14th story 覚醒
「それで?」
「君の話を聞こう」
タムズとキースが、それぞれの椅子に落ち着く。二人に尋ねられた俺はしかし、沈黙を続けた。
「君が何を体験し、何を考えているのかは察しかねるけど」
「とにかく、時間がないんだ。急かすようだが、今、ここで決めてくれ」
「覚醒するのか」
「覚醒しないのか」
二人が俺に迫る。俺は―――決断できなかった。自分が中途半端な覚悟しかできていないと分かった今、どうしても、前に進む勇気が出ない。
「君が覚醒しないと言うのなら、それは構わない」
「僕達が人類を追い返すだけだ」
最早、出来ることならそうして欲しいとすら思う。また俺が出ていったところで、要らない犠牲を増やすだけだ。
「なあシェル、なんでもいいから言ってくれよ」
「君のためだけに時間を使うのは良くない事なんだ」
けれども果たして、この二人が人類を追い払ったところで、俺は納得できるのだろうか。部長や両親を“殺した”アクピス教を放っておいて、幸せな日々に戻れるのか?―――戻れるわけがないじゃないか。
「私情のために―――」
俺は初めて口を開く。
「復讐のために、その力を使っても良いと言うのなら――――使わせてくれ」
ならばせめて、彼らの遺したものを完成させよう。“俺”という人間の“夢”を果たそう。それは彼らの本望ではないかもしれないが、そうしなければ今後、俺の周りの人間は誰一人、幸せになれない。
「それは結果的に、誰の利益となる復讐なんだ?」
「特に、僕達魔族が不利益を被るようであれば、許可できない」
「魔族に損はさせない―――人類は追い払う。かくなれば、人類の一部との共存も果たせる」
魔王二人は顔を見合わせた。
「まあ、何かあった場合も、僕達が居るからね」
「確かに、デメリットは少ないね」
よし、と二人は揃って視線を戻す。
「分かったよ、シェル」
「君を覚醒させよう」
二人は、ヤマトから取り戻した剣を腰から引き抜いた。タムズが、椅子の裏からグラスを取り出す。
「覚醒の仕方は―――前にも話したよね?」
キースに俺は頷いた。タムズは剣で自身の左手首を軽く傷つけた。ゆるやかに血が滴る。タムズはその血をグラスの中に貯めた。ある程度血が貯まったところで、グラスをキースに手渡す。キースも同じようにして血を貯める。グラスの五分の一ほどまで血が貯まったところで、キースはグラスから傷口を離した。
「これを」
キースからそのグラスを受け取る。続いてタムズが、水の入った別のグラスを俺に差し出した。
「血を口に含んだら、これで流し込むといい」
「ちょっと気持ち悪いだろうけど、頑張ってね」
タムズからそのグラスを受け取ると、俺は一息に二人の血を口に含んだ。
苦い。
味を感じすぎないうちに、ある程度の量を飲み込む。そうした後に、口の中に水を注ぎ込んだ。口の中に留まる血を、喉の奥へ押し込む。
「どんな気分だい?」
全てを飲み干すと、タムズが俺に尋ねてきた。
「――――――苦い」
「だろうね」
二人が小さく笑う。
「成分が体に回るまでは、しばらく時間がかかるだろうけど」
「車で前線に向かえば、着く頃にはもう十分馴染んでいると思うよ」
俺は二人に頭を下げた。
「タムズ、キース。本当にありがとう」
「何、これぐらいお安い御用さ」
二人が照れ笑いをする。
「頼んだよ、シェル」
「うん。頑張っておいで」
二人と魔族達の思いを背に、俺は前線へと向かった。
次回更新は土曜日です。