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Near Real  作者: 東田 悼侃
第四章 破壊編
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20th story イデア

「知りたかったことはそれだけだ。ありがとう、ピシウス」


 タムズがピシウスに礼を言った。ピシウスはそれに反応を示さない。


「それで、話は変わるんだけれど――ピシウス、一つ、提案があるんだ」


 キースが、右手の人差し指を立てて言う。


「僕達魔族と人類の争いは、もう二千年も続いているけれど」


「僕達はもう、疲れたよ。だから、この辺で止めにしないか?」


「人類と魔族、同じ星に生きるもの同士、仲良くやっていかないか?」


「無益な争いは、もう止めようよ」


 二人が、ピシウスに対し手を差し出す。しかしピシウスは、それを笑い飛ばした。


「残念だが、それは叶わない。俺を魔王にしてくれるとでも言うのなら、話は別だがな」


 魔王二人が顔をしかめる。


「――君はまだ、イデアの念を引き摺っているのかい?」


「もう百代以上も昔の因縁じゃあないか」


「俺達イデアの子孫にとっては、それが全てだ。そのためだけに、今日まで、このイデアの血が受け継がれてきた」


「“イデア・アカド”――――」


「どうしてそんなに、魔王の地位に執着する?何もいいことなんてないのに」


「頂点を取るためだ」


 ピシウスが言う。


「この星でもっとも大きな勢力を持つ魔族の王になれば、この星で頂点を取れる。それだけだ」


 二人の魔王は、溜め息を吐いた。


「そんな事のためだけに――――――」


「魔王の座は譲れないよ、君には」


「だろうなぁ」


 ピシウスが呟く。


「ならもう、話は終いだ。貴様らにもう話すことはない」


 そういうとピシウスは――――――――舌を噛み切った。


「な!?」


 何をしているんだ!?こいつ!


「やれやれ」


 二人の魔王が、再び溜め息を吐く。


「やっぱり、僕達には理解できないよ」


「自殺なんかして、それでなんになるんだよ」


 呆気なく、ピシウスは事切れる。俺は呆然として、その場に立ち尽くした。


「―――さて、撤収だ。ピシウスがこうなってしまえば、彼ら人類には戦う意味はなくなった」


「シェル、君も内陸へ戻るといい。イヴさんも待っているだろう」


 二人が同時に俺に顔を向ける。しかし俺は、首を横に振った。


「いいえ。俺はまだ帰りません。これから、もう一仕事してきます」


「?どういうことだい?」


 二人が首をかしげる。


「人類の中には、魔族との共存を望んでいる人も、少数ですが存在します。ピシウスが死に、アクピス教の権威が失墜した今なら、そういった人達を取り込むことが可能です」


「本当か?」


「ええ。いくつか手助けさえしてもらえれば」


 ふたりは、しばらく押し黙った。


「俺達の夢の実現に、一歩前進できます」


「まあ、それは喜ばしいことではあるんだけど――」


「手助けと言うのは、具体的には何が必要なんだ?」


 タムズの問いに、俺は答える。


「人類領域全域の電波をジャックする手段。それと、こちらへの移住を希望する人達の搬送手段の二つです」


「まあどちらも、手段はあるが―――」


「今から行く気なのかい?」


「ええ」


 俺は頷く。


「人類最強の肩書きを持った男が死に、アクピス教のバックアップであったピシウスも死んだ。勝てると確信していた遠征の失敗に、人類は混乱するでしょう。その騒ぎが冷めないうちがいい」


「まあ、魔族の最大の危機は去ったからねぇ」


「問題ない――――かな?」


 二人が、顔を合わせて頷く。


「なら、行ってくるといい」


「手助けはしよう」


 二人の答えに、俺は顔をほころばせた。

次回更新は土曜日です。

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