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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
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16th story 電車ジャック

土曜日の午後二時、駅前広場の噴水で、俺はユグを待っていた。


あいつ、自分で集合時間二時って決めておいて.........いや、あいつ電車で来るのか。電車が遅れているのかもしれない。


だとしても、何か連絡くれればいいのに。


今日は暑いな。喉が乾いてきた。俺は近くの自動販売機を探す。目につくだけでも三ヶ所。流石、駅前だ。


一番近くの自販機で“Brave”を買う。


“人類の聖戦”の終戦後に登場し、爆発的なヒットを記録した超ロングセラードリンクだ。

りんごやオレンジといった、一般的なジュースのような様々な味があるのに加え、アルコールバージョンやスポーツドリンクバージョン、栄養ドリンクバージョン等、ほぼ全ての飲料物を網羅している。

十数年間に渡って、三秒に一本の割合で売れ続けている。


何が、この“Brave”をそんなにも売れさせているのかは分からないが、取り合えず、どのバージョンを飲んでも美味いことは確かだ。


噴水の前に戻る。


二時十分


ユグはまだ来ない。







................遅い。既に時刻は二時三十分を回っている。


もしかしてあいつ、今日の約束忘れてる?ありそうだな。さっきから何度か連絡を入れてみてはいるが、反応はない。もう三十分待ってみよう。



暇だなあ。


何気なく、駅前のとあるビルに設置された大型スクリーンを眺める。やっているのは定時放送のニュースだ。どうでもいいようなニュースが淡々と流れていく。


そこへ速報が入った。テロップは


<“アクピス教”教団関係者の乗った電車 ハイジャック>


どうやら、今日どこかの駅前で演説をする予定だった“アクピス教”の教団関係者が乗った一般電車が、反アクピス教組織の一員にハイジャックされたそうだ。


電車は一時十五分に、丁度俺のいるこの駅に到着予定だったそうだ。


そういえば、サラッと母さんが言ってたな、演説のこと。


現場からのライヴ中継が映される。既に機動隊が出動しているようだが、一般乗客も車内に居るためになかなか突入ができないらしい。


外から見た電車の窓のアップが映される。カーテンが閉められていて、車内の様子は確認できない、とリポーターが言う。


ふと、そのカーテンの隙間から、乗客が一人顔を覗かせた。すぐに閉められる。


「.........何やってんだよ、そんな所で」


現場はここからそう離れてないな。俺なら五十秒あれば着く。軽くその場でストレッチをすると、電車ジャックの現場目指し、俺は駆け出した。


全く。あんまり騒ぎは起こしたくないのに。


勘弁してくれよ、ユグ。





五十秒もかからずに現場には到着した。ただ、五十秒もトップスピードで走ってきたもんだから、息が上がった。少しだけ休憩させてくれ。

なんとか一分で息を調える。

まだ、電車からは少し距離をおいている。さて、どうやってあの中に侵入しようか。


線路上に停車している車両の左側、線路の外側には既に機動隊が詰め寄っている。今だもって、犯人とは膠着状態だ。


パッと車両を観察したところ、外から侵入するには窓を割るぐらいしか方法はなさそうだ。

だが、窓を割るといっても、カーテンが閉められていて内部の様子は確認できない。割った窓の先に一般乗客が居たなんてなったら、笑い話にもならない。


どうする。ユグに開けてもらうにも、連絡がつかないってことは携帯はきっと取り上げられているんだろうし。


俺は考えあぐねる。猶予も余りあるとは言えない。こうなれば。


窓をノックして、犯人を誘きだそう。様子を見に、犯人がカーテンを開けるかもしれない。そこを狙ってバリーン、だ。


ちょっと粗っぽい気もするが、これぐらいしか方法が思い浮かばない。ここはなんとか、主人公補正に助けてもらうとしよう。俺の人生の主人公は、いつだって俺なんだからな!


早速、機動隊のひしめき合っているのとは反対側の窓に回る。なるべくバレないように。


裏に回ると、適当な窓を選ぶ。車両三台のうちの、一番前の車両の窓だ。まずは運転して逃げられないように逃走の足を潰す。


俺は一度深呼吸をした。


右手を窓に当て、甲で二度ノック。しばらく待ってみるが、中に動きは見られない。

再び二度ノック。反応なし。

さらにもう一回。ついに反応があった。カーテンが揺れ、銃を構えた男が顔を除かせる。


視線がぶつかる。


「やあ」


にこやかに挨拶をする。男は、照準を俺に合わせて警戒を強くした。明らかに、こいつは犯人の一味だ。


俺は窓ガラスを殴った。ついでに、男にも拳を届かせる。あくまでも、ついで、だ。


ガラスを割った窓から車内に侵入する。俺の皮膚(物理耐性)は強いから、ガラスの切れ端に触れてても傷一つ付かない。便利な体だ。


車内に入った俺は、周囲の様子を見回した。


この車両には、犯人は三人。きっと、運転室の方にも、一人か二人は居るだろう。

すると、大体五人か。で、今一人倒したから、最大でもあと四人。


今、俺の前にいる二人は、銃口を俺に向けた。その目には、困惑の色がある。


物音に駆け付けて人数が増えるのも嫌だから、取り合えず、二人には寝ててもらおう。


素早く犯人の一人の背後に回り、うなじを手刀で叩く。もう一人。

ゴトリ、と音をたてて、声をあげる間もないうちに二人は沈んだ。


殺してはいない。意識を刈り取っただけだ。


周囲の乗客が、唖然として俺を見上げる。俺は、人差し指を立てて口の前に置いた。静かにしてて。

乗客達が、口を開けたままコクコクと頷く。それでいい。


俺は次に、運転室を覗きに行った。


運転室と一般乗客の乗車空間の間にあるドアには、一部ガラスが嵌め込まれていて、互いの状況が見えるようになっている。

そこから、俺はこっそりと運転室の中を覗いた。


予想通り、犯人と見られる男が一人、床に座った運転手や乗務員達を前に銃を向けている。


このドア、普通に開けられるのかな?犯人は侵入してるんだから、俺も入れるよな。取っ手に手をかけてドアを開ける。普通に開いた。

室内の全員の視線が俺を向く。毎度の事だな。


「どうも。ちょっとお邪魔します」


軽く会釈をしてみた。礼儀は大切だ。


犯人が、俺に銃を向ける。


「誰だ!貴さッグゲェッ!」


男の構える銃の銃身を握り、左へ反らす。空いた右手で、男の首を掴み軽く力を入れた。


気を失い、倒れ込む犯人。


「お邪魔しましたー」


状況を飲み込めていない乗務員達に再び挨拶をして、部屋を出る。


さて、次は二両目のお掃除だ。


ご意見・ご感想よろしくお願いします。


次回更新は土曜日です。

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