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Near Real  作者: 東田 悼侃
第四章 破壊編
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12nd story 力

シェルが渾身の力を両腕に込めると、バビルとハンニバルの腕がシェルから外れた。シェルは叫びながら、剣を振り下ろすヤマトへと走った。しかし、いくらシェルの足が速かろうと、既に防げるわけもなく。


固い音をたてて、セムの首が地面に落ちた。


シェルは慟哭しながら剣を引き抜き、ヤマトへと突進した。大降りに迫るシェルの剣を、ヤマトは難なく弾き返した。


「ヒデ・ヤマトぉぉぉぉぉ!」


衝撃で仰け反った後、直ぐに体勢を立て直したシェルは、ヤマトを睨んだ。


「立場をわきまえろよ、シェル・クライマン。裏切り者とその親族に、人権が認められると思うなよ」


「親族?―――どういうことだ!ヒデ・ヤマト!」


ヤマトの両脇にバビルとハンニバルが並ぶ。二人がニヤつきながらシェルの問いに答えた。


「裏切り者は、本人だけじゃなく家族も始末されるんだよ」


「お前の両親だって、例外じゃなかったぜ?」


二人の言葉に、シェルは停止した。


「安心しろ。直ぐに会える」


ヤマトが、表情を変えることなくシェルに言い放つ。


「両親が―――?」


「エデル・クライマンと、エレナ・クライマンといったか――――こんな“悪魔”を産み出したんだ。当然の報いだろう」


「“悪魔”だと――――?」


シェルは、手に持つ剣を握りしめた。


「ふざけるなッ!外道がぁぁッ!」


三人目掛けて、剣を横凪ぎに払う。しかし、それもヤマトによって防がれた。バビルとハンニバルが、二人から遠ざかる。シェルは雄叫びをあげながら、何度もヤマトに剣を振った。ヤマトはそのどれもを、冷静にさばいていく。


不意に、シェルの斬撃が大きく弾かれた。シェルが仰け反り、大きな隙が出来る。ヤマトは、がら空きになったシェルの胴体へ向け、剣を振った。シェルはしかし、わざと姿勢を大きく後方へ崩すことで、その斬撃を逃れた。


シェルは背中から受け身をとると飛び起きた。ヤマトは振り払った剣を手首を使って返すと、再びシェルに目掛けて振った。シェルはそれを受け止めると、刃を滑らせてヤマトに迫った。しかし、ヤマトは慌てなかった。


「炎撃」


ヤマトが呟く。シェルは腹部に衝撃を受け、後方へ吹き飛んだ。地面に転がった状態で、シェルは首だけをヤマトに向けた。ヤマトの、剣を持っていない左手が、シェルの腹のあった場所に据えられていた。


「ッ――――魔法」


ヤマトが、勇者であり魔法使いでもあることを、シェルは失念していた。シェルは剣を支えにして立ち上がると、血の混じった唾を地面に吐き捨てた。


顔をあげると、目前にヤマトが迫っていた。シェルは慌てて防御姿勢をとった。ヤマトが横凪ぎに剣を振る。それは、シェルをもってしても捉えることのできない速さだった。シェルの剣が、グッと左に持っていかれる。その勢いで、シェルの手から剣が離れた。


シェルは、鼻の頭から生暖かいものが流れるのを感じた。切っ先が、少しばかり届いたようだ。


ヤマトは、シェルが手放した剣を空中にあるうちに拾うと、二本の剣をシェルは、即座にその場を離脱しようとした。が、シェルの右足を、ヤマトが踏んでいた。シェルは、ヤマトの射程から逃れられなかった。ヤマトが左手を凪ぎ払うと、シェルの両足が崩れた。シェルは思わず手足をついた。首筋に、ヤマトが二本の剣を交差させて添える。


抵抗を試みようとしたシェルは、両手足が地面に固定されていることを知る。両手と両足を包むようにして、地面の土が隆起していた。


ステータスに大差はなくとも、シェルとヤマトの戦力には、圧倒的な差があった。実戦経歴、覚悟の違い―――


しかし、それでもシェルは諦めきれなかった。


その時、空から声がした。


『力が欲しいか』


それが自分に向けられたものだと、シェルには確信できた。


『力が欲しいか』


空からの声が、再度シェルに問う。


「何だ、この声は」


ヤマトが、怪訝な顔で空を見上げる。


『力が欲しいか』


「ああ!欲しい!」


シェルは空に向かって大声で叫んだ。


『力が欲しいのなら、くれてやる』


刹那、シェルとヤマトのそばの地面が、爆散した。土煙が舞う。


「なッ!」


ヤマトは、慌てて魔法を使い、その土煙を吹き飛ばした。


「なんで――――」


その中から現れたものを見て、シェルは絶句した。


「いやいや。なかなか決まったんじゃない?」


「えんうん。強キャラ感出てるんじゃない?」


現れたのは、双子の魔王だった。

次回更新は土曜日です。

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