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Near Real  作者: 東田 悼侃
第一章 日常編
12/119

11th story 初戦闘

だだっ広い部屋の中央に、俺と部長が立つ。


制限時間なし。急所攻撃、武器使用禁止。俺がギブアップするか、部長に一撃でも入れれば終了。


一見、俺に有利な条件にも思えるが、実際のところ場馴れしている部長と全く戦闘経験のない俺とでは、むしろ俺の方が不利だ。もうちょっと条件は良くしたかったんだが、部長からは有無を言わせない口調で


「ん?」


という返答しか返ってこなかったもんだから、諦めざるを得なかった。


「君からどうぞ。ゴングなんて無いから」


相対したところで、部長が言う。先攻いただきました。策が何にも思い付かないので、とりあえず突っ込んでみたいと思います。


クライマン、行きまぁーす!


初っぱなから全力で行く。相手は武術部の部長なのだ。手を抜いたりしたら、一瞬で決着はついてしまう。


躊躇うことなく、俺は最初の一歩で思いっきり加速した。一気に部長の懐まで接近する。そして、腹へ向かって強烈な打撃を入れた。


.....はずだった。


ヒュッ!と俺の拳が空を切る。


「危なかったー。予想以上に速いな。やっぱり、身体能力が抜群だね」


俺の拳は、部長の左の空中を殴っていた。マジかよ。今のを避けたのか。


伸ばした腕を引っ込め、すかさず左足で蹴りを繰り出す。だが、俺の蹴りが当たるよりも速く、部長は俺の視界から消えた。

跳んだか、と頭上を見上げたが、天井しかない。次の瞬間、俺の足がすくわれた。


しまった。まだ蹴りを繰り出した体勢のままだ。俺は、背中から床へと落下の道を辿る。


不味い。背中から落ちるということは、間違いなく動きが一時的に制約される。受け身をとっても難しい。となると、どうにか空中で体勢を立て直すしかない。


俺は、右手を床へ伸ばした。床に手が着き、次には体が床に着地しそうなそのギリギリを狙って、無理やり右手だけで跳ねる。頭の方、立っていたときの状態で言うと後方へ、回転をつけながら跳ぶと、今度は体勢を立て直し、両足でキッチリと着地した。


だが、前方に部長の姿は見当たらない。もしかして、と俺が背後を振り向こうとすると


「ブヘッ!」


脳天に、部長の踵落としが炸裂した。


「残念。正解は頭上でした。君が着地するあたりで、俺も跳んだんだよ」


踵落としの影響で、盛大に舌を噛む。鉄の味がする。唇の端から、赤いのが流れてきてるんですけど。

目から汗も滲んできたな。これは汗だ!汗だからな!異論は認めない!!


「どうした?急に俯いて。もう終わり?ギブ?」


部長が煽ってくる。この野郎。挑発耐性ないんだよ、俺は。


だが、かといって真っ正面から突っ込んでも、かわされてカウンターをくらうのがオチだ。ならば、部長が対処できない程のスピードで翻弄すれば。


俺は、その場から左方へ全力で跳んだ。左足で着地を決めつつ、右足で前方へ踏み込む。現在、右側に部長が見える状態だ。


俺はさらに右折し、部長の背後に回り込んだ。ブレーキを掛け、部長に突進する。だが、部長には当たらない。

上空に跳んだようだが、それは予想済み。ブレーキも兼ねて、俺も上方へ跳んだ。


上空で部長の姿を捉える。俺よりもさらに上に滞空している。もちろん、俺が控え目に跳んだ結果だ。純粋的な身体能力だけなら、部長にも負けない自信はある。


これで、部長よりも早く着地できる。俺は地面に着くと、頭上の部長目掛けて再び跳躍した。胴体ごとひっつかまえて、パイルドライバーもどきを決めてやる。


俺は両腕を広げると、ガバッと........空を掴んだ。またか、と上を見上げる。


トン、と無防備な俺の顔面に部長の足が下ろされた。マジかよこいつ。人の顔の上に立ちやがった。


だが、俺の手の届く範囲に居るのはむしろ好都合。足首取っ捕まえて逆に叩き落としてやる。


今度こそ、と腕を伸ばした俺だったが、見事に部長に顔面を踏み台にされ、更に加速して地面に落下する羽目になる。


部長はというと、俺の顔で更に跳躍した後、地面に無様に寝転がる俺の横に、笑顔で降り立った。


ドS野郎め。絶対いつかぶっとばしてやる。



「俺の勝ちー」


俺が上体を起こした頃、部長がそう宣言した。まあ、ギブはしてないんだけどね。誰がどう見ても俺の負けでも、ギブはしてないんだよね。


「さーて、どこから直させるべきか」


部長が伸びをする。


「先ず、だね、シェル・クライマン。君は自身の身体能力に頼りすぎている。突進型っていうのかな。分かり易いんだよ、パターンが」


「パターン.....」


「まあ、新入生の半分ぐらいはいつもそんな感じだな。戦闘時の行動の選択肢が少ないんだ。とりあえず突っ込んだり、読み易いフェイントだったり。相手がどういう行動をしてくるかも読みきれてない。実践経験が殆ど物を言うから、仕方ないって言っちゃ仕方ないんだけどさ」


そういえば、と俺は口内の痛みに気付く。俺、舌切ってたな。


「だから.....俺が引退するまでの残り半年程かけて、俺がみっちり仕込んでやるよ。基礎から何から」


ちょっとマッドな雰囲気でそう言う部長。どうせ断らせてくれないんだ.......諦めろ、俺。


「どうした?........ん、血ぃ出てるな。どこか切ったか?」


部長が俺の顔を覗き込む。やっと気付いたか。


「舌切りました。踵落としの時」


切ったというか噛んだというか。まあそこら辺はどうでもいいのだ。どっちだって、大して変わらないだろ?


「そりゃあ........ごめん。治療しなきゃな。ちょっと待ってろ」


部長は、俺を残して部室を出ていった。口内たから物理的な手当はできないし。

保険医の先生でも連れてくるのかな。



「ごめん、待たせた。」


室内の時計の針が十分程進んだ頃、やっと部長が帰ってきた。一人の女子を連れて。


「こいつだ。舌を軽く切ったらしくて。頼んだよ、ハル」


ハルと呼ばれたその女子は、部長の言葉に頷くと俺の前まで来た。


整った顔立ちをしている。綺麗、というよりは可愛い系か?襟元まで短く切った黒髪が印象的だ。小柄な体格をしているわけではないのだが、俗に言う小動物系の雰囲気がある。


一つ残念なのは、物凄く不機嫌な表情をしている、ということ。


「口、開けてください」


ぶっきらぼうにハルがそう言った。え、何?この子が治療してくれるの?この子武術部の子じゃないの?

不安になって、俺は部長の方を見た。俺の言いたい事を悟ってか、部長が無言で首肯く。


「早くしてください。治さないんですか?」


どうして不機嫌なんだ?部長に無理やり連れてこられたりでもしたの?色々と気になるが、怒らせると恐そうなので素直に従う。


「お願いします」


口を開ける。ハル........さんは俺の口の中を覗くと頷いた。女子に口内覗かれるのって、あんまり嬉しいことではないよな。口臭とか気になってくる。今朝ちゃんと歯磨きしたよな?


俺がそんな下らないことを考えている間に、ハルさんは目を閉じ、右手を俺の顔の前にかざして詠唱を始めた。


微かにハルさんの手が光る。数秒後、ハルさんが詠唱を止めると共に光が収まった。口の痛みも引いた。


「終わりました」


ハルさんは、振り返ると部長に伝えた。部長が頷く。


「ありがとう。悪いんだけど、みんなを呼んできてくれ。急がなくていいから」


「分かりました」


ハルさんは答えると、さっさと部室から出ていってしまった。完全にお礼を言いそびれた。


「彼女、魔法も使える“勇者適性者”なんですか?」


「いいや」


部長が否定する。


「彼女は“魔法使い”の適性者だよ。アオナ・ハル。変わった子だね。うちの部活でマネージャーをやってる一年だ」


「マネージャー、ですか」


「まあ、回復要員って言った方がいいかな。でも、マネージャーなんて開部以来初なんじゃないかなぁ」


そうなのか。今度会ったら、ちゃんとお礼を言わないとな。


「どのみち、俺にとっては良いことだ。ただでさえ怪我の多い部活だからね。これで俺も手加減せずに手合わせできる」


フフフ、と部長が笑う。


やっぱり何か可笑しいよ、この人。

戦闘シーンって、書き手の想像を文字にして伝えるのが難しいです。なるべく解りやすくなるよう、努力します。


ご意見・ご感想よろしくお願いします。


次回更新は水曜日です。

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