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Near Real  作者: 東田 悼侃
第四章 破壊編
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16th story 降臨

「ヒデ・ヤマトが――死んだ...」


 人類軍はまだ、その事実を受け入れられていないようだった。俺はヒデ・ヤマトから剣を引き抜くと、立ち呆ける人類軍を眺めた。


 向かってこない限りは、殺さないでおこう。そこは、越えてはならない最後の一線のように思える。人類が話が次の行動に移すのを俺は待った。


 しかし、いつまで待っても、彼らは動き出しそうになかった。仕方ねえ。俺は口を開いた。


「最高指揮官はどこだ!話がしたい!」


 俺の声が届いた前線の勇者達が、互いに顔を見合わせる。


「――――いいのか?」


「いや、そうやって殺す気なんじゃ――」


 最高指揮官に会わせていいものなのかどうか、彼らは戸惑っているようだった。


「目的は何だ!」


 人類軍の列の後方から声がした。それに合わせ、さっと人類軍が中央を開く。開いたスペースの奥に、最高指揮官と見られる声の主がいた。無駄に飾った防具を着ているため、それと一目で分かる。


「これ以上やりあっても、互いに損害が大きくなるだけだ!平和的解決といこうじゃないか!」


 指揮官に対し、俺は答える。彼は俺の言葉を受け、しばらく考えると答えた。


「いいだろう!しかし、その剣を持ったまま話し合うつもりか!?」


「勿論、そんなつもりはない」


 俺は両手に握った剣を鞘に納めると、鞘ごと腰から引き抜き、地面に置いた。


「なら、ここへ来い。そうしたら話してやる」


 指揮官の高圧的な態度に、俺は苦笑した。ヒデ・ヤマトという最大のカードを失っておいて、まだ有利な状況にあると踏んでいるのだろうか。それとも、覚醒勇者一万人に囲まれていれば、そうなるのも必然か?


「分かった」


 俺はあえて、指揮官のもとに赴くことにした。間違いなく、これは罠だ。だが、そうと分かっていても動かなければ、状況に変化が起きない。覚醒した俺の力がどれぐらいなのかは、まだ把握しきれていない。その力が強大なものであると、俺は信じよう。


 勇者達が両脇に開いてできた、最高指揮官への真っ直ぐな道を、俺は進む。指揮官の前まで俺がやって来ると、広報の道は閉ざされた。やっぱりな。


「若いな」


 最高指揮官が口を開く。俺は無言を貫いた。


「その若さで、我々に反旗を翻すとは。貴様のその勇気には恐れ入ったよ」


 勇気――――果たしてこれは、勇気なのだろうか。


「だが、まだ若い。若すぎたな、青年。まだまだ経験が足りない」


 最高指揮官が片手を頭上に掲げる。周囲を囲む勇者達が、一斉に銃を構えた。


「こんな見え見えの罠にも引っ掛かるとはな」


 構え、と最高指揮官が言う。銃口が全て、俺に向けられた。俺にはしかし、焦りはなかった。


「罠だと知ってて、わざと引っ掛かったんだよ」


「何とでも言え。負け犬の遠吠えにしかならん」


 指揮官が、俺の言葉を鼻で笑う。


「あんたも、いまいち状況を理解できてないんじゃあないのか?」


 指揮官の眉が、ピクリと動く。


「なんだと?」


「だってさ」


 俺はそう言うと、不意に指揮官の裏に回り込み、指揮官を組み伏せた。


「こうしてあんたが人質に取られれば、周りは手の出しようがないじゃないか」


「ふん!ならば、俺ごと撃ち抜かせればよかろう──全員、発射(ファイアー)ッ!」


 しかし、指揮官の命令を実行した者は、ほんの一握りのみだった。他は皆、本当に撃っていいのか迷っているようだった。


 放たれたいくつかの弾が指揮官に当たらないようにしながら、俺はそれらの全てを躱した。その流れ弾に、何人かの勇者が被弾する。


「それと、言う必要もなかったから言ってないけど、銃弾ってノロいんだよね。銃口に密着した状態で発射されたって、今の俺なら避けられる」


「馬鹿な──」


 指揮官が唖然とする。


「まあ、そういうことだからさ。平和的解決を受け入れるのが一番だと思うよ、俺は」


 俺に組み敷かれた最高指揮官は、苦虫を噛み潰したかのような顔をした。


「──条件は何だ」


「話が早くて助かる。簡単な条件だ。今後一切、魔物に手を出すな。それと、人類に対する教育で伝えるのは、“魔族”の真実の姿にしろ。忌々しい人類の敵というのではなく、本来の、温厚な種族であることを確実に伝えろ。それだけだ。簡単だろ?」


「───分かった」


 最高指揮官が小さく頷いた。


「上に掛け合おう」


「よし。なら、とっとと人類領域に帰るんだな」


 俺は、周りの勇者達に促した。お前らが俺から離れた後で、この男は放すと伝える。しかし、彼らは動かない。


「言う通りにしろ。離れるんだ」


 最高指揮官が、動かない勇者達に命令する。

 

 その時だった。二人の魔王が人類の前に初めて姿を現した時のように、空から声がした。


『反逆罪と見なす。死刑だ』


 魔王達の声ではない。


 俺は空を見上げた。刹那、俺の組み伏せていた最高指揮官の頭部に、上空から槍が突き刺さった。同時に、目の前に何者かが着地する。


 そいつは、全身を甲冑で包んでいた。最高指揮官の頭に刺さった槍を、そいつが回収する。俺は返り血を避け、その場から飛び退いた。最高指揮官は即死だった。


「勝手に平和的解決を図るなど、言語道断だ」


 そいつが、槍に付着した血を拭う。


「何者だ!!」


 俺はそいつに向かって叫んだ。何か、ヤバい雰囲気だ。


「貴様が、シェル・クライマンか」


 ドスのきいた声で、そいつが言った。


「魔族と人類の共存を望んでいるらしいな────死刑だ」


 そいつは槍を投げ捨てると、腰の剣を引き抜いた。


「このピシウス様が、貴様を直接抹殺する」




 ──────アクピス教教祖ピシウスを名乗ったそいつは、剣先を俺に突きつけてそう言った。

次回更新は土曜日です。

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