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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
16/119

15th story 両親

最大の敵がやってくる。


奴は、俺達を直接攻撃することはない。だが、時に数週間、時に数ヵ月、俺達を束縛し、ジワジワと精神をいたぶってくる。


奴から逃げる事は簡単だ。だが、どれだけ逃げたとしても、奴はさらに進化して、数ヵ月後に俺達の前にひょっこり顔を出す。

俺達が学生である限り.......


定期考査


俗に言う、定期テストだ。


テスト勉強?何それ。美味しいの?え?不味い?なら、いらないや。俺は部活やってるよ......

え?何?今日がそのテストなの?ふーん。俺、なんにも勉強してないや。


とまあ、そういうわけで、第一回定期考査。

大爆死です。うん、もう勉強諦めよう。俺“勇者”だから!勉強とかより大事なことあるから!

え?テストで点とらないと進級できない?それは.......ちょっと困るな


いや、でも!もう来週キャンプだから!部活に打ち込むんだい!ぼかぁ!


その重い足を部室へと向ける。今から二週間前に“はじまりのやま”

と、そこに生息する生物についての勉強が一通り終着を見せ、先週からサブマシンガンの立ち回りの実践指導を受けている。

銃なんて、生まれてこのかた初めて扱ったよ。アニメとか映画とかでちょっと憧れもあったけど、実際に持ってみると恐怖しかない。今、自分はいとも容易く命を刈り取れる物を持っているんだって。


何故、サブマシンガンなんて扱うのか部長に聞いてみたら、そのうちにまた起こるであろう魔族との戦争のため、らしい。


そういえば、そうだったな。俺らが“勇者”と呼ばれる由縁は、ただ身体能力が高いからとかじゃないんだよな。

魔族との戦争で、強力な戦力になりうるから“勇者”なんだよな。


勇者適性者とか言われて調子にのってる節もあったけど、そう考えると悲しいのな、俺の運命って。


「やあ、シェル君。テストはどうだった?」


「お、サルゴン。おっす」


部室の前でサルゴンに出会う。テストの話題には無反応だ。絶対に触れてやるもんか。


「悪かった。悪かったよ。もうその話題には触れないよ」


何だか、物分かりが良くなってりゃしないか?こいつ。


しばらく沈黙が流れる。


「なあ、サルゴン」


「なんだい?」


部室内で服を着替えながら、俺は尋ねる。


「よくよく考えると、俺達って、そのうち戦争に行かされるんだよな」


「まあ、そうだね。戦争が起きれば、招集されるだろうね」


「“勇者”として覚醒したら、否が応でも銃を持たされるんだな」


「何が言いたいんだい?」


サルゴンが、上裸で俺の方を見る。はよ上きろ。


「魔族ってさ、遠目から見たら、人と見分けがつかなかったりするじゃん。いざ、戦場に立って魔族撃ったら、人撃ってるみたいで嫌になりそうだなぁって思ってさ」


俺の言葉に、サルゴンが溜め息を一つ。


「シェル君、聖書をちゃんと呼んだことあるかい?」


“聖書”


アクピス教の教典だ。人類史上最も売れた本と言われている。一家に一冊、いや、ドーンと三冊ぐらい!と、どっかのTVでやってたな。その普及率は、二家族で一冊ぐらいな感じ。

中学校に通っていれば、一度は必ず読む物だ。勿論、中学校に通っていた俺は読んだことがある。


「魔族が人に似ているなんて、恐ろしいこと言わないでくれ。あれは異形の化け物だよ。人とは全く違う。人の方が何倍も高等だし、優しいし。あれはただ、力を振りかざしてるだけじゃないか。それに、聖書の中でピシウス様も言ってるだろ?『彼等は私を裏切った。彼等は私の敵である』って。ピシウス様の敵は人類の敵だ。ピシウス様を裏切ったものが、人に似ているわけないだろ?」


駄目だこいつ。完全に手遅れな盲信者だ。目が可笑しいぞ、サルゴン!戻ってこい!


「それに、今度のキャンプじゃ野生生物を相手にするんだ。きっと魔族でも問題ないさ。大丈夫だ、シェル君。このキャンプを乗り越えた暁には、君にもきっとピシウス様の加護がつくよ!」


そうだな。どうして不確定未来の魔族を殺すという行為に不安を持って、この後のキャンプでほぼ確定的に行う多種生物の討伐には違和感を覚えなかったのだろう。


やっぱり、俺の考えが間違ってるのかな。





ユグ:なーシェル 8:54


シェル:?どーした? 9:09 既読


ユグ:土曜日カラオケ行こーぜー 9:09


シェル:そういえば、前そんなこと約束したな 9:10 既読


ユグ:おう 9:11


シェル:いいけど 9:11 既読


シェル:午前は部活あるよ 9:11 既読


ユグ:おう、俺も 9:12


ユグ:だから午後行こーぜ 9:12


シェル:了解。集合場所と時間は? 9:13 既読


ユグ:駅前に二時でどうだ? 9:14


シェル:おーけー 9:16 既読





「母さん、土曜の午後、駅前に出掛けてくる」


無料会話アプリでのユグとのやり取りの後、家の台所で夕飯を作っている母さんに予定を伝える。


「うん。お昼は?」


手元から目を話さずに受け答えする母さん。


「食べてから出てくよ」


「何?デートにでも行くの?」


楽しそうな顔で、初めて俺の方を向く。


「ちげーよ。早くそうなりたいけど、そうであってほしいけど、ちげーよ」


「なぁんだ」


急に興味を失う母さん。そう言われてもなぁ。男とデートなんて趣味は、俺にはないんだし。


「でも、土曜日は駅前、宗教演説やってるから、混んでるかもしれないわよ?」


エレナ・クライマン


ついには、年齢が四十代に突入したのにも関わらず、その肌は衰えることを知らず。流石に、年相応の落ち着きを見せ始めたかにも思えるオーラも、まだ若い頃の母さんを知っている人から見ると、大人の妖しさというのが増したようにも思える。


写真で見た限り、昔から母さんは超美人だ。


どうしてあんな冴えない親父と結婚したのか理解できない程に。


どうしても気になるから、二人に馴れ初めを聞いてみたりしたこともあるのだが、親父は急に戸惑い出して話を反らそうとするし、母さんは、何を思い出したのか頬を染めてデレ始めて話にならなかった。


結局、未だに親父と母さんの交際、しいては結婚のきっかけは不明のままだ。


「そうだ。シェル、もうすぐご飯できるから、お父さん呼んできて」


「親父?どの部屋に居るかな」


母さんに頼まれ、俺は親父を呼びに家の研究区域に向かった。


この家は、住宅兼研究所という不思議な建物だ。研究所といっても、余り大きなものではない。広さとしては、バスケットボールのコートが悠々と一つ入る程度だ。構造は、居住区域三割五分、研究区域七割五分といった感じだ。


居住区域と研究区域の境界に到着する。今、俺は何らかの金属でできた扉の前に立っている。

この扉が居住区域と研究区域を分断しており、容易には行き来できないようになっている。というのも、泥棒等に侵入されないためのセキュリティである。


扉には指紋認証型のロックがかかっていて、これを解錠できるのは俺と両親の三人だけだ。ちなみに、居住区域の玄関も同じ構造で、玄関とは建物の反対側にある研究区域の入り口は、俺等に加え研究区域で働いている研究員に解錠が可能だ。


扉の横に付けられたモニターのようなものに右手の親指を押し当てる。


やがて、ピピッと電子音がして扉が静かに開き始めた。


扉が開ききるのを待たずに、俺は研究区域に足を踏み入れる。目の前に現れたのは、数十メートルに続く直線的な廊下だ。廊下の脇には、等間隔で扉が並んでいる。左側には三つ。右側には六つ。


俺は、右側の一番手前にある扉に進んだ。扉の横にはモニター。この部屋一つ一つにも指紋認証型のロックがかかっていて、これらも研究員全員が解錠可能になっている。そして、各部屋の解錠者、つまり、使用者の名前が、そのモニターに映し出される。誰が中に居るかが、大体分かる仕組みだ。


一つ目の部屋。モニターには何も映っていない。使用者なしだ。

次に俺は、左側の一番手前の扉のモニターを見る。


使用者なし。次の扉に移る。使用者なし。次、研究員の誰かが使用している。次、使用者なし。次......


廊下を半分ほど進んだ辺りで、やっと親父の名前を見付けた。


“エデル・クライマン”


と、モニターにはそう表記されている。俺は、モニター下の指紋認証機に再び親指を触れさせた。電子音と共に扉が開く。


その部屋は、研究員の誰もが自由に使える部屋だった。


大型の机が二台、小型の机が五台。小型、といっても、学校の教室にあるような生徒用の机四台分ぐらいの大きさはある。


部屋の一番奥にあるその小型机に、入り口に背を向けたまま座って顕微鏡を覗いている人物が一人いた。


寝癖をそのまま放置しているのであろうボサボサの髪に白衣を纏った、百七十センチ程のその男こそ、俺の親父、エデル・クライマンだ。


「親父、飯できるって」


俺が声をかけると、親父はビクリと肩を震わせた。勢いよくこっちを振り向く。


「......なんだ、シェルか。驚かさないでくれ」


明らかにホッとしたような顔を見せる親父。


「いや.......俺驚かすようなことしたか?」


「え!?嘘!?俺以外に誰も居ないはずの部屋で急に声をかけられたんだよ?フツーにビビりましたよ!?」


「........どんだけビビりなんだよ......」


親父が残念である要因の一つ。必要以上に、ものすごーくビビりだ。


「そ、それで?夕飯ができるのか?」


「ああ。冷めないうちに来ないと、俺が食っちまうからな?」


「分かってるよ」


残念な要因その二。親父は研究バカだ。


一度何かの研究に没頭してしまうと、それが一段落つくまでは、研究室からてこでも動かない。食事も、睡眠も、トイレも忘れて、ひたすら机に向かい続けるのはそう珍しくないことだ。


最近は特に酷く、どんな研究内容なのかは知らないが、連日目の下にくまをつくり、ヨタヨタと歩き回る程に疲弊している。


「あと五分ぐらいで一段落着きそうだから、先に行ってて」


「昨日も同じこと言って、結局二時間かかったじゃねえか......」


「大丈夫だ。今日は行くよ」


まあ、親父がそういってるんだ。親父の好きにさせよう。


俺は親父を置いて部屋を出た。

ご意見・ご感想よろしくお願いします。


次回更新は水曜日です。

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