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Near Real  作者: 東田 悼侃
第四章 破壊編
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18th story 血戦

 ピシウスは、ダラリと両手を下げて、脱力状態にあった。俺は両手に剣を構え、ピシウスの隙をうかがった。だが、どこを攻めても、攻撃を返されるイメージしか湧かない。


「来ないのか?」


 ピシウスが、甲冑の下から俺に尋ねた。できるものなら、既にやっているよ。


「ならば―――こちらから行くぞ」


 不意に、ピシウスの剣先が俺に伸びる。俺はそれを真下へと叩き落とした。それによって生じたピシウスの隙を狙い、懐へ飛び込む。その胴めがけて、俺は剣を振るおうとした。しかし、ピシウスの空いた左手が俺の首に伸びる。俺は咄嗟に前転をすることでそれを回避した。ピシウスを通り越す。俺はもう一度回転してから立ち上がった。既に、ピシウスの反撃が迫っている。二本の剣を使って、俺はそれを受け止めた。


 あれ?さっきよりも、対応が簡単だ。俺は不審に思い、二人の魔王を見た。


「血がよく馴染んできたみたいだね」


「だね。動きがよくなってきてる」


 二人が何かを呟く。


「よそ見をするか」


 ピシウスの言葉に、俺はハッとして正面を向いた。既に、ピシウスが剣を振りかぶっていた。


「クソッ!」


 やっちまった。俺は後方へ跳んだ。しかし、ピシウスの剣先が俺の左腕を掠めていく。左腕の外側から、血が吹き出した。


「痛え!」


 幸い、傷は深くない。だがこの分では、剣を振り続けるのは難しいか―――


 マズくなってきたな――現状でも十分不利だと言うのに、片手が使えなくなると、更に状況は深刻化する。しかし、この傷は、間違いなくよそ見をした俺の失態だ。


 考える間も与えないとばかりに、ピシウスが俺の懐へと飛び込んでくる。俺は、ピシウスの突き出した剣を払った。


 やはり、さっきまでに比べると、 ピシウスの速さにも対応できるようになっている。――いけるかもしれない。


 俺は、ピシウスの突きを弾いた剣を、そのまま切り返した。


「ムッ」


 ピシウスは、空いた左腕で俺の斬撃をガードした。そうか、こいつ、甲冑を着ているんだ。今度はピシウスの剣が下から伸びてくる。


 俺は前宙でピシウスの頭上を飛び越え、それをかわした。ピシウスの背後に着地した俺は、すぐさま振り返り、ピシウスの甲冑の繋ぎ目を狙って剣を振った。寸分違わず、俺の剣筋はピシウスの甲冑の隙間をついた。


「グウッ!」


 背中から血を吹き出させながら、ピシウスが地面に膝をつく。


 いける!


 俺はピシウスに追い討ちをかけようとした。だが、後方を振り向いたピシウスが、俺のそれを弾く。ピシウスはそのまま、力で俺を押し込んだ。


「クソッ!」


 俺は再び、後方へと退いた。ピシウスがゆっくりと立ち上がる。


「成る程―――魔王の血はやはり、一筋縄ではいかないもののようだ」


 ピシウスが、頭の兜に手をかける。


「俺も、本気を出さざるを得ないようだ」


 そう言うと、ピシウスは兜を脱ぎ捨てた。兜の下から、その素顔が露になる。俺はしかし、その素顔を見て困惑した。


 ピシウスの素顔は、魔族のそれではなく、どちらかと言えば人類のそれだった。俺は魔王の方を振り向いた。


「そんなに驚くことじゃないだろう」


 タムズが言う。


「そもそも、僕たち魔族の皮膚が紫色なのは、この魔境に多くある魔力の影響でしかない」


 キースが続けた。


「だから、魔力の比較的少ない人類領域に住む人類の肌は変色しない」


「そもそも、人類と魔族の起源は同じなんだから」


 そんなこと言ってたか?――いや、しかし、それは今は重要なことではない。俺はピシウスへと視線を戻した。ピシウスは既に、甲冑を全て脱ぎ終えていた。下には、別の戦闘用の服を着ていた。


「ふむ、身軽だ」


 ピシウスの顔立ちは、控えめに言っても、サルゴンですら足元にも及ばないような、極端に整ったものだった。静かで、それでいて荒々しく、美しくて、それでいて狂暴な顔つきだった。威厳がある。ピシウスは剣を構え直すと、一歩、俺との間合いを詰めた。


 後手に回るのはよくない。先に俺が仕掛ける。ピシウスは、俺の攻撃を難なく受け止めた。一撃離脱。一切ダメージは与えられなかったが、俺はその場をすぐに離れた。


 しかし、後方へと退いた俺の眼前には、いつの間にか、既にピシウスが迫っていた。


「なッ!?」


 速い!?


 俺は無理矢理、体をのけぞらせた。頭上を、ピシウスの斬撃が掠める。――――マグレだ。俺は冷や汗をかいた。次は避けられない。


 次の一撃は、与えてはならなかった。俺にはもう、攻める道しか残されていない。


 俺は体勢を立て直すと、全力でピシウスに連撃を仕掛けた。その全てを、ピシウスは難なく捌いていく。その上で、隙があれば、俺を切りつけようと剣を伸ばしてきていた。


 駄目だ。スピードじゃあ相手に分がある。かといって、バワーでも勝てない。なら―――何なら勝てる?何か策は――――――策は――――――――


 あった。


 しかし、この策では――いいや、やるしかない。覚悟を決めるんだ。


「うおおおおおおおっ!」


 俺は更に、攻撃の速度を速めた。ふと、ピシウスの口角がつり上がる。


「貴様の敗けだ。シェル・クライマン」


 同時に、ピシウスが俺に剣を振った。


 もう避けられない。俺は咄嗟に、傷のある左腕でそれを防いだ。左腕に、ピシウスの剣が深く刺さった。

次回更新は土曜日です。

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