「心境」
宮元さんと二人でスケッチに来た典秀。彼女がコビトカバが好きな事を知る。それと同時に才能というよりも能力を実感する。その反面、彼女の事をどこか心配なっている典秀がいる。しかし、人の心配をするあまり、自分の事をすっかり忘れてしまい焦りと冷静の狭間を漂う……。
私は、宮元さんの所から少し離れて、サイの所に来ました。
買ったばかりの新しいスケッチブックを出して早速描き始めました。
「慣れてないな~。あぁ……こらっ!」
当然、動物なので普通に動き回ります。
「おっ!? 止まった?」
よく分からないけど壁の所で動かない?
「今のうちだ~! へぇ~、隣りにキリンが居るじゃん! おぉ~!!?」
サイが……
「おいおい火消せるんじゃん! あははっ」
一人で笑ってしまいました。
サイがキリンの方に移動します。
「良いね~! サイとキリンのツーショット!」
よし、もうちょっ……!?
「あぁ~……」
キリンが去って行きます……
微妙に中途半端になってしまいました。
キリンの所に移動します。
私は、また少し宮元さんから離れました。
「……? キリンの舌ってあんな色だったのか?」
しかも長い!
私は、描き続けます!
よ~し!!
「おぉ~! 上手く描けた!」
しかし、動物ってこんなに動き回るのかと改めて思いました。
宮元さんが描いていたコビトカバって動き過ぎじゃないのか?
あんなに動いて描けるのか?
まだ、コビトカバの所に彼女は居ます。
「おっ! オカピだ!」
楽しんでる!
私は、久々に楽しんでる!
絵を描いているから?
でも、オカピは写真を撮って終わりました。
「フラミンゴか~っ!」
あの細い足でバランス感覚いいよな。
わりと描きやすい?
雑に描いてる訳ではないけど手が動きます。
「そうだ!」
さっき撮った写真を再生して見ました。
「これはっ!!」
真剣な彼女の姿です。
私は、近くのベンチに腰を降ろしました。
スケッチブックの最後のページ……
そこに画面を見ながら彼女を描きました。
また怒られるかな?
なっ!!?
何か視線的なものを感じた気がしました!
後ろから……?
振り返って見ました。
「あっ!?」
鳥です!
「クチバシがデカいなお前は」
ハシビロコウという鳥です!
すぐ近くまで来ています。
私に描いてと言わんばかりに……。
考え過ぎか?
「いいよっ! 描きましょう!」
少し近寄って、持って来たイスを取り出しました。
素晴らしいモデルです!
「オッケ~! ありがとう!」
またベンチに戻ってちょっと休憩です。
「もういいよ! 何を見てるんだろう?」
ハシビロコウの前に、一組のカップルが来ました。
まぁ、自分には関係ないので休んでいました。
「あのすみません。一枚撮ってもらえますか?」
「えっ!? あ~いいですよ」
絶好のポジションだもんな撮りたくなしますね。
「ありがとうございます。スケッチしてるんですか?」
「下手ですけどね。はは……」
見たいのかな?
「こんな感じです。今描いたやつです」
「何が下手ですか!? ねぇ彩恵?」
「スケッチなのに眼光がこんなに……。あぁ~っ! スゴイです~」
そんなに褒められると照れます。
「あの~? もう一枚角度を変えて……良いですか?」
「はい。撮りますよ!」
「ありがとう!」
ハシビロコウが好きなんだなぁ~。
私は、コビトカバの所に向かいました。
実際よく見ていない事を思い出しました。
宮元さんは、もうここには居ませんでした。
「そうだよな~」
コビトカバ描けたのかな?
「しかし動くなぁ~!」
なんか無理っぽいな~。
写真に残しました。
「あれ? 麻牧さん! もう時間でしたっけ?」
「宮元さんこそ……」
「私は、トイレに行ってただけで……」
まさか!?
ずっとここに居たとか?
「どうですか? 良いの描けました? 麻牧さん」
「まぁ、そこそこね」
「ちょっと早いですけど、お昼にしませんか?」
集中していると疲れるからね。
「向こうのテラスでお弁当を食べましょう!」
「作って来たの? 嬉しいな~」
てっきり目の前の食堂?
で食べるのだと思っていました。
「……まだ居るよ」
「どうしました?」
「さっき出会ったカップルがね……」
二人と目が合いました。
軽く頭を下げてテラスの方に向かいました。
「はい! どうぞ~!」
「美味しそう~! いただきます!」
「どうです?」
彼女が、のぞき込む様に私を見つめます!
「うまい! いい奥さんになるね」
「いい奥さんになるだなんて……。照れます」
「いや。冗談抜きにして、料理もうまいし絵も上手い!」
本当にお世辞ではありません。
今日は良い日だなぁ~!
天気も良いし!
「どんな感じですか? スケッチは?」
「見る? さっき褒められちゃった。あの二人に」
「結構、描いたんですね? 今日は正解です! ここに来て」
こちらこそ大正解です!
日頃の忙しさから解放されたって感じです。
美味しいお弁当もあるし。
「……これ?」
「あっ……」
最後のページの描いたやつを発見してしまった様です。
まずいかな……。
「それは…………」
「実は……。私も……」
それは、サイとキリンを描いている私をスケッチした物でした。
「いつの間に?」
「すみません」
「全然気にしなくていいよ!」
他にスケッチした物も見せてもらいまた。
…………。
「こっ! これは……。コビトカバのみ!?」
「はい! どうですか?」
「すごい表現力だ! よく描けたね!?」
相当好きなんだなぁ~。
さっきも居ました何処かに……。
「ごちそうさま! 美味しかった」
「また作って来ますね!」
「あぁ……。うん」
作ってくれるのは嬉しいけど……
相手が違うんじゃないのかな?
発言するのは、あえて控えておこう。
「この辺、もう一度回って向こうに行く?」
「そうしましょう!」
「……まだ居る!!」
ベンチに座ってお弁当を食べているさっきのカップル。
その先には、ハシビロコウが……
この二人も相当なものです。
感心します。
私達は、さっきよりも軽くスケッチしながら移動して行きました。
「わぁ~! パンダは、まだすごい行列ですね!」
「どうする? 一応見て行く?」
「私は、コビトカバを描いたので、特に今日じゃなくてもいいですよ」
彼女の中では、パンダより上なのか?
上野だけに……
うわぁ~、寒いかぁ~!?
「そう? でも見るだけ見て行こうよ!」
「そうですね」
最後尾に並びました!
そろそろです。
もう彼女は、スケッチブックを手にしています!
しかも、手が動いています!
私には無理だと思いました。
私は、彼女の横顔からのパンダとの写真を撮りました。
「ふぅ~!」
「よく描けたねっ!?」
「はいっ! なんとかです!」
なんかデートだな……。
楽しい!
私達は、地元の駅に戻って来ました。
「麻牧さん! 家に寄って行きませんか?」
「絵ごころの家?」
「店の方じゃなくて自宅にです」
良いのだろうか……?
「駄目ですか? この後、何か予定でも?」
「えっ! あぁ~。うん……」
「そうですか~。残念です。じゃあ、今度は来て下さいね」
私と宮元さんの乗るバスは別方向です。
彼女の乗るバスの方が先に来ました。
「今日は、ありがとうございました」
「こっちこそ楽しかったよ!」
彼女は、バスの中から手を振っていました。
私もそれに応えます。
時刻通りにバスは行ってしまいました。
私の乗車するバスは、あと5分程待たなくてはなりません。
あと5分……
されど5分です。
「仕方ないよな……」
長い……
まだ3分あります。
「タクシーで帰ろうかな?」
バス停からタクシー乗り場に向かいます。
「麻牧さん!」
今、駅に到着したバスの方から彼女の……
宮元さんの声がしました。
「お客さん? 乗るの??」
「すみません!」
宮元さんが居ます!?
タクシー乗り場から離れて、宮元さんに駆け寄りました。
「宮元さん! どうしたの?」
私の乗るバスが到着しました。
「用事は、明日にして下さい! 家に行って良いですか?」
「はぁ!?」
彼女もバスに乗っています。
乗っています…………。
「宮元さん? どうして?」
「鈍い方なんですか? 典秀さん!」
「どうした~!? ……典秀さん?」
鈍くはないと思うけど?
お互いの状況があるでしょう。
そうこうしている間に降りるバス停が来ました。
一応ですが、私の家に向かいました。
帰る気がなさそうです。
「なっ!? 何ですか? この状況は!?」
「夜勤明けは、こんな感じだよ。いつもの事だよ」
「用事って、これなんですね!」
他人からするれば家の中は散らかり放題?
夜勤明けは大体掃除にあてている。
予定があった日は、割り切っている次第です。
「お腹空いてない? どっか食べっ」
「いいえ! 大丈夫です! 食べるのは片付けてからです!!」
「結構かかるよ! ってどうしても?」
彼女は、強い口調で……
張り切っている様にも見えなくもない。
洗濯だけはしてある。
それだけが救いで、内心ほっとしています。
家の中がどんどん片付いていきます。
だらしのない男だと思われただろうか?
休み中に掃除を完了させるという私なりのルールが一応ある。
今の状況では、聞き入れてはもらえないだろうな。
「休憩にしない!? 作ったんだけど……」
「はぁ、はぁ……。はい。分かりました」
「悪いね。こんな物しかなくて」
インスタントのラーメンに炒めた野菜を入れた簡単なもの……
今、出来る物はそれしか無かったのが正直なところです。
あと、缶酎ハイ……
これは、要らなかったかな?
「典秀さんは、いつもこんな感じの食事を?」
「たまに作る感じかな。カップラーメンよりは良いと思うけど」
「もっとちゃんとした食事を摂るべきです!」
私は、頭に手をやりながら言いました。
「そうは言ってもね。なかなか難しいんだよ」
「私、来ましょうか!?」
「お願しようかな~……。あっ冗談! 冗談」
あぶないあぶない!
何だか変な汗が出て来ました……。
「ん~? 私って邪魔ですか?」
「なっ!? 邪魔な訳ないでしょう! こんなにいい女性!」
「……典秀さん」
彼女は、席を立ち私の左隣りに座り寄り添った。
酔ってる?
お酒弱い?
って言うか飲めない人なのか!?
「みっ……宮元さん? ……寝てる?」
寝室はマズイか……
ソファーに彼女を移動させました。
私は、片付けの続きを始めました。
と言っても、ほとんど終わっている感じでした。
「ホント、いい奥さんになるよ……」
ソファーで横になっている彼女にそっとつぶやきました。
何があったかは知らないけど気晴らしになったかな?
掃除の方は、最後の食器を洗って片付け終了です。
「ふぅ~! 終わった~!」
いつもより全然早く終わりました。
宮元さんのおかげです。
車で誰か来たようです。
カーテンを少し開けて見ました!
「あぁ~っ!! 今日だったけ……」
両親です!
すっかり忘れていました……。
私は、急いで外に出ました!
何でも、明日から旅行に行くそうで……。
ここから早朝に羽田空港に向かう予定みたいです。
近くのホテルに泊まれば?
と言ったのですが聞き入れてくれません。
理由は聞いてませんが、何かあったようです。
「典秀、今日は世話になるぞ」
「典ちゃんヨロシクね」
「典ちゃんは無いよ母さん! あ~っ!」
入って行っちゃったよ~!
「キレイにしてるじゃないか……!」
「典ちゃん…………?」
ちゃんと話せば大丈夫だ!
多分……。
あぁ、神さまぁ~…………!!
次話へつづく