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絵ごころ引力  作者: yomo
3/21

「錯覚?」

 宮元さんのモデル起用で戸惑う典秀。不思議な緊張感に包まれながらも絵を完成させる。宮元さんの驚きの行動に更に戸惑う典秀……。

 彼女がモデル!?

 どうして彼女がそっちにいるんだ?


 だけど、綺麗だよ宮元さん!

 最高です!!


 こころの声がもれそうです。


「本日は、ワケがありまして、急きょ宮元さんにモデルをお願しました」

「今、緊張しています。皆さんよろしくお願いします」


「亜美ちゃん! 深呼吸! 深呼吸よ!」


 事務所のおばちゃんが声を掛けました。

 宮元さんは、目を閉じて深く深呼吸しました。

 そして、ゆっくりと目を開けました。


「よろしくお願いします!」

「では、始めましょう! こちらに来て下さい」


 さぁ!

 スタートです!!


 変に描いたら宮元さんに悪いな……。


 衣装は、フリルの多いかわいい感じの純白のドレス。

 両肩を出して下はミニスカートだけど後ろが長めとなっている。

 頭のティアラと大きめのネックレスがゴージャス感を出している。


「さぁ、皆さんよく観察して描きましょう!」


 参加して良かった~!


 手に持ったブーケもかわいい。

 今日は、全身全霊をもって挑もう!


 ん~……


「どうしました? 人物は苦手ですか?」

「えぇ……。あ……大丈夫です」


 大丈夫と言ったものの難しいです。

 集中!

 集中!!


 先生は、他の人の所を見て回っています。

 しばらくして再び私の所に来ました。


「いいですね~。もしかして習っていましたか?」

「いえ、描くのが好きなだけです」


「どうです? 習ってみませんか?」


 10年前だったらというのが先行した。


「いやいや、私なんて」

「そうですか? いつでも歓迎しますよ」


 休憩を経て仕上げの作業です!

 微妙な濃淡の調節。

 昨日の様に、黒くならない様に……


「……よし!」


 出来た~!

 つい声に出してしまいました。


「えっ!? 私が最後?」


 周りを見ると、他の人は席を離れていました。


「はい! 皆さんお疲れ様です。宮元さんもご苦労さん」


 ここに来ている人達って結構上手いんだけど?

 習っているのか?


「麻牧さん、どうでしたか?」


 宮元さんが着替えて戻って来ました。


「綺麗でしたよ。完璧に描けましたよ!」

「すごい! 描くの本当に上手なんですね」


「それでは、また機会があれば参加して下さい」


 何だか久しぶりに充実した2日間でした。


「麻牧さんちょっとよろしいですか?」

「はい。何でしょう?」


 先生に呼び止められました。

 どうしたんだろう?


「あなたの描いた作品をよろしければ譲って欲しいのですが」

「これは、ダメですよ!」


「そうですか。迫力があって素晴らしいと感じたのでつい……」


 迫力?

 もしかして……


「こっちですか? 1日目に描いた」

「そうです! そのカメラです! 素晴らしい!!」


 私は、内心ほっとしています。

 カメラの方も実は私も気に入っています。


「いいですけど。私の描いたのでよろしければ」

「本当に習ってみませんか? 一度見学に来て下さいよ!」


「行けたら……ですかね」


 まだ誘って来ますか?

 やっぱり無理ですね。


「また参加してくださいね」


 カメラの方を渡して先生と別れました。


「じゃあ宮元さん、お疲れ様!」

「お疲れ様です。あの…………。いえ何でもないです。……じゃあ」


「あぁ、気を付けて」


 私は、昨日の様に彼女には声を掛けませんでした。


 施設の門を出て、お互い背を向けて歩き出しました。

 そ~っと、私は描いた絵を歩きながら見てみました。


「麻牧さん!!」

「はっ……はいっ!? えっ?」


 振り返ると宮元さんが、こちらに小走りで向かって来ています!?

 どうしたんだ?


「はぁ、はぁ……。呼び止めてすみません」

「どうしたの?」


「あそこの喫茶店に寄って行きませんか? はぁ~」


 彼女は、大きく息をはいて呼吸を整えました。

 私としては何も断る理由はありません。


「いいけど……。久しぶりだな~」

「来た事あります?」


「あそこのホットココアとパンケーキ美味しいんだよね」


 私達は、同じ方向に歩き出しました。


「麻牧さん、車じゃないんですか? 昨日もそうでしたね」

「たまにはバスも良いかなってね」


「バスの旅してみません? よくあるテレビ番組見たいに?」


 どういう事?

 お~、何か妙な緊張感が襲って来ました。

 おじさんをからかっているのか?

 悪い気はしないけどね。


「あ~。宮元さんは、絵とか習っているの?」

「この教室だけですよ。今回で2回目です」


「へぇ~。上手いよね」


 あっという間に喫茶店「絵ごころの家」に着きました。 


「いらっしゃいませ~! あ~、おかえり! あら? のりさん」

「お帰りって?」


「典さん……て?」


 もしかして宮元さんの家?

 前は、夜勤明けの時に必ずと言っていいほど寄っていました。


「ここって? もしかして……?」

「私の実家です。母です」


「来ないからどうしたのかな~って思ってたのよ」


 気にかけてくれてたんだ。

 優しいお母さんだな~。


「そう言えば、典さんはこの絵が気に入っていたわね」

「そうなんですか? 麻牧さん!」


 その絵とは、ハガキ4枚くらいの小さな油絵。

 眺めているだけで心がほっとする。

 そんな温かさすら感じるコーヒーの絵です。

 カップから出ている湯気が特に良い感じです。


「あれっ!? そう言えば、娘さんが描いたって……」

「それ私が描きました。6年くらい前に」


「この絵本当いいよ! 好きだな~」


 本当に癒される感じがします。

 彼女は、才能があると思う。


 二人で何かを話している。

 なんだろう?


「この絵、差し上げましょうか?」

「なっ……!? なに突然? 良いの? いやいや……」


「麻牧さんにならいいですよ」


 彼女の言葉にウソはなさそうです。

 お母さんの方もコクリと頭を下げました。


「いやでも。他のお客さんだってこの絵が好きな人はいるはず」

「早い者勝ちですよ! 典さん」


「えっ!? どう言う事?」


 不思議な感覚で店内を見回して見ました。

 よく見ると、何点か絵が外された所がある。 


「実はね典さん……。ここ閉めようかと思って」

「うそでしょ!? 何時いつ? またどうして?」


「もう少し先になると思うけどね。ちょっと訳があってね」


 なんだ?

 何があったんだ?

 立ち退きなのか?

 そうなのか?


「訳は聞きませんけど。喜んで頂きましょう!」


 宮元さんは、おもむろに壁から絵を外しています。

 そして、毛羽たきでほこりをはらい私に手渡しました。


「どうぞ!」

「ありがとう! 早速、帰ったら飾るよ」


「あ~。それは一応……、コーヒーじゃなくてココアなんですよ」


 そうだったのか~!

 口に出さなくて良かった~!


「いろんな人がコーヒーって言うんですよ! 一応、お断りを入れておきますね」

「了解しました。コーヒーより少し赤っぽい色使いがココアだね」


「そうなんですよ! 見るところが違いますね! …………」


 涙……?

 そんなに気にしていたのかな?

 でも、何か違うような気もするけど……

 考え過ぎかな? 


「絵の教室はどうだったの? 二人の作品が見たいわ~」

「いいですけど。一枚は、どうしてもって言うんで先生にあげてしまったんですよ」


「私は、今日モデルだったから昨日のしかないわ」


 私達は、それぞれの描いた作品を壁に立て掛けました。


「いいじゃないの~! 典さんも上手!」


 カラ~ン!


「愛ちゃん! コーヒーちょうだい!」

「あら、もう休憩時間?」


「いいのいいの。おや亜美ちゃん! その絵描いたの?」


 近所の人のようです。


「こっちは、同じ会社の麻牧さんが描いたんです」

「へぇ~。なかなか上手いじゃないか。でもオレも上手いぜ!」


「何をやっている方ですか? もしかして画家とか?」


 それとなくストレートに聞いてみました。


「オレか? ただの建設会社の社長さんだよ。ただのな。あははははっ!」

「はい、コーヒーお待たせ。洋ちゃんが描いたのは、ほらあれよ!」


「おおぉ~! そうだったんですか~! 上手い!!」


 聞くと、自宅にいる猫だそうです。

 毛並みの感じがいいですね。

 ふわっとしていて、実際に触ってみたくなります。

 それに目もかわいい!


「照れるじゃないかよ! 欲しいか?」

「えっ!?」


「遠慮するな! 愛ちゃんいいだろ? なっ!」


 どうしよう……。

 いいんだけど宮元さんの絵よりも大きい。


「今日は無理なんで、予約という事でまだ飾って置いて下さい」

「おっ! いいよ!」


「出来れば閉店の日まで……」


 無くなっていくと何だか寂しい感じがしてなりません。


 私は、2つの絵を持ってバスに乗って家に帰って来ました。

 宮元さんの描いた絵を一番見える場所に飾った。

 自分の絵がいた宮元さんは、大事に保管して置く事にしました。

 なんか照れくさい……。


「いいだな~」


 明日から、昼勤なんだよな~


「もっとリラックスしていけよ」

「そうだよな……。はっ!?」


 また?


 さぁ!

 明日から頑張ろう!


「おはようございます。麻牧さん」

「おはよう。どうしたの? 8時出勤じゃないの?」


「昨日、忘れ物をして行きましたよ」


 チュッ!


「うわっ!?」

「日が合ったら、どこかに絵を描きに行きましょう!」


「行くのはいいけれど……。誰もいないよね? ヤバイって……」


 ほほを軽く押さえながら周囲を確認……。

 幸い誰にも見られていなかった様です。


 その日は、業務をこなすのが精一杯でした。

 社食で彼女とすれ違いました。

 彼女には特に変わった様子はない。

 何とか今日の仕事を終えて帰宅です。


 翌日、いつものように出勤しました。

 しかし、彼女が待っている事はもうありませんでした。

 なんだったんだろう?

 からかわれたのでしょうか?

 どんな行動に出るか観察されているのか?

 だから、私はメールも何もしませんでした。


 私が遅番の勤務になった時です。

 彼女からこんなメールが来ました!


「来月なんですが描きに行きませんか? ダメですか?? 動物なんかどうですか?」


 このメールになんか嬉しくなってしまいました。

 B5くらいのスケッチブックを用意すると返信しました。

 送った後に、私は人が良いのかと思ってしまいました。


 そして、ふと思いました。

 彼氏と何かあったのか?

 本当に描きに行くのか?

 また、からかわれてるだけなのか?


「いや……、宮元さんに限ってそんな事はないだろう」


 何を私は疑っていたのだろうか。

 情けない……。

 失礼だな!


 もう考えないようにしよう。


 私の休みで彼女と合う日は……

 来月の最終週でした。

 それには、まだ一ヶ月くらいあります。


「長いな~」


 カレンダーを見ながらつぶやいていました。

 約束の日までには画材店に出かけようと思います。


 昔行っていたあの画材店……

 まだあるかな?


 何かドキドキしてきました。



次話へつづく

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