「魅力的」
典秀は、明日のスケッチの為の道具を買いに久しぶりに画材店に行く。そこで元奥さんと会うが、もう彼女は彼女の物語を進んでいた。準備を整えた次の朝は良い天気です。待ち合わせの時間より早く着く典秀。宮元さんと行きます電車に揺られて……。
彼女からのメールが来たのがもう先月の事。
あっという間に時は過ぎていました。
特にメールも無く、する事もありませんでした。
付き合っている訳ではないので気にしていませんでした。
彼氏がいると言う事もあるからでしょう。
人の恋路を邪魔すつもりはありません。
今の私の勤務は夜勤ですが……。
先月から生産数が増えて、工場は24時間稼働しても足りないくらいです。
そして、今週の週末が宮元さんとの約束の日となります。
まだ、画材店には実の所行けてません。
夜勤明けに行こうと思っています。
「絵ごころの家」にも寄って行こうと思います。
いよいよ今日が最終日です。
生産は、今週が山場で来週は通常くらいに戻る予定。
朝日が昇って来たようです。
勤務時間も終わりが近づいています。
「お疲れさん!」
「上がります! ふぅ~」
何とかトラブルもなく終了です。
これから「絵ごころの家」に向かいます。
……また渋滞しています。
着いた頃は、8時になろうとしていました。
「おや? やってない? 「close」となっています」
7時43分に宮元さんからメールが届いていました。
「お疲れ様です。
まだ車の中でしょうか?
明日の予定ですが8時に駅でいいですか?
小さな椅子があったら楽ですよ」
もしかして忙しいのを気づかって…………
「やっぱりいい女性です。彼氏がうらやましい」
それにしても、「絵ごころの家」はどうした?
朝もやっていたはず。
もう閉店してしまった??
どこを見てもその様な張り紙は見あたらない。
たまたま休みなだけの様です。
私は、コンビニで朝と昼の食べる分を買って戻る事にしました。
いつもの様に洗濯をした後、今日は彼女にメールをしました。
「明日、晴れるといいですね。問題ないです。色は要らないよね? では明日」
簡易的なものなら100円ショップでも見た事がある。
心配ないだろう。
……睡魔には勝てません!
午後12時20分、アラームが鳴りました。
「う~……だるい~」
私は、もう一度シャワーを浴びて気分を切り替えました。
そして、車で画材店に向かっています。
その画材店は、昔だったら大型かも知れないショッピングセンターの中にあります。
久しぶりです!
ありました!
全然変わっていません!
私は、2B、4Bの鉛筆を手に取りました。
「8Bは要らないかな? スケッチブックは……」
スケッチブックも色々です。
なんか懐かしい……。
「あれ? 典君!?」
「奈緒……」
「久しぶりだね。また描いてるの?」
顔を上げて見ると……
10年前に別れた元奥さんでした。
「ちょっとね。必要になって」
「出会った時もこんな感じだったね」
「あぁ、そうだね」
それは、20年以上も前の話しです。
忘れもしません。
「麻牧君って、絵描くの?」
「えっ? 誰?」
「ひど~い! 同じ会社でしょ!」
この時は、全く他の人に興味がありませんでした。
それから何度か出かけるようになりました。
そして、籍を入れて……
この後、一戸建て住宅を購入!
キツかったが、そこまでは良かったのです。
今も私はそこに住んでいる……。
奈緒は、ある理由で私の前から去って行きました。
色んな原因が重なったのだと思います。
今考えると……。
「どうしたの? 典君!? ねぇ」
「はっ!! あぁ……何でもない」
「これからどうすんの?」
どうすんのって言われても……
関係ないよな。
「もうちょっと、ここに居るつもりだけど」
「私も居ようかな~」
「なんか用事あるんじゃないの?」
関係ない。
関係ない。
「冷たいねなんだか。……そう用事あるの。じゃあね~」
「あぁ……」
どっちが冷たいんだよと思いながら少し素気なく答えました。
彼女は、足早に行ってしまいました。
あの時も、こんな別れだった気がします。
要らない事を思い出してしまいました。
「あれ? 典君!?」
「奈緒……。ドッキリかい!?」
「嫌じゃない? あの時みたいで」
確かに……
私は、会計を済ませました。
「ねぇ。ちょっと時間ある?」
「いいけど。用事は?」
「ほらまた! 良くないよ典君。その突き放す感じ」
相手の事を思って言っているだけなのに言い方が悪いのか?
せっかく会ったんだし気まずいのも嫌だな。
コーヒーでも飲む事にしました。
「へぇ~、そうなんだ。明日ね~。いいんじゃない」
「変な誤解しないでくれよ。純粋に絵をだな~」
「はいはい。相変わらず真面目ね~」
世の中には、こんな男もいるんだよ!
一度一緒になったくせに……
こんな事言うと、また何か言われそうだ。
「あっ! ごめん。子供むかえに行かなくちゃ!」
「子供いるんだ?」
「そうよ~。じゃあね。会計払っておくね」
行ってしまいました。
なんだか幸せそうで良かった。
「すみません! コーヒーセットを一つ下さい」
冷めたコーヒーを下げてもらい、もうしばらく居る事にしましたが……
さっきまで会話をしていた事が嘘の様に思えてきました。
周りの声が妙にはっきり聞こえてきます。
私は、注文したコーヒーセットを食べて店を出ました。
こんな事、今まで思った事がありませんでした。
……いや、前にもありました。
奈緒が出て行ったあの時です。
何を私はブルーになっているんだ?
明日の事を考えよう!
「あと椅子だよな。家にあったかも?」
一旦、確認の為に戻る事にしました。
物置きを探してみました。
あるにはあったのですが……
「思ったよりボロボロだな。ん~」
車を走らせ近くのホームセンターに向かいました。
アウトドア用品の売り場にちょうど良いのがありました。
座る所が三角で、たたむとコンパクト!
「500円くらいで買えるんだ~」
これで、準備が整いました。
後は、明日を待つだけです。
「疲れた~」
家に着いてほっとしたのか急に疲れが襲って来ました。
宮元さんさんからのメールが…………
「……うわっ!? 寝てた! そうだメール! メールだよ!」
時刻は、もう午後7時を回っていました。
「今、仕事終わりました。いよいよですね。
遅れたら許しませんよ!
冗談です……。
行き先は、上野です。
それでは、明日」
あっ!
「行き先……!!」
今知った私は、なんてうかつな奴だ。
心配してくれたのか?
絶対に遅れないと返信しました。
「なんかデートみたいだな。でも……」
もしかして!?
他にも誰か来たりして?
二人だけでとは言ってなかったよな。
「まぁ、二人でも変な事になるとは思えないし」
本当に遅刻したらしゃれにならないよな!
素直に寝る事にしました。
翌朝は、スッキリ目覚める事が出来ました。
天気も良いようです。
私は、少し余裕で着くバスに乗りました。
駅には、15分前に着きました。
「宮元さんからメールだ!」
もう一つ、うかつな事に気が付きました。
携帯番号です……。
これが、二人の境界線なのかも?
くだらない妄想か?
メールを見てみるとこうでした。
「おはようございます。
目の前のカフェにいます。
今そっちに行きます。
そこにいて下さい」
カフェの方を見ました。
彼女が手を振っています。
いつから居たんだろう?
私よりも早かったという事になる。
「おはようございます」
「おはよう……。一人?」
「はい。そうですけど何か?」
何だか自分が恥ずかしい……。
でも、本当にこれは二人でという事になる。
「いや何でもないんだけど、か……」
「かぁ? 気になります。何ですか?」
「格好……どうかなって?」
何を言ってるんだ?
本音をなかなか言えない、こう言う奴の定番のセリフみたいです。
「普通でいいと思います。変じゃないですよ」
「そう? 良かった」
「もう少しで電車が来ますよ。乗っちゃいます?」
彼女は、笑顔で楽しそうです。
もう小さなスケッチ旅行は始まっています!
「うん! 乗っちゃおう!」
絶対の自信を持って楽しくなると思います!
電車に揺られて、数十分……
「やっぱり早く着いちゃいましたね。でも気持ちいい~! ん~~っ!」
「開園まで散歩でもし……」
「あっ! あの花きれいですよ!」
駆け出したと思ったら、早速スケッチしてる?
結構、描き慣れている感じです。
「絵描くの好きなんだね」
「はい! 大好きです! 麻牧さんもそうでしょ?」
「まぁ、そうだね。しばらく休んでたけど」
そうだよ!
私も絵を描くのが好きなんだよ!
彼女の言う通りです!
そろそろ開園の時間です。
動物園なだけに家族連れが多いです。
お目当ては、白黒のジャイアントパンダと言ったところでしょうか?
「私、描きたい動物がいるんですけどいいですか?」
「何? やっぱりパンダ?」
「いえ違います。コビトカバです」
コビト?
何だ?
「カバの事?」
「見た目は、カバに似ています。かわいいんですよ」
「カバ、好きなんだ。 園内マップで見ると……」
お~、どこだ?
昔、一度来た事があるだけだから……
言い訳になっちゃうかな?
「ここです!」
「ホントだ!? ちょっと遠いけど、そこをスタートにしよう!」
「ありがとうございます」
他の動物をそれなりに横目で見ながら、そのコビトカバを目指します。
私は、隣りのサイでも描いてみようかな?
「かわいい~! 丸みがいいですよね~」
「カバだよね? 小っちゃい……」
「よく見て下さい! 耳とか目とか全然違うでしょ!」
そう言われればそうだけど……
看板にも書いてある。
「では、始めますか!」
「はいっ! 12時頃に、ここでという事でどうですか?」
「うん、オッケーだよ! じゃあ向こうのサイ描いてみる」
私は、サイの方に移動しま……
「宮元さん!」
「はい……」
振り返った彼女の一瞬!
「良いの撮れました!」
「……」
いきなりはまずかったかな?
「気悪くしたかなぁ……」
「もう一回! もう一回コビトカバと撮って下さい! それからGOです!」
「分っかりました~! 今だ! 撮るよ! はいチーズ!」
これも良い~!
実に良い笑顔です!
「最高の笑顔です! 頂きました!」
「本当ですね! コビトカバ最高です!」
「……じゃあ、スタートです! いいの描きましょう!」
改めて本当にスタートです。
宮元さんは、早速始めています。
真剣な横顔……
オーラを感じます!
一枚……
押しちゃいました!
「麻牧さん!」
「よ~し! サイ描くぞ! サイ!」
3枚も撮っちゃた!
「おお~! サイの角カッコイイ!」
私もスケッチに入りました。
次話へつづく