13rd story 救い
「貴様ら―――何者だ」
現れた魔王二人に、ヤマトが問う。
「あれ?タムズ、あんまり効いてないよ?この登場の仕方」
「おかしいな。僕たちは今、彼の目には過去最強の強敵に見えているはずなんだけど」
「やっぱり、形から入るのは間違ってるんだよ」
魔王二人が、本気で戸惑う。
「まあいいや。とりあえず、シェルを返してもらおう」
「じゃあ、シェルは頼んだよ、タムズ。僕はあの人間を相手するからさ」
二人の魔王が、シェルとヤマトに歩み寄る。ヤマトは、シェルの首元から剣を外すと、二人に向き合った。
「何者だ、と聞いているんだ」
ヤマトの問いに、魔王二人は顔を見合わせてから答えた。
「タムズ・アカド。魔族の王だ」
「キース・アカド。同じく魔王だ」
ヤマトが眉を潜める。
「魔王―――だと?」
「うん。魔王」
「要は、魔族で一番強いってこと」
「―――なるほどな」
ヤマトは頷くと、唐突に、二人に向かって突進した。その初速は異常なもので、ヤマトの元居た地面に亀裂が走る。
キースが、タムズとヤマトとの間に割って入った。キースとヤマトが衝突する。
「なにっ!?」
ヤマトは驚愕の声をあげた。ヤマトが剣を振り下ろす前に、キースは、ヤマトの手首を掴む形で、それを押さえていた。
「キース、一人でいけるな?」
タムズがキースに尋ねる。キースは頷いた。
「この程度なら、全く問題ない。僕は適当に遊んでるから、シェルのことは任せたよ」
タムズは、ヤマトとキースを置いてシェルへと足を向けた。
「待て!何をするつもりだ!」
ヤマトが、矛先をタムズに変えようとする。しかし、キースがヤマトの手首を掴んで離さなかった。
「おいおい。君の相手は僕だぞ」
ヤマトは舌打ちをすると、キースと向かい合った。
「お待たせ、シェル」
タムズが、手足を固定されたシェルを地面から引っ張り出す。
「どうして―――」
自由の身になったシェルは、立ち上がるとタムズに尋ねた。
「二人が出てくるのは、敗けを認めるってことだったんじゃ―――」
「いやいや」
タムズが首を横に振る。
「僕達の実戦投入可能な最終戦力である君が敗けたんだ。実質、僕達の敗けのようなものさ」
「そう―――ですか―――」
シェルはうつむいた。どれもこれも、自分の半端な覚悟が招いた結果だ。タムズはそんなシェルを見詰めて、うん、と頷いた。
「じゃあ一旦、本部に戻ろう」
そのまま、ヒョイ、とシェルを担ぎ上げる。
「ちょ....え?」
「ちょっと速く走るから。誰も追い付けないぐらいの速さでさ」
タムズはシェルにウィンクすると、キースを呼んだ。
「キース!そろそろ行くよ!」
「りょうかーい!」
ヤマトを軽くあしらっていたキースが答える。
「ってことだから。そろそろ、この剣は返してもらうよ」
キースが、ヤマトから二本の剣を簡単に取り上げる。ヤマトは唖然とした。
「それじゃあ、人類、また今度ね」
キースとタムズは人類軍に手を振ると、内陸に向けて走った。
「っ――――オッ!」
思わず、シェルの息が詰まる。
「ちょ!タンマタンマッ!!速すぎる!」
シェルはタムズの肩を叩いた。しかし、二人はスピードを緩めない。
「頑張って、五分の辛抱だから」
「君だって、覚醒すればこれぐらいは走れるようになるさ」
「嘘だろ―――」
シェルは呟いた。
次回更新は水曜日です。