「空の港へ」
典秀は、すっかり忘れていた。両親の訪問を……。リビングで横になっている宮元さんはもっと予定外。旅行に行く両親は、なにか浮かれ気味にも思われる。当然と言えば当然。翌朝は、宮元さんも一緒に同行して空港に向かう。これが、事実上はじめてのデートになる?と典秀は実感し始める。
先に家の中に入った両親の声……。
リビングのソファーでは、宮元さんが眠っている!
私は、そ~っとリビングをのぞき込みました。
「これはその……。なっ!」
仁王立ちで、彼女を見ている二人がいました。
いくら眠っているとはいえぇぇぇ~!
「何をマジマジと見てるんだよ!」
「お前の彼女か?」
「彼女じゃないけど……。まだね」
何だよ突然!?
父さんは、やぶから棒に!
「じゃあ何だ?」
じゃあ何だって言われても?
「知り合いだよ。絵を描くスケッチの!」
「スケッ!? 典秀、お前が絵なんか描くのか?」
「あなたは知らないと思うわよ。仕事が一番でしたからね。典ちゃんは上手いのよ!」
何も知らないくせに。
父さんは、仕事でいつも家にいなかった……。
そのせいか小学校の時の行事は、いつも母さんしかいなかった。
「あ~。二人とも荷物置いて来ればいいよ」
「そうねそうね。あなた荷物を置きに行きましょう」
「どうした? 急に?」
ありがとう母さん。
まったく父さんは……
私は、宮元さんの肩を軽くたたきました……
ちょっと強くゆすってもみました。
「んっ!? 典秀さん……」
「お酒飲めないなら言ってくれればいいのに」
「なんか飲めそうな気がしたんです」
彼女に、水を一杯手渡しました。
「ありがとうございます」
「目が覚めましたかな?」
「えっ!? あの~……」
早々(はやばや)と、父さんが戻って来ました。
少し遅れて母さんが入って来ました。
「ウチの両親です。突然でゴメン」
「あっ! 初めまして宮元 亜美と申します」
「亜美さんか。良い名前ですな」
前妻の奈緒の時とは、何か接し方が違う様な気がします……
「ありがとうございます! 典秀さんとは、お付き合いさせていただいています!」
「な~っ……!」
「そうですか~。よろしく頼みますよ。不器用者ですからな! はははははっ!」
何を突然言い出すんだ?
宮元さんは……
やっぱり彼氏と何かあったのか?
やけになってるのか?
「私……。帰ります! まだバスあると思いますから」
「ゆっくりしていけばいいのに。 私らが気になるのかな?」
「あははっ……。是非、今度ゆっくりと。失礼します!」
父さん、ここはオレの家だよ!
それに、考えてみれば初対面で寝顔を見られて?
いやいや、覗かれた様なものだからな。
「ちょっと行って来る!」
玄関を出た時です!
「典秀さん!」
後ろ!?
次の瞬間です!
彼女がそっと抱き付いて来ました!
「宮も……! とさん?」
彼女が背伸びをして……
私の唇に宮元さんの唇が触れています!
「今日は、帰ります。ありがとうございました!」
「あっ! 宮元さん!」
「また、スケッチに行きましょうね!」
行かせてしまうのか?
父さんが言った様に、私は不器用なのかも知れません。
……彼女は、行ってしまいました。
「何が絵を描く知り合いだ? ちゃんと彼女いるじゃないか」
「まっ!? まさか見てたのか? 勘弁してくれよ父さん!」
「ドラマみたいね典ちゃん! 大切にしなさいね。今度は、逃がしちゃダメよ!」
家に入るなり、何だよ二人して!?
「でも、彼氏いるんだよね。宮元さんには」
「あらっ! 典ちゃん? あなた浮気相手になちゃうの?」
「けしからん! それは許せんな!」
余計な事言わなければよかった。
後悔しています。
「だから、さっきのも彼女が……」
「男らしくないぞ! 言い訳なんぞ!」
「……もしもし宮元さん?」
父さんと話しているすきに!?
「母さん! なに勝手に人の携帯を!」
「どれっ! 貸しなさい! あ~もしもし!」
「とうさ……! うわっ! 痛……」
今の私は、父さんに押さえ込まれている状態!
なんとかって言う武術に最近ハマっているらしい。
「あぁ~、典秀の父だが! あんた他に彼氏がいるのか? 動くな典秀」
何を馬鹿な事を聞いているんだ父さんは!?
「その言葉に偽りは無いな!! 気を付けて戻りなさい。それじゃあな」
父さんの呪縛からやっと解放されました。
腕が痛い……
「ほら返すぞ! 喜べ! いないそうだお前以外に男は」
「そんなバカな!? だって……」
「もう一回掛ける? 典ちゃん」
携帯を持った手が震えています……
両親が私を見つめています。
「取りあえず座ろう! 後で直接話してみるよ。明日にでも」
「そうね。それが良いかも知れないわね」
「ワシは、彼女を信じるぞ! 悪いが、風呂入りたいんだが?」
父さんは、敵なのか味方なのか?
とにかく明日、聞いてみよう。
「風呂? いいよ。今入れるよ」
ちょっと、高めの温度にしておこうか?
「あぁ~! やっぱり風呂は熱めじゃなければなっ!」
顔を真っ赤にして、父さんが風呂から出て来ました。
逆に喜ばれた?
「一本もらうぞ!」
「あぁ。何本でも好きにどうぞ!」
「だぁ~うまい! 明日早いんだ何本も飲めるか! もう一本はもらうけどな。は~ははっ!」
良いよな~。
結構、定期的に二人して、どっか行ってるもんな。
うらやましいよ。
「そうだ会社休んでお前も行くか? あぁ残念だ~。チケットが無いか?」
「ごめんね典ちゃん。ものすごく楽しみなの。この人」
「そうだね。見れば分かるよ」
何でも、国内で何十年ぶりかの皆既日食を見に行くんだとか。
「明日の送りよろしくな!」
「なっ!? だって空港に止めるんじゃなかったっけ?」
「誰もそんな事は、一言も言っとらんぞ! さぁ寝るぞ!」
行っちゃったよ……
「母さん……」
「明日は、よろしくね典ちゃん。彼女に電話したら?」
「あぁ……」
自由人だな~!
ホントうらやましいよ。
「大丈夫かな電話しても?」
「平気よ~! じゃあね。おやすみなさい。……ほら早く電話! 電話!」
「分かりました。おやすみ」
……本当に平気かな~?
私は、電話を掛けてみました。
「もしもし。さっきは、父さんが変な事言ってごめんね」
「大丈夫ですよ」
何だか聞きづらいな~。
これは、父さんがくれたチャンス?
いや、母さんがくれたチャンスかも知れない。
よしっ!
「唐突だけど、本当に彼氏っていないの?」
「はい。いませんよ」
「あれ? 事務所に……ほら仲の良い」
あっさり返されたけど最近も見たぞ!
「あぁ~。よっちゃんの事ですか? あの子はいとこですよ」
「いとこ!? よっちゃん! ははっ……。そうなんだ~」
「何か?」
切り返し!
切り返し!
話しを繋げろ!
「明日、父さん達を空港まで送って行くんだけど。一緒にどうかなって?」
「いいですよ」
「本当っ! ちょっと早いんだけど迎えに行くよ! それじゃあ明日」
よしっ!!!
「んっ!?」
人の気配!
ふすまを開けて見ました。
「もう……。見てた今の?」
「良かったな典秀」
「おやすみね。典ちゃん」
どれだけ心配なんだよ。
……親だからか?
「あ~あ。寝よ」
-翌朝-
「おはよう典ちゃん」
「おはよう。父さんは?」
「もうすぐ来るわよ」
宮元さんにも、さっき連絡したから大丈夫だし……
「よし! 亜美さん家レッツゴーだな!」
「何をはりきってるんだよ! 父さんは……」
「ささっ! 行きましょう!」
母さんまで……
東の空が明るくなって来ました。
彼女は、家の前で待っていてくれました。
「亜美さ~ん。おはよう!」
「おはようございます」
「おはよう宮元さん」
彼女を車に乗せて出発です。
「皆既日食ですか。うらやましいですね」
「行くかい!? 亜美さんも」
「あなた~! ごめんね亜美さん」
そろそろ、穏やかな母さんも……
「母さん? 父さんって、こんな感じだっけ?」
「そうなのよ! いい歳して恥ずかしいわ」
「要らない事を言うんじゃない! お前は!」
母さんも大変だな。
「私、気にしてませんから大丈夫ですよ」
「ほらっ! 見なさい。お土産期待して待っててね亜美さん」
「朝ごはん、コンビニでも寄ろうか?」
空気を変える為に話題を振った。
「私、おにぎり作って来たんですけど。食べますか?」
「いただこうかな! 亜美さんの手作りおにぎり! おっ昆布だな」
「おかずは、簡単ですけど……。どうぞ」
なんて気が利く女性なんだ。
私も一つもらいました。
中に入っていたのは紅サケでした。
「うまいぞ! 亜美さん!」
「ありがとうございます」
「……」
母さんは、少しあきれているのでしょうか?
会話に入って来ませんでした。
その後も、車の中は遠足のようでした。
私達は、無事に空港に到着しパーキングに車を止めました。
「お気を付けて」
「ありがとう亜美さん」
「母さん、楽しんで来てね」
どれだけ気に入っているんだよ父さんは!?
「行っちゃったよ。 大丈夫かな?」
「平気ですよ。しっかりとしたお母様が付いていますもの」
「……そうだね。じゃあ展望デッキにでも行ってみる?」
このまま帰るのはもったいない。
展望デッキは少し風があり、飛行機が次々と飛び立って行くのが見えます。
辺りには、見送る人?
カメラを持って写真を撮っている人。
結構、人がいます。
「すごいですよね。あんな大きな物が飛ぶんですよ」
「そうだね。人間ってすごいよね。あんなの作るんだから」
「そうなんです! 人間はすごいんです!」
宮元さんどうした?
「見てると飽きないね。でも下に降りる?」
「もう少し、いいですか? もう少しだけ」
「うん、いいよ」
飛行機が好きなのかな?
気のせいか輝いて見えます。
「行きましょうか。典秀さん」
「もういいの?」
「はい! 次は向こうのターミナルです!」
私達は、地下の連絡通路を通ってもう一方のターミナルへ向かっています。
すれ違う人、追い越して行く人……
それぞれの目的地を目指して行き交っています。
「こっちは、また全然違うね」
「そうですね。向こうは工場地帯。こっちは海といった感じですね」
「めったに来ないから新鮮だよ。あっ!? 座って何か飲む?」
ずっと立っているのも疲れるしね。
私だけ?
「さぁ、次は下に降りて、お買い物しましょう!」
「オッケー! 何が欲しい?」
「え~? 何か買ってくれるんですか?」
空港でのデートみたいだ……
空港デートだ!
初のプレゼントを是非、見つけたい!
そばにあったフリーの冊子を開いて見ました。
宮元さんもぞき込みます。
「あっ! これかわいいですね~! でも高いですね」
「……そうだね」
「これ空港限定ですって! 行ってみましょ!」
すごく楽しそうです!
もちろん私も……
なんか良い雰囲気です!
酔いしれそうです!
次話へつづく