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Near Real  作者: 東田 悼侃
第四章 破壊編
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21st story 語られてきた真実・語り継ぐ真実

 それから、切り付けられた左腕の治療を受けた後で、俺は人類領域へと向かった。


 二人の魔王から借りた小型通信機と、人類領域の全域の電波を乗っ取れるレベルの、大型の発信器を積んだ船は、数日で人類領域へと辿り着いた。


 陸からは離れた沖合いの上で、俺は機械を作動させた。上陸してしまうと、放送の邪魔をされやすくなる。


 機械が、人類領域内を飛び交う全ての電波を検索し始める。その動作が終わるまでの間、機械のある船内の一室で、俺は放送機材の準備を進めた。カメラやマイクをセットし、全人類へ伝える内容を、もう一度反芻する。


 カメラを前にすると緊張するな――噛まないようにしないと。


 機械が、全てのネットワークを把握し終えたようだ。俺は、カメラとマイクに不備がないかを、もう一度確認した。それから、機械にカメラとマイクを繋げ、全てのネットワークに向けて発信した。


 各電波に無事繋がった事を、機械が知らせる。それを待ってから、俺は全人類に向け、語り出した。


「全人類のみなさん、こんにちは」


 震えそうな声を抑えながら、なんとか言葉を絞り出す。出だしから厨二病全開なことについては、言及するなよ。


「俺の名はシェル・クライマン。アクピス教に“悪魔”と呼ばれた、人類と魔族の共存を目指す者です」


 これを見ている画面の先の人々の反応はわからないが、おそらく、困惑しているだろうことは伺える。


「今回の“魔族討伐隊”は、俺と魔族の皆が撃退しました。その戦いの中で、アクピス教が公に持つ最高戦力、人類最強の男、ヒデ・ヤマトは死にました。もう、人類が頼りにできるものはありません」


 一息吐いてから、俺は続ける。


「さてと――――俺はみなさんに、真実を伝えに来ました。魔族の真実を。


 人類の、アクピス教が深く関与する現在の教育課程では、俺達は、“魔族は人類の憎むべき敵である”と教え込まれます。生まれたときから、幾度となく聞かされるそれに疑問を持つ人は、多くはないでしょう。1+1が本当に2であるかなど、気にしたところで何にもなりません。


 でも魔族は違う。彼らは、1+1=2などという、簡単な数式ではないのです。生きているのであるから、それらと並べてはならない。


 つまり何が言いたいかというと――魔族は、決して人類の敵ではない、と言うことです。彼らの姿や性格、民族性は、俺達が知っているものとは、真逆の性質であると言っていいでしょう。


 先ず、彼らは異形な化け物なんかではありません。俺達人類と同じ姿をしています。顔付きも、体格も、そんなに差はありません。肌が紫色であるという所以外は、人間と変わりありません。


 それに、彼らは全くもって好戦的ではありません。彼らの性格は、至って温厚です。俺は数年、彼らの輪の中で暮らしてきましたが、その間、彼らが喧嘩を起こしたり、対立したりすることは、ほとんどありませんでした。子供同士でも、人類ほど喧嘩は多くない。


 彼らは元々、争いを嫌うのです。けれど、人類が討伐隊を送り込んでくれば、愛する家族のためにやむを得ず戦う他ない。むしろ、人類の方が好戦的と言えます。彼らからすれば、危害を加えられさえしなければ、人類と共同で生活することには、何の抵抗もないのです」


 一度、言葉を切る。次に続ける言葉を脳内で整理してから、俺は続きを語った。


「そもそも、人類が魔族を憎まなければならない理由はなんでしょうか。アクピス教の教祖ピシウスが、かつて魔族に裏切られたから、と俺達は教わってきました。その当時の様子を知る術はありませんから、それを全否定することは出来ません。が、魔族の言い分も聞いてほしい。魔族からすれば、裏切ったのはピシウスの方なのです。そもそも、魔族とピシウスの関係は――――」


 その時、船の外で不審な音がして、俺は話を中断させた。窓から、外の様子を伺う。


 船の甲板に、十名近い男達が立ち並んでいた。どうやら、勇者達のようだ。俺は一度、カメラの前に戻った。


「アクピス教から客人が来ました。少々お待ちください」


 そうことわりを入れてから、俺は甲板へと出た。


「取り込み中だぞ。何の用だ」


 俺が尋ねると、中央に立つ男が答えた。


「放送を止めてもらおうか。素直に従えば、この船を沈ませるようなことはしない」


「あんたがリーダー?」


 その男に俺は再度尋ねた。そうだ、と男は首肯いた。


「あんたはどれぐらい偉いんだ?ピシウスが魔境へ出向いたことは知ってるのか?」


「な!?――何故それを!?」


 その男が、目に見えて狼狽える。


「さあな――――そのピシウスが帰ってこないのに、討伐隊は撤退し、魔族側の俺がこうやって人類領域まで出向いている。つまり、どういうことかは――――――分かるよな?」


「まさか―――いや、しかし...有り得ない」


「最高顧問に伝えておけ。ピシウスは死んだ、と」


 男は、言葉を失った。しばらくして、周りの勇者達に声をかける。


「ひ、引き上げるぞ!」


 何故だ、という不審の目で、勇者達が男を見る。男は、これは命令だ、とそれを抑え込んだ。勇者達が俺に背を向け、空を飛んでいく。魔法使いが混じっていたのか。


 彼らが完全に引き上げたのだと確認すると、俺は船内のカメラの前に戻った。


「お待たせしました。それでは、本題に入りましょう。


 端的に言います。魔族は、人類と友好的な関係を築き上げ、将来的には互いに共存することを望んでいます。これ以上の無益な争いは望んでいません。そこで、人類の中でも特に、魔族との共存を望んでいる者が居るのであれば、魔境へお連れしましょう。


 一週間後、人類領域西部のフロム岬で待っています。そこへ来た人を、魔境へ連れていきましょう。深く考えて結論を出してください。アクピス教によって教えられる魔族だけが真実ではありません」


 言い終えると、俺はカメラとマイクのスイッチを切り、ネットワークとの接続を離した。それから、床にどっと座り込む。まだ緊張が抜けない。手が震えている。



 指定した期日まで一週間。一先ず、彼に会いに行こう。

次回更新は水曜日です。

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