表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Near Real  作者: 東田 悼侃
第四章 破壊編
104/119

9th story 試練 2

先に仕掛けたのはシェルだった。


両手に剣を持ったまま、直線的にメルシスの懐へ走り込む。それに対しメルシスは、剣の切れ味を警戒し、なるべくシェルを引き寄せてから横に飛び退いた。それを予測していたシェルは、地を蹴って方向転換し、メルシスを追う。


「よくよく考えればよ―――これって、俺達かなり不利なんとちゃうか?」


移動を続けながら、メルシスは呟いた。



「このスピードじゃあ、銃もろくに当たらんわ」


と言いつつも、試しにシェルの移動先を予測して、弾を放ってみる。シェルは難なくそれを避けた。


「やっぱな。こりゃ、まともに戦っても勝ち目がない」


メルシスは急ブレーキをかけてその場に留まると、銃を放り投げて両手を挙げた。


「止めだ。止め。これじゃあ勝負が見えてる」


シェルはメルシスの挙動に警戒を解かないまま、彼の話に耳を傾けた。


「まあよ、こういう友情ものの戦いってのは、やっぱり殴り合いってのが相場だ。―――って事でよお。シェル、こっちでやろうぜ」


メルシスは拳を握ってファイティングポーズをとった。シェルは周囲を見渡し、メルシスのそれが罠ではないことを確認すると、溜め息を吐いた後に剣を鞘に納めた。


「そうだ。そういうノリがなきゃつまらねぇ」


二人は、互いの拳が届く位置にまで間合いを詰めた。しばらく、そのままで状態は膠着する。


「ほっ」


メルシスが初撃を仕掛けた。ストレートをシェルの顔面目掛けてかます。シェルはそれを、右手で下に叩き落とした。メルシスの体が前屈みになる。


「おっと」


メルシスが体勢を立て直す。その隙をついて、シェルは一気に間合いを詰めた。至近距離で、メルシスの腹部にアッパーを入れる。


「グフッ!」


それを辛うじて両手でガードしたものの、衝撃に悶えるメルシス。その後頭部に向け、シェルは手刀を繰り出した。メルシスが気絶し、その場に崩れ落ちる。


「済まない、メルシス―――」


倒れ込んだメルシスにそう謝った後、シェルは顔を上げて周りを見た。


「次は?」


「――――俺だ」


名乗りを上げたのは、メルシスと同じく、討伐隊でシェルと同室だった、魔法使いのマーク・ハンスだった。


「――剣を取れ。俺は殴り合いはしない」


彼が魔法使いであることを承知しているシェルは、頷いて剣を引き抜いた。


「構いませんよ」


魔法を警戒して、シェルは少し距離をとった。


ハンスも、至近距離でシェルと戦うつもりはなかった。手始めに、小さめの火炎弾を数発、シェルに向けて飛ばす。シェルは勿論、難なくそれを避けた。


「全力の魔法ってのは、どのくらいなんだ?」


シェルがハンスに尋ねる。


「知らん」


それに対しハンスは、必要以上に端的な答えを返した。


「―――そうか」


シェルは深呼吸すると、意を決して、一気にハンスの懐へ飛び込んだ。しかし、ハンスは冷静に魔法を発動し、シェルの進行を妨害する。無数の魔法弾を、シェルは全て紙一重でかわしていった。


目と鼻の先にまでシェルが迫る。ハンスはここで、初めて焦りを覚えた。


シェルが、ハンスに向けて剣を振り上げる。ハンスはシェルと自分との間に慌てて障壁を張った。シェルの振った剣の柄がその障壁に跳ね返される。シェルは舌打ちすると、再び距離をとった。


「厄介だな―――魔法」


「ふん」


ハンスが鼻を鳴らす。しかし、その額には脂汗が滲み出ていた。シェルの動きが予想以上に速く、精密だ。


<殺す気でないと、倒せない>


ハンスは、シェルの精神力に気付き、感服した。


<こんな思いをして、あいつは今、ここに立っているのか>


仲間と殺し合うと言う意味が、ハンスにはやっと分かった。自分はどこか、平和ボケしていた。魔族が自分達に敵わないと、心のどこかに慢心があった。だから、命を懸けるという覚悟を知らなかった。これまで自分の行ってきたことは、魔族との命の奪い合いではないとハンスは悟った。自分はそこに、命を懸けてなどいなかった。数と力を頼りに、虐殺行為をしてきただけだった。


ハンスは覚悟する。


<大技を一撃、当てるしかない>

次回更新は水曜日です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ