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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
15/119

14th story “部長”というキャラ

「ちっ!使えない奴等だ」


戦闘自体には全く関わらなかったシス・ムガルが、倒れ伏すガチムチ×6に悪態をつく。


「で?お前はどうするんだ?」


部長がシス・ムガルに尋ねる。


「フン。精々調子にのっていろ。今度はこの十倍ぐらいの戦力を連れてきてやる。覚悟しとけ」


うーん。十倍の戦力で、果たして先輩方に勝てるかどうか。覚悟するべきは、お前の方だと思うぞ。


何やら勘違いをしているシス・ムガルは、俺達に背を向けると歩を進めた。


「逃がしていいのか?セム」


アグル先輩が、不満顔で部長に尋ねる。


「ああ。あいつは、ムガル財閥の息子らしいからな。下手に手を出したら、裏で暗殺されるかもしれない」


「そんな大袈裟な」


アグル先輩が笑う。


「そう思うか?身分階級制度はなくなったとはいえ、大金持ちの連中は、まだ自分達の社会的立場を気にする傾向にある。大金持ちっていうのは、大半が元貴族だからな。そういう奴等は、裏で色々働く人間を雇ってたりするものさ」


「そうなのか?まあ、俺も詳しいことは知らんからな。一概に否定できねえでな。だが、今回だけだぞ?次来たときは容赦しねえ」


「分かってる」


元貴族の金持ちってそんなヤバイのか。俺とか部長なら、対処できるんじゃ?


「さて、部活に戻らねーとな」


部長が、口調をいつものトーンに戻す。


「いや、こののびてる奴等はどうするんだよ。ほっとくのか?」


そういえば、ガチムチ×6の存在を忘れていた。持って帰れよ、シス・ムガル。こいつらを叩き起こして自力で帰れって言うのは出来るけど.......流石にそれは鬼だよな。


「ほっとく?ほっといちゃう?」


部長が楽しそうにする。いや、駄目でしょ。一応、他校の生徒だろ。


「スサノオ先生は、今日来てないんですか?」


「用事があるってさ。来てない」


まあ、そうだよな。来てたら、ハルさんが呼んでくれたはずだよな。勇者ではないとはいえ、顧問だし。


「やっぱり、ほっとけばいいんじゃね?先生呼びに行くのも面倒だし」


何かテンション高くないですか?部長。


俺か部長の言動に首を捻っていると


「部長ー!先生連れてきましたー!ってあれ?もう解決しました?」


ハルさんが先生を連れて小走りでやって来た。連れているのは、俺の知らない先生だ。


「おお、流石だな。しかも、ナイスタイミング」


部長が褒める。いや、本当流石です、ハルさん。出来る人。


「それで..........喧嘩............と聞きましたが」


ハルさんに連れてこられた先生が、息を切らしながら尋ねる。百六十五センチ程の、男性にしては小柄な身長で、眼鏡をかけている。まだまだ若そうだ。ワイシャツの肘元まで捲っていて、下はスーツのズボン。理系な雰囲気の先生だ。


俺は思う。


ハルさん.........何故こんな軟弱そうな先生を喧嘩の現場に連れてきたんだ.......


「ああ、もう解決しちゃいました。で、後処理の話なんですけど。ここにのびてる他校の奴等、どうしますか?」


先生が周りを見渡し、倒れているガチムチ×6に気付く。


「んー。色々君達に聞きたいこともあるけど.......ちょっとこの事は、僕一人じゃ判断しかねるなー。教頭先生辺りじゃないと、事態そのものの解決には至らないと思うよ」


え。そんな大事なんですか。喧嘩なめてた。正当防衛とはいえ、俺らは無傷だからなー。説得力に欠けそうだ。


今度、こういうことがあったら、一発殴られておこう。

俺は、見当違いなことを思うのだった。





「今月末、部員の中で、勇者として覚醒している者と、俺と先生とで抜擢した数名の適性者で、一泊二日のキャンプに行く」


部員達が集合する前で、部長が語る。


「キャンプ地は、ここから四百キロ程北に進んだところの“はじまりのやま”だ。何だか、どっかのRPGで序盤に登場しそうな名前の山だが、その名に反して、色々厳しい山だ。地形もそうだが、何より問題は別にある。ここには、生身の覚醒勇者が二、三人束になってやっと倒せるといったような猛獣.....というか化け物かウジャウジャと住み着いてる。まあ、そういうやつらを数匹倒しに行くぞ、とぶっちゃけそういう話だ」


それにしてもこの人、戦闘時以外じゃこの喋り方の姿勢中々崩さないよな。


「で、覚醒してる奴以外でこのキャンプに行く奴だが。呼ばれた奴前に出ろー」


三年、二年と一学年二・三人ずつ名前が呼ばれていく。


「一年から。シェル・クライマンとサルゴニア・コシチューシコ。以上、七名だ」


名前が呼ばれたので先輩方にならって前に出る。まあ、どうせ俺は呼ばれると思ってたよ。ドヤ!!


「はい、拍手ー」


パチパチパチと部長が手を叩く。他の部員は皆、なんだか呆れたような表情で憮然と拍手をする。そりゃそうだよな。このテンションにはなかなか付いてけないよな。


「この七名と、覚醒勇者六名の十三名がキャンプ行きだ。期間は二十七~八日の二日間。その他詳細は、またおいおい連絡するな」


待てよ?さっき部長、猛獣を倒すって言ったよな.........素手でやるの?殴り合いとかするわけ?猛獣と。


「それじゃあ、キャンプメンバーはこれからキャンプまで別メニューだ。獣の殺り方確認するぞー。こっちこーい」


部長が先陣を切って部室から出ていく。俺達残りの十二人は、ゾロゾロとその後を付いていった。


大体育館の横を通り、部室棟の手前で右に曲がる。

その先に見えてくる第六校舎に部長は入っていった。

魔法使いと勇者適性者以外の、一般の一年生のコースの校舎だ。


部長は、一番手前の適当な教室へ入った。


「適当に座れー」


部長が教壇に立つ。先輩から先に座らせるのが礼儀のような気もするので、俺とサルゴンは全員が座るで待つ。案の定、みんな教室の後方に固まって座る。もう前しか空いてねえ。


「おいおい、お前ら。積極性がねーなぁ。ほらほら、前に詰めろ!始らねーぞ」


ゾロゾロと先輩方が席を移動する。今度は後ろの席が空いた。サルゴンと一緒にそこに座る。


「よし、いいな。これから勉強するぞー。勉強するのは猛獣.....獣との戦い方だ。キャンプ地の“はじまりのやま”に生息する主な獣とその生態、殺り方について等を二週間で頭に詰め込まなきゃなんねー。いいな?」


コクリ、と数人が頷く。


「おいおいおいおい。あんまりやる気が見えねーな。まあいいや。時間もそんなにないから、もう始めるぞ。あー、そうだ。明日からはノートと筆記用具持ってこいよ。簡単に覚えきれるような量じゃないからな」


部長は、白チョークで黒板に“はじまりのやま”と書いた。


「まあ、だから今日はあんまり情報量の多くない話をしなきゃな。“はじまりのやま”の概要を説明するな」




“はじまりのやま”



標高四千二百十七メートルの大型の山。


その、某RPGに出てきそうな名前の由来は、“ピシウス ”と人類が初めて邂逅した場であることから。


その過酷さから、独自の進化を遂げた生物が多数存在。


他地域の生物に比べ、かなり危険。


獰猛な野生生物の巣窟で、それらは生身の覚醒勇者二人以上の戦闘力を持つ。


未踏破地域多数。



おおよそ、部長の話をまとめるとこんな感じだ。変な方向へ話が脱線したりしたせいで、これらを語るだけで二時間が経過していた。

取り合えず、滅茶苦茶危険だと言うことは理解できた。

なんちゅう所に生徒を行かせようとしているんだ。イカれてないか?この学校。


「最後にー。この凶暴な獣達をどう殺るかだが。今年は素敵な物が支給されるぞ」


ニヤリ、と部長がわざとらしく笑う。先輩達が騒ぎ出した。何だろう。アレだろうか、これだろうか、と何だが物騒な単語が先輩間で飛び交う。


「今年はー!」


そのざわめきに負けないよう、声を張り上げる部長。全員が口を止めて部長に視線を集めた。


「一人につき、サブマシンガンを一台ずつ貰えるぞー!」


おー!と、一人拳を天井へ突き上げる部長。調子に乗りやすい人だなあ。


というか、サブマシンガンですか。一学生にサブマシンガンなんて支給しちゃうんですか。小型機関銃ですよ、それ。


“はじまりのやま”の野生生物より、教育委員会の方が危なくない?なに考えてるんだよ、あのじいさん。

俺はジグル教育委員長を思い出す。


いや、待てよ。とはいっても子供に与える銃だ。きっと、弾は“はじまりのやま”の生物以外には無害とか、そういうやつなんだろ!


「分かってると思うけど、一応言っとくと、間違えても人に向けるなよー。下手に当たると、即死だからな。まあ、俺らは避けようと思えば避けれるけどな。不意打ちとかだと、もうそのまま永遠にさよなら、になるかもしれないから」


部長、フラグ回収早すぎです。

次回、最大の敵が登場します。


ご意見・ご感想よろしくお願いします


次回更新は土曜日です。

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