「チケット」
亜美の家をでた典秀。その途中で、事務所の吉田さんを見かけるが少し様子がおかしい……。声をかけて呼び止める典秀。訳を聞いてみるが複雑な思いになる。そして、亜美からのLINE。
吉田さんを呼び止め私……
良かったんだろうか?
いや、そんな事は今はどうでもいい。
私は、彼女を説得しました。
車に乗ってもらい発進しました。
詳しい話を聞くため、近くにあったコンビニの駐車場に入りました。
「そうだったんだ……。って、その話はもう解決したんじゃないの?」
「はい。でも、彼は納得できない部分があるらしんです。説明はしたんですけど……」
「あんまり時間は無いんだけど、自分が話しをしてみようか?」
これは、早急に解決しなければ!
私は、強く思いました。
「と、言っても案内してもらわないと住んでる所がわからないや……」
「そうですね。でも、すぐ近くですよ」
「近いんだ。じゃあ行きましょう!」
コンビニの駐車場を出ました。
吉田さんの案内で車を走らせます。
「あのマンションです!」
「でも、あのマンションって、3ヶ月くらい前にできたばかりじゃない?」
「よく知ってますね。実は、一緒に住んでいます……彼と」
なんとぉぉぉ!
ということは?
私は、今から二人が住んでいる所に行こうとしているわけです。
でも、今更やめるとも言えないし……
「一緒に住んでるんだ。じゃあ、付き合って長いの……?」
「もう少しで一年半になります」
「へぇ~……。車は、どこに止めればいいのかな?」
さりげなく話しをそらしたが……
私のせいで、周りに知られてしまったという事になるのではないでしょうか?
これ以上は黙っていた方が良いでしょう。
近くのパーキングに車を止めてマンションにむかいます。
ちょっと、妙なドキドキ感があります。
特に話す事もなく、玄関のドアの前まで来ました。
吉田さんは、少しためらっている様子にも見えます。
ゆっくりと、人差し指でインターホンを押しました……
すると……
「はい」
男の声がしました。
「私……」
吉田さんは、控えめな声で返しました。
「ガチャッ!」と、ドアが開き……
「自分の家なんだから、入ってくれば……。あっ」
私と目があいました。
「麻牧さんがどうして? 美穂これはいったい?」
「偶然、麻牧さんと出会ったの。話しがしたいって言うから来てもらったの」
「……とりあえず入って下さい」
私は、まだ真新しい玄関に足を踏み入れました。
「お邪魔します」
まるで新婚だな……
「そこに掛けてください」
「ああ、ここね」
「……で、話しと言うのは何ですか?」
機嫌がよろしくない様です。
「八坂、お前まだ何か誤解しているとか? 吉田さんとは、話していただけ。それだけ」
「そういわれても……。はい、そうですかって言えますか? 何を話していたんですか?」
「……吉田さん、話しても良いよね。誤解を解く為に」
私は、吉田さんの方を見て言いました。
吉田さんも覚悟を決めた様子で「はい」と返事をしました。
「実は、吉田さんに、お前の誕生日の事を持ち掛けられたんだよ。プレゼントのね」
「……どうして、麻牧さんにプレゼントの事を? 全然、関係ないんじゃないですか?」
「それは、亜美がそう言ったの!」
吉田さんも必死です。
「宮本さんなら友達だから分からないでもないけど……。それがなぜ麻牧さんと言う事がになるんだよ」
「んん~……。まいったな~……」
「何がまいったんですか麻牧さん。……美穂まだ何かあるの?」
私と亜美さんの事を出さないと、話しが進まないかな?
このままだと、ずっと平行線のままだ……
堂々巡りだ。
私の方が覚悟を決めなくてはいけない状況です。
こんな展開は、少なからず予想はしていましたが……
実際となると、このカミングアウトは勇気がいります。
「あぁ……。付き合ってるんだよ。宮本さんとは……」
「誰が?」
「はぁ? 本人がここまで言ってるんだよ! それで誰が? って……」
私は、吉田さんを連れて場をちょっと離れました。
「もしかしてさ~。八坂って、言っちゃ悪いけど……。にぶい?」
「あはは……。少しあるかも」
「そう……かぁ。もっとはっきりと言わないとダメなのかな?」
私たち二人を見ている八坂……
「何を隅っこで話してるんですか?」
「ゴメン。この話を解決する為の話しを……」
「解決も何も、本当の事を話してくれれば良いんですよ」
だから、今からその本当の事を話すんだよ!
せっかちだな八坂は……
私は、意を決して亜美さんとの事を話しました。
でも八坂は、初め私が話している事が冗談だと思っていたらしいのです。
「こんな時に、冗談を言っている場合か!」
「すみません……」
「多分、プレゼントの事も憶測だけど、亜美さんは……」
私は、亜美さんにプレゼントした小さなサプライズの事を話しました。
「そんなことがあったんですか。じゃあ本当に美穂とは何でもなかったんですね」
「だから、そう言ってるじゃないか」
「美穂……ごめん」
良かった帰れる。
時間は……?
結構居たんだな。
「プレゼントは、楽しみに待ってればいいんじゃないの! 八坂君!」
「……そうします。今日、夜勤ですよね。すみませんでした。貴重な時間を……」
「まぁ、良いよ。それじゃあ帰るね」
私は、このまま出勤する事にしました。
それでも、時間はギリギリだと思います。
「私、そこまで麻牧さんの事見送ってくる」
「あぁ、大丈夫だよ。吉田さん。せっかく誤解が解けたんだ」
「……はい。ありがとうございました」
私は、ちょっと小走りに車に戻りました。
「コンビニに寄るくらいの時間はあるよな……」
車を発進させ、自宅ではなく会社に直接向かう事にしました。
作業服は、着替え用で置いてあるので問題はないのですが……
個人的には、時間がギリギリなのが許せないのです。
会社に到着して、着替えて工場内へ……
「あれ? どうした? 今日は、何かあった? こんなギリギリに」
「まぁ、いろいろとあって……」
私は、引き継ぎをして作業に取り掛かりました。
良い感じに仕事は進んでいます。
無心に作業に取り組みました。
時は流れ、時刻は午前6時45分。
もう少しで上がれます。
のはずが……
7時5分になっても交代する人が来ません。
連絡もありません。
私は、そのまま作業を続けました。
「どうしたんだろう?」
時刻は、7時37分です。
少し時間に余裕があるので、休憩をする事にしました。
紙コップのコーヒーが妙に熱い気がしました。
「さて戻るかな」
まだ、帰れない様です。
時刻は、7時54分。
「あれ? まだ居たの?」
隣のラインの人に言われてしまいました。
時刻は、8時2分です。
私は、オーブンの出口を見に行きました。
最近、ここのトラブルが多いので最終チェックです。
見回りを終えて、持ち場に戻って来ました。
「いや~悪い悪い! 流れは分かったんで交代するよ」
私は、1時間遅れで上がる事になりました。
更衣室で、携帯を見ると亜美さんからLINEが来ていました。
1つ目は、「美穂の事ありがとうございました」
2つ目は、「来月のスケッチ会出れません」
喜びと悲しみのスタンプがそれぞれに付いていました。
スケッチ会に参加できない?
どうしたのでしょう……
出れないとしかないので分かりません。
何か急な事でもあったのでしょうか?
私は、答えを問いかける内容でLINEを送りました。
「って、もう会社にいるじゃないか……」
時刻は、8時16分。
「これは……。送る時間を間違ったか?」
仕事中ですね。
自宅に戻っても気になって仕方がありません。
「どうして参加できないんだろう?」
LINE、休憩時間に見てくれるかな?
「……やばい。眠くなってきた」
朝食はかろうじて食べました。
亜美さんからの返事が来る事を願いつつ……
私は睡魔に飲み込まれました。
……ん?
時刻は、12時11分。
アラームが止まっている。
私が止めたのか?
記憶がない……
携帯を見ると、亜美さんからLINEが来ていました。
参加できない理由は、なんでも美術展に出展するからだそうです。
その日は、搬入とかいろいろあるそうです。
でも、2日も掛かるのかな?
その日から、亜美さんとの会える回数が減りました……
仕方がないのは分かっています。
何だか、亜美さんが少し遠くなった様な気がしました。
亜美さんには、良い作品を描いてほしいと思っています。
ただ、救いは会えない時のLINEです。
この数週間、こっちの回数が少し増えた気がします。
まぁ、でも邪魔にならない程度だと思うのですが……
当日まで、あと2週間くらいでしょうか?
全力で応援します!
お百度参りとはいきませんが……
そのくらいの想いという訳です。
時間は、止まることなく過ぎて行きました。
スケッチ会当日……
私は、指定された場所に来ました。
ここは、大きなバラ園で有名な公園です。
管理事務所の前に集合との事でした。
「え~。スケッチ会に参加の方はこちらに集まって下さい」
亜美さんは、当然いません。
「麻牧さん。おはようございます」
「吉田さん……。それに八坂」
「亜美来れなくて残念ですね。でも、頑張りましょう!」
吉田さんは、亜美さんと友達だから私が来る事は知っていたみたいです。
まさか、八坂も来てるとは思いませんでした。
彼氏だから納得はいくけど……
絵なんか描けるのか?
八坂が口を開いた。
「麻牧さんて、テレビとかでたまに見るバラエティの画伯じゃないですよね?」
「何を言うんだい八坂君は……。後で素晴らしい絵のを見せてあげますよ! ははは」
「それは期待しています。受付行きましょう!」
なんという挑戦的な!
今日は、最後に目にものを見せてあげましょう!
私たちは、受付を済ませました。
そのあと、説明を聞き簡易的ではあるけど画材の道具を受け取りました。
いざ出陣です!
吉田さんたちとは、反対方向に足を向けました。
何だか、八坂と対決をしているみたいでワクワクします。
私は、広い園内を少し歩いて見る事にしました。
もうスケッチを始めている人も見受けられます。
「おぉ! なんかいい感じ! 写真も撮っておこう!」
小さな真っ赤なバラがたくさん咲いています!
なかなかバラって難しい感じがします。
クシュクシュっとした所が……
甘く見ていたかな?
「よし!」
色塗りも上手くいきました。
「この黄色い色のもいいねぇ~」
私は腰を下ろして、この黄色のバラを描く事にしました。
黄色と言っても、花の先の方が赤くなっていて綺麗なバラです。
「今日は、何だか上手く描けるな~」
私は、この公園にある丘の上の休憩所?
配布された園内マップには、カフェと書いています。
そこで、少し休もうと思います。
吉田さんたちは、どうしているかな?
余裕ではありませんが、ちょっと気になります。
気になるといえば、亜美さんはどうしているだろうか?
そんな事を思いながら、一人バラの回廊を進んでいます。
一人で……
亜美さんと一緒だったら、また全然違ったのでしょうね。
再びそんな事を思いつつ、私はカフェに到着しました。
「アイスコーヒーをお願いします。あと、ここからの風景を描いていいですか?」
お店の人は、こころよく許可してくれました。
私は、歩いている吉田さんを見つけました。
隣には、八坂の姿が見当たりません?
別行動でもしているのでしょうか?
「吉田さ~ん!!」
声をかけてみました。
「麻牧さん!? 休憩ですか? 良いの描けました?」
「ちょっと休みませんか? 八坂は?」
「ここにいますよ!」
ぬ~っと、八坂が立ち上がりました。
座って描いていたので見えなかったみたいです。
その八坂に向かって、吉田さんが歩いて来ていたというわけです。
……何だか、ちょっと声を出したのが恥ずかしく思えてきました。
「休憩しようか。美穂」
「麻牧さん! 今、二人でそっちに行きますね」
「ここは、見晴らしが良いよっ!」
二人は、どんな絵を描いているのでしょう?
まぁ、それは最後に取って置きましよう。
最後は、ここの管理棟の一室でお披露目会をするそうです。
「麻牧さん、ここで描いていたんですか?」
「そう。でも、ちゃんと許可はもらっているよ」
「すごいですねここは、いろんな種類のバラが咲いてますよね」
うまい具合にいってるのかな?
「アイスコーヒーを2つお願いします。いいよね。さぁ座てすわって」
「本当に眺めが良いですね」
「ほらっ、八坂も座ってくれ!」
八坂をイスに着かせて、ちょっと休憩です。
私に呼ばれたのが気に障ったのでしょうか?
この前の問題は解決したはずです。
「吉田さんは、もう何枚か描いた? おっと! 今は、見せなくていいよ」
「そうですね。後でのお楽しみと言う事にしましょう。麻牧さんは、何だか余裕ですね」
「そんな風に見える? 八坂は? 見せなくていいから」
ちょっと気になります。
上手いのかと……
「ま、まぁ。そこそこ描けてますよ」
「へぇ~、それは楽しみだね!」
「麻牧さんこそ、ガッカリさせないでくださいよ」
またもや挑戦的だな!
まぁ、そこそこと言った時点で自信はあるようです。
「ご心配なく八坂君!」
「二人とも、ちょっと穏やかにいきましょう!」
「はははっ! そうですよ麻牧さん。さぁ、描きに戻りましょう」
私たちは、再びバラ園に戻りスケッチに専念する事にしました。
「それじゃあ、また後で」
「そうですね。麻牧さんはどっちに行きますか?」
「ここにある、バラの館の方に行ってみようと思う」
二人も来るかな?
「私たちは、向こうの恋人の鐘の方に行きます」
「そうなんだ。逆の方向だね」
「お互い頑張りましょう!」
私は、館の方に向かい歩き出しました。
「しかし……。広いなここは」
天使の園?
フェアリーガーデン?
バラのステージ?
癒しのせせらぎ……
天使と妖精のエリアってどう違うんだろう?
館が見えてきました。
洋館風な建物の周りには、たくさんの色のバラが咲き誇っています!
その隣には、真っ白で小さな教会がありました。
私は、洋館との角度を決め描き始めました。
「あの~……。この辺良いですか? あなたも参加者ですよね」
「えっ? あぁ、どうぞかまいませんが」
「ありがとうございます。私、金澤と言います」
この会に参加している人なのでしょう。
私から結構近い所でスケッチを始めました。
私も続きを始めました……
「よし!」
集中をしていたので、金澤さんの事は気になっていませんでした。
どんな感じなんだろう?
ちょっと気になりました。
でも、まだ描いているみたいです。
ここを離れて、隣の教会の方に行こうと思います。
「あっ! ちょっと待ってください!」
「……」
「もうすぐ終わりますから」
呼び止められた私……
とりあえず、その場に留まりました。
「すみません。呼び止めて……。一緒に回りませんか?」
「えっ!? 一緒に?」
「ダメですか? どうしても無理ならいいんですけど……」
ダメですかって……
何だか、どこかであった場面です。
「ダメではないですけど……」
「え~と、名前をまだ聞いてないですね」
「えっ! あ……。麻牧です」
どうして緊張しているのか?
金澤さんは、参加者の一人なのに……
「よろしくお願いします。都内で輸入雑貨の店をやってます。金澤 あゆ美と言います」
あゆ美さんね。
輸入雑貨の店をねぇ~。
やってるって事は、経営しているって事だよな……
オーナーという事……
私は、名刺をもらいました。
こちらは、返すものがありません。
仕方がありませんね。
「隣の教会の方に行こうと思っているんですけど。金澤さんは、もう行きました?」
「まだですけど。行ってみましょう!」
「行きましょう!」
白い教会の周りには、たくさんの真っ赤なバラが咲いています。
カ~ン!
カ~ン!
鐘の音が聞こえて来ました。
もしかして、吉田さんたちかな?
「麻牧さん行ってみませんか? 鐘の所に」
「でも、ここから近いフェアリーガーデンにも行きたいんだよね」
「……私そっちから来たんですよ」
マップをみると……
フェアリーガーデンと恋人の鐘は、またもや反対方向なのです。
「まだ時間もあるし……。もう一回行ってみませんか?」
「……そうですね。分かりました。行きましょう」
「フェアリーガーデンというくらいだから、見ごたえがあるんでしょうね」
あゆ美さんは、もう行っているからどんな所か分かっているはず。
「ええ。とても綺麗でしたよ。癒しのせせらぎがその前にあるんです」
「へぇ~。楽しみだな」
「期待は、裏切りませんよ!」
さずが、もう見ただけの事はあります。
自信をもって言っています。
目の前に、小さな小川が見えてきました。
「これが、癒しのせせらぎ?」
「いえいえ。癒しのせせらぎはもうちょっと先です」
「ここもいい感じに癒しな雰囲気がするんだけど……」
この場所じゃないんだ。
「麻牧さん、唐突ですが何歳なんですか?」
「えっ!? 本当に唐突ですね……。42ですけど……」
「見えない! 見えないですよ! 42歳には……。同じくらいかな~って」
同じくらいって、何歳なんでしょう?
見た感じでは……
金澤さんは、30半ばくらいに見えます。
どうなんでしょうね?
「私、37なんです。麻牧さん若く見えるんですよ、とっても」
「そ、そう。お世辞でも嬉しいですね。じゃあ結婚は?」
「どう思います?」
どうなの?
「まだ、独身……かな?」
「ブ~! 残念! 旦那様がいます!」
「ははは……。これは、失礼しました」
このスケッチ会に来ているのかな?
「別行動してるの? 一人で行動しているみたいだし?」
「こういうイベントには、特に絵のイベントは一人で来るんです」
「へぇ~。そうなんだ」
人それぞれって事ですね。
私たちは、バラの香りの漂う公園を進み続けています。
フェアリーガーデンを目指して……
進んでいくと、他よりも淡い色の?
パステルカラーと言った方が良いのでしょうか?
少し、雰囲気が変わってきた様な気がします。
「ほら! 見えてきましたよ!」
「園内マップでは、癒しのせせらぎの奥にフェアリーガーデンがあるとなっているけど……。こうなっているんだ~」
「ねっ! 良い感じでしょう」
そこには、小川が流れています。
そして、真っ白なベンチが一つ……
座ってスケッチをしている人がいます。
小川は、フェアリーガーデンの方から流れて来ている様です。
小さな橋をいくつか渡ってフェアリーガーデンに入りました。
そこは、黄色と白のバラだけの世界が広がっていました。
2色のこの色は、逆に描くのが難しいという感じもあります。
特に全部の場所を描かなければいけないという訳でもないし、ここは写真を撮って終わっておこうと思います。
「金澤さん、鐘の方に行きましょうか」
「いいんですか? 描かなくても?」
「大丈夫。写真撮ったしね」
時間もあと1時間ちょっとしかない事だし……
上手く描けたのもあるし、恋人の鐘も気になります。
歩いている途中……!
「あっ……。吉田さん」
「麻牧さん!? ちょっ、ちょっとこっちに来てください」
「何々? どうしたの吉田さん?」
私は、吉田さんに引っ張られて少し離れた所に……
「どういう事ですかこれは! 誰ですかあの女性は?」
「ああ~。金澤さんの事? 特に……。途中から一緒に回っているだけだけど」
「……それだけですか!?」
なんでしょうか……
この疑われようは?
「何かあったら、許しませんからね!」
「吉田さん、どうしたの? 大丈夫だって」
「くれぐれもですよ! いいですね!」
何だか、すごく釘を刺された感があります……
「大丈夫ですよ。吉田さん」
私たちは、吉田さんたちと別れ恋人の鐘に向かいます。
「麻牧さんは、彼女いるんですか? ……奥さんの方かな?」
「まぁ~。結婚はしていないけど、彼女はいますよ」
「どんな感じの人ですか? かわいい系? それとも……」
金澤さんって、好奇心旺盛……?
「どっちかという、きれい系……かな。そう思うけど私は」
「へぇ~。会ってみたですね!」
「またまた冗談を……。あっ! あれが恋人の鐘じゃない?」
恋人の鐘は、ちょっと小高い丘の上にありました。
周りには、ピンクと白のバラがたくさん咲いています。
!?
LINEが来ました。
「搬入完了です! そちらはどうですか?」
亜美さんの方は、一段落したみたいですね。
「お疲れ様! こっちは、バラが美しいです」
「うらやましい~! 楽しんでくださいね」
私は、返事を返して時間的にも最後のスケッチを始めました。
金澤さんは、もう始めています。
描き始めたのだけれども……
「……何か違う」
私は、鐘の近くに寄って見る事にしました。
「こうなっているんだ」
思い切って、ドローンから風の斜め上からのアングルで描いてみる事にしました。。
これが、思ったよりも良い感じに進んでいます。
「…………よし!」
これでも良いのかな?
スケッチになるのでしょうか?
一番良く描けた気がします。
なんだか……
「麻牧さんどうですか~? 描けました?」
「はい。良い感じに」
「それじゃあ、戻りましょうか」
他の参加者の人も管理事務所に動き始めた様です。
同じ方向に向かっている人は、大体この参加者だと思います。
「スケッチ会の参加者の方は、管理事務所の中の突き当りの部屋に進んで下さい」
スタッフの人がメガホンで案内をしています。
吉田さんたちは、もう中に入ったのでしょうか?
私たちも支持された部屋に向かいました。
「あっ!」
吉田さんたちは、もうイスに座っているのが確認が出来ました。
部屋は、半円状にイスが設置されています。
私たちも空いている席に座って、参加者が集まるのを待ちました。
しばらくして、最後の人が座りスタッフによる話しが始まりました。
「参加者の皆さんお疲れ様でした。早速ですがお披露目の会を始めたいと思います!」
吉田さんは、どんな?
八坂は、上手いのか?
「その前に、ゲストの方を紹介します」
誰でしょう?
「今、注目されているアーティストの一人でもあります、三笠明夫先生です」
「今日は、皆さんの素晴らしい作品を拝見に来ました。楽しみですね」
「では、始めたいと思います」
お披露目の会とやらが始まりました。
一人、約3分ほどでしょうか。
前に出て自信の作を披露しています。
「皆さん、レベルが高いですね。素人さんとは思えませんね」
ゲストの三笠先生が褒めたたえています。
さて次は、吉田さん。
そして、八坂の番です。
「では、次の方お願いします」
「吉田です……。よろしくお願いします」
「ダイナミックですね! 素晴らしいです」
先生の言う通り、なんかすごい……
上手です。
さあ、八坂が前に出てきました。
……!!
上手い!
何なんだ、この男は?
何者?
会場がざわついています……。
プロなのと言う感じです。
披露が続きます。
金澤さんの番です。
……上手いです。
続いて、私の番です。
緊張してきました……
前に出る私……
注目されています。
私が出したスケッチは……
「これは、おもしろいですね。飛んだのですか?」
「いや~……。良いかどうか迷ったのですが……。これに決めました」
「全然、問題ないですよ! むしろ自由で良いんじゃないですか!」
恋人の鐘を斜め上から見たやつを出したのですが……
思わぬ反響で照れます。
拍手を受け、私は席に戻ります。
お披露目もひと通り全員が終わりました。
三笠先生が絶賛です。
「本当に、ここに居る皆さんは素晴らしいです。今日、来て正解でした」
「ありがとうございました。三笠先生」
「皆さん、これからも良い絵を描いて下さいね」
先生の言葉を最後に会の方は終了しました。
八坂が近づいて来ました!
吉田さんよりも早く……
「麻牧さんって、意外に上手いじゃないですか」
「意外は余計だよ。そう言う自分はどうなんだよ! プロかい?」
「実は、昔……。本気で絵を勉強した時があったんですよ」
本気で勉強した事があるって……
そりゃ上手い訳です。
「じゃあ、今日は引き分けって事でいいよね」
「良いですよ。麻牧さんがそう言うなら」
「二人とも何話してたんです? ……帰りましょうか」
私たちは会場を出る事にしました。
「麻牧さん、今日は楽しかったです。 それでは失礼します」
金澤さんが挨拶をして出て行きました。
これで、スケッチ会は終了です。
明日は、アイドルのライブに行きます!
新宿にあるライブハウスです。
そのアイドルは、以前モールでみたアイドルです。
ワンマンライブです。
年甲斐もなく、わくわくしています。
2部構成ですが、私は1部のみを観るつもりです。
本当は、2部も観たいのですが……
ライブ当日……
「さぁ! 行こう!」
気合いいっぱいで家を出ました!
電車に揺られて、はやる気持ちを周りに悟られない様に静かに、静かに……
会場付近……
「あっ! 確か……。この近くだったような」
私は、昨日もらった輸入雑貨の店の住所を確認しました。
「なんだ。会場のすぐ近くじゃないか!?」
ライブの後に寄って見ようかな?
これも、何かの縁だと思います。
ライブ会場に着きました。
……ライブが始まり会場は大盛り上がりです!
中に入ったら、年齢なんて関係ありません!
私もリズムに乗って、コールをします。
楽しい時間は、あっという間に過ぎて行きます。
いよいよ、ラストの曲です。
アンコールもあると思いますけど……
サイリウムを振り、タオルを回してとても楽しい!
ライブも終わり、会場を後に……
!!?
あの後姿……
「まさか!」
私は、あまりにも似た後姿に声を掛けました!
普段は、こんな事は絶対にしないのですが……
テンションのせいでしょうか、つい声をかけてしまったのです。
「あの~……」
「……はい。あっ!! 典秀さん!?」
「やっぱり亜美さんだ! 来ていたんだ!」
正解でした。
でも、どうしているのでしょう?
本来ならスケッチ会の2日目。
参加できないとは知っていましたけど……
この場で、出会えるとは思いませんでした。
サプライズです!
「亜美さん、この後は?」
「2部は、観ないので特にありません」
「そう。これから輸入雑貨の店に行こうと思うんだけど、ここなんだけど。一緒に行かない?」
私は、亜美さんを誘ってみました。
「知ってますよここは! かわいい小物とか結構あるんですよ」
「そう……。知ってるんだ。 あっ! そうそう来月の秋葉原での定期公演行かない?」
「良いですね! 行きましょう!」
確か、チケットは発売中のはず。
亜美さんは、おもむろにスマホを出して操作を始めました。
「これで良し! 1部、2部の両公演のチケットを購入しましたよ!」
「えっ!? 今! ははは……」
「さっ! 行きましょう!」
亜美さんは、私の手をつかんで歩き出しました。
定期公演のチケットを購入した事で、二人のイベントが増えました!
今日は……
デートですね。
次話へつづく