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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
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12th story アオナ・ハル

「え、起源1579年。人類は魔族を統治するべく、魔境へ軍を送り込みます。何故軍を送り込んだか、事の発端はその数ヵ月前に起こりました。魔族を発見した人類は、魔族に人類に従うよう言いました。しかし、魔族はそれを使節を殺害するという形で拒否しました。

これに怒った当時の人類は、魔境へと軍を進行。史上初の人類と魔族の争いへと発展しました」


今日はいい天気だ。陽気が心地いい。先生の喋る言葉も、夢の世界へと俺をいざなってくれる。


“武術部”って、結構疲れる部活だ。色んな体の構造を教わっては、より効率的に人を倒す、組伏す、殴る蹴る......

基礎中の基礎らしいが、今年は例年に増して、かなり過激らしい。

それもこれも、マネージャー......回復要員の存在があるからだ。


実際、ハルさんは凄い。骨折程度の怪我なら、なんの問題もなく治してしまう。

まあ、呼称がさん付けなのは......察してくれ。


「魔族は、人類よりも総じて高い戦闘能力を持っていますので、この争いは人類の敗戦で幕を閉じました。しかし、ここからが、今に続く人類と魔族との長い争いの始まりです」


歴史の授業って嫌いなんだよなあ。大体、教材の根本が宗教の教典から作られてるんだから。一方的な宗教の価値観を押し付けられてる感じがするんだよな。


今や人類の隅々に至るまで浸透している宗教。“アクピス教”


教祖は人類の創生神“ピシウス”という存在そのもので、信仰対象もまた、“ピシウス”だ。総本山が人類領域のほぼ中間にある。ここからだと、大体車で二時間ほどで到着するような場所だ。


現在、この他には宗派も、宗教も存在しない。


というのも、過去には幾つかの宗派や宗教があったらしいのだが、いつの間にか、気付いたらこの“アクピス教”だけになっていたらしい。


人類至上主義を掲げている宗教だが、実際、そこまで表立って活動しているわけではないから、あまり悪い印象というのはない。

その教えにはたまに色々思うこともあるが、別にそれがどうした、というわけでもないので、スルーだ。

そもそも、全人類に浸透はしているが、心から信仰しているかどうかは別問題だし、アクピス教も、それについて深く言及はしていない。


「そして、その二年後のことです。人類初の“勇者”、キケロ・ヴァルギルが誕生しました。この年から、年号は旧暦となります。当時はまだ旧暦とは言わなかった、ということは押さえておいて下さい」


“勇者”という単語に、クラス中が反応する。流石は“勇者コース”だ。


「余談ですが、ここ十数年“勇者適性者”の数が、これまでの史実からして異常なまでに増加していますね。これまでは“勇者適性者”が数十年に一度、“勇者”が百数十年に一度ぐらいの割合だったのですが、現在はご覧の通り。“勇者コース”なんてのができてしまう。現在、年間にして数百人の“勇者適性者”が誕生しています。異常ですよね。世間は、この現象を“豊作の時代”と呼びます。まあ、二年生の最後の方で習うことなので、今は覚えておかなくて結構ですが」


そのことについては、少し前から違和感はあった。何故“勇者コース”なんてものがあるのか。もはや突然変異と言っても差し障りのないはずの“勇者適性者”が、一学年でそう何十人と集まるなんてあるのだろうか。


だから俺は、“勇者”という名の戦争に長けた兵士を育成でもするのかもしれない。本物の“勇者”に近付きたいという願いを込めて、その名前を付けているのかもしれない、と一人納得していた。

まあ、子供の頃から俺はこういう身体能力だったから、こういうのが集まってるんだろうな。だとすると、本物の“勇者”って、滅茶苦茶凄いんだな、と思っていたんだが........


どうして、この世代に“勇者適性者”はこんなにも居るのだろうか。両親なら、何か知ってるかな。




先生の話はまだ続く。寝ていいかな.......








「またですか?よくも飽きずに毎日できますね」


部活中、部室の外で長座の姿勢をして座り込んでいる俺と、罵るハルさん。

別にサボっているわけではない。できればサボりたいと最近思うようになってきたが、部長がそれを許してくれるはずもなく......


今日も、部長と組手をしている途中で左足を骨折した。ハルさんの言うように、またである。


入部して以来ずっと、俺は部長から直接指導を受けている。これが従来なら、俺ら一年生は二年生から習うのが伝統なのだが、俺だけ特別に、部長が直々に手施しをしてくれている。

部長曰く、それだけ俺に期待している、ということらしい。


だが、そのトレーニングがえげつない。“武術部”に入部して最初に習う間接技や正拳突きといった、人体理解を必要とする体術。これらの技を、部長は遠慮なく俺に叩き込んでくる。正に、体で覚える、というやつだ。

この方法が効果的かどうかは分からない。単純に、部長が楽しんでいるだけかもしれない。というか、そうとしか思えない。


昨日は肩を外されたし、一昨日は骨折と裂傷だったし...........今日もまた、骨折だ。


「いや、俺もな。怪我したくて怪我してるわけじゃ」


むしろ、怪我なんてしたくないよ。いくら結果的には治癒魔法で治るっていったって、怪我するときは痛いんだし、何か幻覚的な痛みが続くし。

ハルさんが溜め息を吐く。


「分かりました。治せばいいんでしょ」


「はい、お願いします」


何だかんだ治してくれる辺り、ハルさんは優しい。まあ、こんなこと本人に言ったらぶん殴られるけど。


いつものように、ハルさんは患部に手をかざし、詠唱する。簡単な治癒魔法は、最初に少し詠唱をするだけで、後は手さえかざしておけば効くらしい。効果を大きくしたり、より上位の治癒魔法を使うには、もっと長い詠唱が必要だと言っていた。

骨折を治すのが簡単だとは、俺には到底思えないけどな。


「ハルさんは、どうしてマネージャーをやろうとしたの?」


無言というのも気不味いので話しかけてみる。


「それ、貴方に教える必要ありますか?」


ハルさんは、患部から目も離さずに答えた。


あ、会話終わった。


まあ、ハルさんがマネージャーになった理由は大体想像がついている。

先輩達は除き、ハルさんが丁寧な対応をする一年生は一人だけだ。


ここ数日の経験からして、あと数秒で治療も終わるだろうという頃、こっちに近付いてくる足音がした。誰だ。


「随分と、学生生活を満喫しているようだね、シェル・クライマン。そんなんで君は“勇者”に覚醒できるのかね?」


そう言って、部室脇から俺の前に現れたのは


「別に覚醒していなくても十分な戦力になるからいいんだよ、俺は。そんなことより、そろそろ五十メートルぐらい三秒台前半で走れるようにはなったのか?シス・ムガル」


「あんな競争、なんの指標にもならないね。僕の実力は、もっと凄いんだ」


「自分で自分を強いとか言っちゃう奴って、大体弱いのが相場なんだけど。そこんとこどうなの?」


自分で自分を強いとか言っちゃう奴.........なんだろう。自分で言っといて、スゲー心にグサッときた。


「誰?こいつ」


いつの間にか俺の治療を終えていたらしいハルさんが、俺に尋ねる。俺は骨折していた左足を動かしてみた。うん、問題ない。


「シス・ムガル。ムガル財閥のお坊っちゃまだよ。勇者適性診断の時に、俺に勝負吹っ掛けてきて、挙げ句俺にボロクソに負かされた奴だよ」


「そう...........まあ、貴方に勝てる人の方が少ないから」


「サルゴンでもか?」


「何が言いたいのよ」


キッとハルさんが睨んでくる。はい。ごめんなさい。


「それで?何の用だよ」


気を取り直して、俺はシス・ムガルに向き合った。


「そう、確かに俺はお前に勝てなかった。だが、だからと言って調子に乗られたり、今のように僕の敗北を言いふらされても困る。そこで、だ」


シス・ムガルが右手を上げる。すると、部室の影から、ゾロゾロとガタイのいい人達が六人出てきた。


「宝凰胤学園の覚醒勇者達さ。この数を相手にしたら、流石の君も負けるだろ?」


確かに、雰囲気からしてヤバそうな奴ばかりだ。だが本当、数に頼る辺り、まだまだ馬鹿だ。


「ハルさん、部長とアグル先輩呼んできて」


正直、俺だけでも十分に打開できる状況だ。だが“武術部”の一部員である以上、下手に事を起こすのは気が引ける。なるべく和解で済ませたい、というのが俺の本音だ。

とはいっても、目の前に居るのは、見るからに血気盛んなガチムチ×6

だから、話し合う際に巨人、アグル先輩が居れば、抑止力になるのでは。そう考えての言動だ。


「分かった」


ハルさんが、駆け足で部長達を呼びに行く。シス・ムガル達か居るので、回り道をして、だ。


だが


「おっと、人は呼ばせないよ」


ガチムチの一人が、その身体能力でハルさんに詰め寄り、腕を掴んだ。


「きゃ!ちょっと!離して!」


ハルさんが抵抗するも、男の手は外れない。仕方ない。一暴れするか。


男との距離は五メートル程度か。俺は一瞬で距離を詰めた。この程度、造作もない。


さて、といざ男を殴ろうとしたその瞬間。


「離しなさいッ!!」


ハルさんを中心に、強風が吹き荒れた。いや、訂正しよう。猛風だ。


シス・ムガルやガチムチ×5の体が持ち上がる。うお、俺まで持っていかれそうだ。


俺は地面に這いつくばって堪えた。シス・ムガル達は次々と後方へ吹き飛ばされていく。


ハルさんの腕を掴む男も、飛んでいきそうになっていた。だが、その手を離さない。


「ああもう!鬱陶しい!」


更に風が強くなる。だが、男は意地で腕を掴んでいた。


「ちょっと!シェル!そんなとこで這いつくばってないで!助けてよ!」


ハルさんが俺に向かって叫ぶ。この風の中動き回れと........


「早く!私も、もうもたない!」


まあ、そうだな。いつも治療してもらってるしな。ここで無理してでも助けないと、カッコ悪いよな。


俺は、なるべく上体を起こさないように低重心でハルさんの元まで移動した。


ハルさんの腕を握る男の腕を掴み、手首のつぼを押す。

ギャッ!と叫んで、男はハルさんの腕から手を離して飛んでいった。

俺は、ハルさんが自分で作り出した風によって飛んでいかないように支えた。


やがて、風が収まる。

シス・ムガル達は、無様に地面に倒れ込んでいた。


「ハルさん、早く避難しな」


そのうちに、ハルさんを逃げさせる。ハルさんは、シス・ムガル達の方を気にしながら、今度こそ部室の方へ駆けていった。


それにしても、凄い風だったな。


これが魔法。


やっと出てきたヒロイン(?)&魔法使い


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次回更新は土曜日です

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