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Near Real  作者: 東田 悼侃
第四章 破壊編
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5th story 決断3

翌日の昼過ぎ、戦闘は唐突に開始された。人類と魔族の最前線の接触がテントの中に据えられた無線機を通じて報告されると、それを皮切りに次々と、溢れんばかりの情報が流れてきた。戦闘開始から二時間が経った今も、報告は途絶えることを知らない。めまぐるしく進展する戦況に、テントの中の皆も焦り始めていた。


<第一防衛線、突破されました!!>


無線機から、ついに恐れていたその報告が入る。魔境内に四つある防衛線のうちの一つが突破された。数年前に俺も参加した討伐隊によって、一度破壊されているとはいえ、第一防衛線の陥落によるダメージは大きい。テント内で無線を聞いていた数名の兵士達は、揃って溜め息を吐いた。


<負傷者、内陸に運びます!>


続いて、そんな報告がされる。それを聞いて、テント内の動きは急に慌ただしくなった。


「これから、前線から負傷者が運ばれてくる!病室の用意を!早ければ、数時間後には到着するぞ!」


隊長が部下達に指示を出す。それを聞いた部下達は、何名かを都市の方へと向かわせた。


「城の一角と、都市内にある全ての病院を開放させる。到着した者を、順にそこに運び込むぞ。それと、地下シェルターから医者を集めろ!――――忙しくなるぞ」


隊長の言ったその言葉通り、負傷者が運び込まれ出した四時間後から、俺達はせわしなく働いた。次々と運ばれてくる負傷者を、都市内の開放された病室へと運び込む。


もう何人も運んだだろうか。負傷者を運び込むために開放された病室は、さながら地獄のような光景へと化していた。


血と膿、汗の混じった、鼻の奥を突くような悪臭が立ち込める。床のところどころには血のシミができており、また時には、誰かの体の一部が床に落ちていた。


人類側はどんな武器を使ったのか。怪我人のほとんどは、体の一部を欠損していた。


ある人は片手を失い、ある人は足を失い、ある人は脇腹をえぐられ、またある人は、顔の一部をごっそりと失っていた。どれも傷は致命的で、もはや助かる見込みのある者は少ないように思えた。


次々と負傷者は運ばれてくるため、医者は人手が足りなくなり、誰にも、何にも手をつけられないまま亡くなっていく者が、だんだんと増えていっていた。


「シェル・クライマン、こっちへ」


次の負傷者を運ぼうと、テントのそばまで戻った俺を、隊長が呼び止めた。


「はい、何でしょう」


俺は、隊長に招かれるがまま、テントの裏へと足を運んだ。


「たった今、第二防衛線が陥落したと連絡が入った」


第一防衛線を突破されてからおよそ五時間。このペースでは、あと一日もしないうちに人類はここまでやって来てしまうかもしれない。


「前回と違って、人類が攻撃の手を緩める気配もない。我々にももはや、後がなくなってきた」


険しい雰囲気で、隊長が言う。


「このあたりで、はっきりさせておかなければならないと、魔王様から告げられた」


「何を、ですか?」


「君がどちらに味方するか―――をさ」


俺はしばらく押し黙った。どちらに味方するかは―――まだ決心できていない。


「仮に、君が人類に味方するとなった場合は、最前線につくまでは美濃安全は保証すると、魔王様から直々にそう言われている。だから、安心して選ぶといい。どちらに味方するのかを―――」


俺はしかし―――未だに決断を下せなかった。


「明日までには、決断を下してくれるとありがたい」


隊長はそう言うと、俺の前から姿を消した。テントの裏で俺は、一人になった。


しかしやはり、下さなければならない決断ということか――――


俺は、都市内の病室の一つに向かった。


部屋の前に立つ俺の耳に、負傷者達の呻き声が響いた。


俺が討伐隊に参加したときに、人類側でここまでひどい怪我を負った人はいなかった。それは勇者や魔法使いだけでなく、一般の兵士を含めても、だ。


果たして、どちらが本当の“悪魔”なのか――――


「分かった―――」


俺は顔をあげる。


決断しよう。

次回更新は水曜日です

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