12nd story 力
シェルが渾身の力を両腕に込めると、バビルとハンニバルの腕がシェルから外れた。シェルは叫びながら、剣を振り下ろすヤマトへと走った。しかし、いくらシェルの足が速かろうと、既に防げるわけもなく。
固い音をたてて、セムの首が地面に落ちた。
シェルは慟哭しながら剣を引き抜き、ヤマトへと突進した。大降りに迫るシェルの剣を、ヤマトは難なく弾き返した。
「ヒデ・ヤマトぉぉぉぉぉ!」
衝撃で仰け反った後、直ぐに体勢を立て直したシェルは、ヤマトを睨んだ。
「立場をわきまえろよ、シェル・クライマン。裏切り者とその親族に、人権が認められると思うなよ」
「親族?―――どういうことだ!ヒデ・ヤマト!」
ヤマトの両脇にバビルとハンニバルが並ぶ。二人がニヤつきながらシェルの問いに答えた。
「裏切り者は、本人だけじゃなく家族も始末されるんだよ」
「お前の両親だって、例外じゃなかったぜ?」
二人の言葉に、シェルは停止した。
「安心しろ。直ぐに会える」
ヤマトが、表情を変えることなくシェルに言い放つ。
「両親が―――?」
「エデル・クライマンと、エレナ・クライマンといったか――――こんな“悪魔”を産み出したんだ。当然の報いだろう」
「“悪魔”だと――――?」
シェルは、手に持つ剣を握りしめた。
「ふざけるなッ!外道がぁぁッ!」
三人目掛けて、剣を横凪ぎに払う。しかし、それもヤマトによって防がれた。バビルとハンニバルが、二人から遠ざかる。シェルは雄叫びをあげながら、何度もヤマトに剣を振った。ヤマトはそのどれもを、冷静にさばいていく。
不意に、シェルの斬撃が大きく弾かれた。シェルが仰け反り、大きな隙が出来る。ヤマトは、がら空きになったシェルの胴体へ向け、剣を振った。シェルはしかし、わざと姿勢を大きく後方へ崩すことで、その斬撃を逃れた。
シェルは背中から受け身をとると飛び起きた。ヤマトは振り払った剣を手首を使って返すと、再びシェルに目掛けて振った。シェルはそれを受け止めると、刃を滑らせてヤマトに迫った。しかし、ヤマトは慌てなかった。
「炎撃」
ヤマトが呟く。シェルは腹部に衝撃を受け、後方へ吹き飛んだ。地面に転がった状態で、シェルは首だけをヤマトに向けた。ヤマトの、剣を持っていない左手が、シェルの腹のあった場所に据えられていた。
「ッ――――魔法」
ヤマトが、勇者であり魔法使いでもあることを、シェルは失念していた。シェルは剣を支えにして立ち上がると、血の混じった唾を地面に吐き捨てた。
顔をあげると、目前にヤマトが迫っていた。シェルは慌てて防御姿勢をとった。ヤマトが横凪ぎに剣を振る。それは、シェルをもってしても捉えることのできない速さだった。シェルの剣が、グッと左に持っていかれる。その勢いで、シェルの手から剣が離れた。
シェルは、鼻の頭から生暖かいものが流れるのを感じた。切っ先が、少しばかり届いたようだ。
ヤマトは、シェルが手放した剣を空中にあるうちに拾うと、二本の剣をシェルは、即座にその場を離脱しようとした。が、シェルの右足を、ヤマトが踏んでいた。シェルは、ヤマトの射程から逃れられなかった。ヤマトが左手を凪ぎ払うと、シェルの両足が崩れた。シェルは思わず手足をついた。首筋に、ヤマトが二本の剣を交差させて添える。
抵抗を試みようとしたシェルは、両手足が地面に固定されていることを知る。両手と両足を包むようにして、地面の土が隆起していた。
ステータスに大差はなくとも、シェルとヤマトの戦力には、圧倒的な差があった。実戦経歴、覚悟の違い―――
しかし、それでもシェルは諦めきれなかった。
その時、空から声がした。
『力が欲しいか』
それが自分に向けられたものだと、シェルには確信できた。
『力が欲しいか』
空からの声が、再度シェルに問う。
「何だ、この声は」
ヤマトが、怪訝な顔で空を見上げる。
『力が欲しいか』
「ああ!欲しい!」
シェルは空に向かって大声で叫んだ。
『力が欲しいのなら、くれてやる』
刹那、シェルとヤマトのそばの地面が、爆散した。土煙が舞う。
「なッ!」
ヤマトは、慌てて魔法を使い、その土煙を吹き飛ばした。
「なんで――――」
その中から現れたものを見て、シェルは絶句した。
「いやいや。なかなか決まったんじゃない?」
「えんうん。強キャラ感出てるんじゃない?」
現れたのは、双子の魔王だった。
次回更新は土曜日です。