15th story 復讐の始まり
「おい、負け犬が来たぜ」
人類軍の一人が、俺を指さす。
「本当だ。今更、何しに来たって言うんだろうな」
「降参しに来たんじゃないのか?―――おい!!悪魔(笑)!」
皮肉たっぷりに、一人が俺に向かって叫ぶ。
「負け犬は犬らしく、仰向けになって腹を見せろよ!降参のポーズだ!そうしたら許されるかもな!」
ドッと笑いが起こる。どうやら、一人でまたノコノコとやって来た俺を舐め腐っているらしい。まあ、そりゃそうだろうな。俺は、再び二人の魔王から借りた剣を、腰から引き抜き構えた。これが俺の答えだ。
「さっきお前と遊んでたお友達は、みんな始末してやったぜ?」
その言葉と同時に、八人の男が前に歩み出る。彼らのそれぞれの手には、人の首がぶら下がっていた。
「―――まさか」
「いやぁ、楽しかったよ。まずこいつらを、大人数で死なない程度に袋叩きにしてな?それから、罰を受けてもらった。負けたんだから、当然だよなぁ?それぞれ、いろんなコースを楽しんでもらったよ。足の指先を火で炙ったり、生皮剥いでみたりさ。一番の傑作はこいつだ」
そう言って、その男は一つの首を前に突き出した。俺はそれを凝視した――――――サルゴンの首だった。
「生きたまま腹を裂いて、自分の内蔵を口の中に詰めてやったよ。爽快だったなあ。イケメンで実力もある、超人気勇者様が、泣き叫んで命乞いするのはよぉ」
それに呼応して、また笑いが起きる。
「――――ろしてやる」
カッと頭に血が上る。俺は理性を保てなかった。人類軍に向けて、全力で突進する。
「全員殺してやる!!」
お前らの命を奪うことに、迷いはない。こいつらはもう、普通の生活には戻れない人間だ。―――生きて返したところで、社会の害悪となるだけだ。
「来るか?向かってくるのか?いいだろう。お前も、あいつらと同じように遊んでやるよ!」
クズが叫ぶ。俺は真っ先に、そのクズに向かった。
体が軽い。これが覚醒なのか。人類軍との距離は、あっという間に無くなる。俺は迷わず剣を突き出した。クズの喉に剣が刺さる。
「は?」
誰かが、呆けた声を発した。俺は剣をクズから引き抜くと、反対の手に持っている剣で、隣に居た一人を斬った。
突然の出来事に、誰も反応できない。俺は、部長達の首を持つ残りの七人を立て続けに斬った。周囲の勇者を何人か巻き添えにするが、知ったこっちゃない。
一通り暴れてから、俺は一時、その場を離脱した。
前線の連中が、腰を抜かしてヘタリとその場に座り込む。人類軍の最前線は既に崩壊していた。
「そこまでだ」
そこに、ヒデ・ヤマトが現れる。俺はヤマトに、ありったけの殺意をぶつけた。ヤマトが少し怯む。
「覚醒―――したのか」
ヤマトの額から、汗が溢れる。
「ああ―――お前を殺すためにな」
俺はヤマトを睨め付けた。ヤマトが一歩後退する。
「そうか―――そうか」
ヤマトは汗をぬぐうと、いつの間にか腰に装備していた剣を構えた。
「しかし―――貴様の好きにさせるわけには―――いかないッ!!」
そうか。そうだろうな。だからこそ、俺も容赦はしない。
「ここで死ね!シェル・クライマンッ!!!」
ヤマトが叫ぶ。それを合図に、俺たちは互いに突進した。
「遅いッ!」
ヤマトが俺に剣を突き出す。俺はそれを軽く払った。あれだけ速く見えたヤマトのスピードも、今の俺にはのろまにしか見えない。
俺はヤマトの首めがけ、剣を横に薙ぎった。しかしヤマトは、魔法でそこに障壁を張った。俺の剣が跳ね返される。
だが、そういうことなら、そういうことでいい。俺は地面を強く踏み込むと、一瞬、更に加速した。
「消えッ!?」
ヤマトの裏を取る。俺は躊躇いなく、ヤマトの背中をひと突きにした。
「ア゛ぁ゛――」
一言だけ呻き声をあげ、ヤマトは崩れる。
「終わりだッ!」
俺は剣を引き抜いて、再度振り上げた。
「このクソガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ヤマトが吠える。俺は振り上げた剣の切っ先を、地面に這いつくばるヤマトの心臓めがけて指し込んだ。
一気にその場が静まり返る。人類軍は、ただ呆然と俺達を見詰めていた。
人類最強の男の最期は、俺の復讐の始まりは、間が抜けるほどに呆気なかった。
おそらく、これから最後まではとにかくシリアスで突っ走るようになると思います。
次回更新は水曜日です。