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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
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17th story 理想は

二両目の制圧も、五秒程度で終了した。なんだか、手応えがないと寂しいな。だが、今はそれよりも迅速さが大切だ。

最後の三両目に移る。


三両目のドアの外から内部を覗く。犯人の数は十人。これまでに比べかなり多くの人員を捌いているように思われる。


入り口手前の席に、ユグの姿を見付けた。


さて、どうやって侵入しようか。これだけ人数が多いと、バレないようにするのは難しい。


「もうこんなことは止めにしなさい。自首すれば、ピシウス様の加護によって、刑罰は軽くなります」


俺が思案にあぐねている中、三車両内から誰かの声が聞こえた。


「そんなわけねーだろ。どうして存在しないものから加護なんてものがもらえるんだよ。盲信過ぎだぜ」


別の男の声が聞こえる。何やら言い争いをしているようだ。


「ピシウス様にはそれが可能なのです。ピシウス様は万物を司るお方。そして慈愛に満ちた神なのです。きっと、貴方の愚かなる行為すらも許してくださります」


「へぇー。万物を司る、ねぇ。慈愛に満ちた神、ねぇ。万物を司っているなら、俺らが魔族と戦争をする必要はねえんじゃねえのか?その力とやらで、魔族を消しちまえばいいじゃねえか」


発言からするに、一人は“アクピス教”の教団の人間なのだろう。そうすると、もう一人の方は犯人の一人か。


「なりません。あの忌まわしき存在は、ピシウス様を裏切った存在なのですよ?ピシウス様の敵は我等人類の敵。ピシウス様は、私達人類に、崇高なる信仰心の証明のために、わざわざその復讐のチャンスを下さったのです。無下にはできません」


「慈愛に満ちたとか言ってるわりには、裏切り程度で何千年と根に持つのか。そりゃ、スバラシイ神様だな。まともな思考を持った人間なら、誰も信仰しねえや。それに今、何つった?人類に復讐のチャンスをくれた?無下にはできない?なあなあ。魔族討伐が始まってから、どれぐらい経った?もう二千年経ってねえか?チャンスを無下にするも何も、これ完全に失敗だろ。二千年も同じことやってるのに、未だにこれといった成果無しだぜ?もう愛想尽かされてるんじゃねーのか?」


「そんなことはありません。私達が信心深くあり続ける限り、ピシウス様は私達を見守り続けていてくれます」


「はいはいはいはい。ご都合解釈止めようか。そんな信仰側の自分勝手がまかり通るような神様がいるわけねえだろ。ましてや、裏切られたからっていう理由だけで敵対種族をことごとく滅ぼそうとする“慈愛に満ちた神様”が、そんなに気長だとは思えねーがな」


喋っている犯人側の男は、恐らくリーダー格だ。でなければ、私語は仲間に注意されるだろう。


「別に、あんたらが何を信仰していようが、それだけなら問題ねーけどよ。それを如何にも人類の総意みたいに扱うのを止めてくんねーかな。別に魔族だろーがなんだろーが、俺らには関係ねーだろ。実質被害はなかったんだからよー」


「何を。忘れたというのですか?旧暦時代の最後に起こった、魔族のあの侵略戦争のことを」


「侵略も何も、人類が先に魔族に手を出したんじゃねーか。向こうは、人類から十回以上も侵略未遂をされてんだぜ?それを今さら、一回霧の戦争で何ほざいてんだか」


「しかし、それによって被害を被ったのは事実。ならば、我々人類はもう一度立ち上がらなくてはなりません」


「なあなあなあなあなあなあなあなあなあなあ。あっちが侵略してきた理由って何だ?それまでの十回以上の軍事行使のせいだろ。で、それらの軍事行使を全て指揮していたのは誰だ?全て“アクピス教”だぜ?つまり、あの戦争の起こる原因の根本はさ......お前らなんだよ。別にあっちが何か仕掛けてきた訳でもねーんだからよ。とっとと軍事行使諦めてほっときゃ良かったのに」


「なりません。奴等はピシウス様を裏切った者達なのだから」


「だから、それを俺らに押し付けるのを止めろって話をしてんだよ。ピシウス様だとか何だとか言ってるけどよー。本人はもう居ねーじゃんか。そいつを裏切った奴等だって、もう居ねーだろ。今更な話だぜ?そんなの。それでも、そうやって復讐ごっこしてたいなら、同じ思想を持った仲間内だけでやってろよ。ていうか、可笑しいだろ。なんで、ピシウスとか魔族とかどうでもいいから平和に暮らしてたい、って俺達が戦争に駆り出されて、その原因を呼んだ本人達は、その間に酒盛りとかしてるんだよ。理不尽にも程があるだろ」


男の言うことはもっともだ。俺だって、そのうちきっと戦争に駆り出される。何故?勇者に生まれたからだ。ただ、それだけ。別に、なりたくてなったわけじゃない。いや、人より強かったりするのは、ちょっと嬉しいけど。

けど、それだけだ。それだけで、強制的に徴兵される。


確かに理不尽だ。


「俺らは、あの戦争で大切なものを失った。家を、仲間を失った。家族を失った者だって居る。...........なあ..........内陸の安全地帯でぬくぬくしていたお前らに、失ったものはあったのか?」


それが、今回の電車ジャックの理由か。圧倒的理不尽な、“アクピス教”の批判。


「今の人類に必要なのは“アクピス教”じゃない。教団がこの様だからな」


俺はまだ、世間に疎い。だから、“アクピス教”とか反勢力とかの、深いところまでは知らない。男が言っていたことが真実かどうかも分からない。

だから、どっちが正しいとも、俺には言えない。


でも、俺は犯人側の、反勢力側の主張に賛成だ。


俺が求めたいのは“そちら側”の理想だ。


だが、だからこそ


「他人に迷惑かけたんだ。そのけじめは、きっちり着けて欲しいな」


ぼやきながら、何の芸もなく三両のドアを開いた。


なかなか区切りよく終われないので、少し短くなりました。次回はボリューム増せたらと思います。


ご意見・ご感想よろしくお願いします。


次回更新は水曜日です。

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