか?一・二時間もかかるんなら、今から目的地まで歩いた方が早そーなんすけど」


「無理だな」


即答された。駄目だって。


「まだ、さっきの駅からそう離れてないからな。すぐ警察とかがやって来る。お前らを逃がしている間に、車内に突入されたりでもしたら、俺達が困るだろ?」


トイレとかどうしよう。家を出る前に行ってきたから、大丈夫かな。


「まあ、大人しくしてな。こんな所で人生終えても、つまらねえだろ?」


俺達は、コクコクと首肯くしかなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ボナパルトさん曰く、ユグノ話を纏めると


・先ず、ユグが電車に乗っているところに教団が乗ってきた。


・次に、事件現場手前の駅で、“ヴェーダ”が乗ってきた。


・“ヴェーダ”は全車両を占領し、一般人には手を出さないと言った。


この、普通に話せば一分もかからない話を、五分にも渡って話したユグは、ある意味天才的だ。


それに対し、その長話を全て聞いた上で、上手く要点を押さえて纏め上げるボナパルトさん。

俺なんか、三両目の定位置~のくだりでウトウトしだしたってのに。


「なるほど。ありがとう、ユグ君。シェル君はどうだい?」


ボナパルトさんが、俺に視線を向ける。ヤベ、どうやって誤魔化そう。


「えっと.........俺は...........途中からユグの居る車両に行ってるので......まあ、同じことしか分かりません」


嘘はついていない。途中から三両目に行ったのは事実だ。それが、“ヴェーダ”による

電車の占領の後なだけで。


それから、俺が知っているのは、今ユグから聞いたことだけなのも本当。ちょっと全体的に曖昧に濁しているだけだ。


「なるほどなるほど。“ヴェーダ”の目的は、“アクピス教”との対話だったのかな。何にせよ、“アクピス教”は、この程度じゃ動じないだろうな。.......うん、ありがとう。聞きたいことは聞けた」


あれ?これだけ?てっきり、もっと沢山質問されると思っていた。


「確かに、いろいろ気になる事はあるんだけど。僕はゴシップ記者じゃないからね。事件の起因と結果さえ分かれば、あとは大体いいんだ。君も、そこまで突っ込まれたくないだろうし、ね?」


ボナパルトさんが、チラリと俺を見る。あ、もしかして、俺が車内に侵入したところ、見られたりしてた?


ユグが話している間に店員が持ってきた“Brave”のラムネ味を、俺は誤魔化すように飲んだ。


「さて、悪いけど、僕はもう行かなくちゃいけないんだ。二人はどうする?」


俺は携帯で時間を確認した。もうすぐ四時だ。


「どうする?ユグ」


「うーん。俺、帰りの電車は五時なんだよなあ」


あと一時間しかないのか。


「てーと........駅まで歩くと三十分はかかるよなあ.......すぐそこの駅に行ったにしても、暇潰しできないし........」


「じゃあ、もう少しここに居る?」


ユグが提案する。そうだな。俺は頷いた。カラオケは諦めよう。


「そういうことだね?それじゃあ、僕はここで」


ボナパルトさんは、卓上に千円札を一枚置くと立ち上がった。


「ご協力ありがとう。僕からの奢りだ。お釣りは持っててくれ」


「あ、ありがとうござ

います」


俺とユグは頭を下げた。


それじゃ、と立ち去っていくボナパルトさん。彼の座っていた席には、一切口をつけていないコーヒーが置かれていた。


大人だなあ。

次回更新は水曜日です。


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