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絵ごころ引力  作者: yomo
17/21

「驚きなる時」

 ちょっと遅い時間に亜美の家を訪れる典秀。江の島のお土産を渡して帰るつもりでしたが……。絵のイメージは完璧に決まっていたが、亜美の完成間近の絵の事を聞いて少し動揺する典秀。そんな典秀に襲い掛かる試練!

 沙織さんの応援を誓い合った私たち二人……

 是非、幸せになってほしい。


 しかし、今の私たちのシチュエーション……

 いつ亜美さんのお母さんが部屋に入って来るかも知れない?

 何だか、どことなく懐かしいドキドキ感があります。


「典秀さん。もう少し良いですか? このまま……」


 お風呂に入った後なのでしょう。

 ふわっと温かい香りが私を包みこみます。


 !?


「どうしたの?」


 亜美さん……

 泣いてる?


 どうしたんだ?

 どうしちゃたんだ?


「あれ? 私どうしたのかしら? あれ?」

「大丈夫?」


「…………はい。平気です。ごめんなさい涙が……」


 本当にどうしちゃったんだろう?

 私は、戸惑っています。


 何か思うところがあったのでしょうか?


 でも何を……?


 私は、会話の題材を必死に探しています。

 何でもいいから出て来い!


「あっ! そうだ! 夜勤の時、昼あたりならどこか出れるよ。ちょっとの時間だけど」

「典秀さんこそ平気なんですか? そんな出歩いてちゃんと休息しないとダメですよ」


「そうなんだけど。夜勤の時の昼間って、結構外に出ている気がするんだよね」


 特に平日の場合は、金融機関とか何か特定のイベントとか出かけたりしています。


「じゃあ……どうですか? 今週、この町の神社行ってみませんか? 御朱印をもらいに」

「あぁ! 良いねぇ~」


「でも、典秀さん無理はいけませんよ」


 私の事を心配してくれているんだ。

 なんて優しいんでしょう。


「大丈夫! 全然大丈夫!」

「そうですか~? じゃあ土曜日行ってみましょう」


「オッケー! そうだ最新の沙織さんの写っている写真いる?」


 亜美さんは、「へぇ?」って顔をしています。

 突然こんな話しに持っていかれてもって感じなんでしょうか?


 友達だから良いかなって思ったんだけど……

 タイミング間違えたかな?


「沙織の写真? どんなのですか?」

「あぁ、カメラ……。車だ。ちょっと取ってくるよ」


「あっ! 典秀さん……」


 亜美さんが何かを口に出そうとしていましたが、私は勢いで部屋を出てしまいました!


 すぐ戻るから大丈夫だと思っていました……

 車からカメラを取り家に戻りました。


「あら!? 典さんどうしたの? あぁ~亜美の所ね」

「お、お母さん! まぁちょっと写真を見せに」


「へぇどんな? 見せて見せて!」


 なんと、お母さんに捕まってしまいました……


「今日、江の島行って来たんですよ」

「良く撮れてるじゃない。あら!? 沙織ちゃんじゃない?」


「そうなんですよ。偶然だったんですけど亜美さんの友達みたいですね」


 って、話しをしている場合じゃないんですけど……


「絵の方はどう? 進んでる? 期待してるからね」

「……はぁ。まぁ……ははは」


「典秀さん! お母さん!? 戻ってこないから来てみたら」


 亜美さんが2階の部屋から降りて来ました。


「典さん、写真撮るの上手いのよ」

「もうお母さん……。その写真を見たかったの!」


「じゃあリビングのテレビで見ませんか? レコーダーって、SDカード使えますよね」



 私は、SDカードをセットしました。

 お母さんは、さっき見たのに……


「よし! リモコンで」

「ねっ! ほら上手いでしょ」


「もおぉ~! 何でお母さんが自慢げに言うのよ!」


 先にお母さんに見せたのまずかったかな?

 ていうか3人での鑑賞会になってるのですが……


 お母さんが、なかなか休みに戻ってくれません。

 トイレにでも起きたのだと思ったんだけど。


 写真も何だかんだ言って、100枚以上は撮っていました。


「やっぱりサーフィンっていいわよね~! カッコイイ!」

「そ、そうですね。自分はやった事ないですけど」


「昔を思い出すわ~! こう見えてもやってたんだからサーフィン」


 あら意外……

 おっと失礼ですね。


「へぇ、何かすごい! 自分は泳げないからうらやましいですね」

「典秀さん泳げないんですか!? 見えない見えない!」


「小学校3年生の夏までは泳げたんだけど……」


 ははは……


 何だか恥ずかしい展開になって来ました。

 自分から口に出してしまった事なのですけどね。


「何かあったんですか?」

「ちょっとブクブクってね。それからトラウマになちゃって」


「だったら典さん! それを克服する為に私とスイミングに行かない?」


 なぁ~……!

 これはまた話しが変な方向に進んでいます。


「あはははは……。ちょっと無理かも知れませんね」

「あらそう? 良いのよスイミング」


「お母さん! 典秀さんは、夜勤もやってるから仕事の前に疲れちゃだめでしょ」


 いろんな時間帯の職業の人でもやってる人はやっていると思うけどキツイかな。


「この写真なんだけど。沙織さんの……」

「……ずいぶんと楽しそうだったんですね!?」


「いや~、これは沙織さんが悪ふざけで……。本当は風景を撮るつもりだったの!」


 ちょっと亜美さんの機嫌を損ねてしまった?


「でも、沙織はそういう所あるから。この写真も沙織らしい」

「そういう所? なんだか小悪魔だね。……冗談だけど」


「小悪魔? 典秀さんそれ良いかも! うける」


 天使だと思っていたのが小悪魔?

 沙織さんは、明るくて飽きさせない人かも知れませんね。


 この一枚の写真で、こんなに話しをするとは思いませんでした。


「この写真欲しいです。アメリカ行っちゃうから」

「沙織ちゃんアメリカ行くの? 何しに?」


「何って……暮らしによ! 彼氏とね!」


 間違いではありませんが、1年間の条件の事は亜美さんは話しませんでした。  


「ああ……。この写真は、印刷しておくね」

「ところで亜美、沙織ちゃん何時いつ出発するの?」


「近々としか言ってなかったよ」


 まぁ、色々と準備とか必要だと思うし、今からだとまだ先になるかも知れないかな?

 もしかしたら、もう住む所とか見つけていたりして?


「そうなの? でもお見送りには行くんでしょ」

「もちろんよ! 会社を休んでも行くわ!」


「ねぇ~。あの沙織ちゃんがアメリカにねぇ」


 お母さんの言い方からして、沙織さん昔はどうだったのでしょう?


 今日撮った写真のスライドショーは見終わりました。


「さて私は寝るね。 典さんは泊まっていくの?」

「なっ、何をお母さんは!」


「あら? 違うの? ふ~ん」


 なんでしょう?

 最後の「ふ~ん」は?


「典秀さん……。泊まっていきます?」

「ご、ご迷惑でなければ……。って良いんですか?」


「なんなら典さん、私んとこはダブルベッドなんだけど~」


 お母さんの隣に添い寝ですか?


 いやいやいや、それは……

 想像してしまいました。


「もうお母さんたら~! 変な事言わないでよ」 

「別に変じゃないでしょ! ねぇ典さん?」


「あはは……。今日は帰ります。次、泊めて下さい」


 亜美さんは、どう思っただろうか?

 ……今からでも言い直せば?


 何か変な状況になっています。


「帰るんですか? でも、もうちょっと話しをしたいです」

「うん。構わないけど」


「じゃあそう言うことで、お母さんお休みなさい!」


 亜美さんに手を引っぱられ私は階段を駆け上がります!


 亜美さんのお母さんは静かに手を振っていました。

 そして、リビングの明かりが消えました。


「もう~! なにお母さんに捕まってるんですか~」

「あぁ~。玄関を開けたら目の前に居たからさ~……。こっちがびっくりしたよ」


「さっきの写真ですけど、欲しいのがもう2枚ほどあるん……? 典秀さん?」


 うわ~……

 何だか急に眠気が襲い掛かって来ています。

 亜美さんの声がどんどん遠くなってきました……


 眠い……


 亜美さんに体を揺さぶられている様な感覚があります。

 けれど、その体が何とも言う事を聞いてくれません。


 情けない姿をさらしている様な気がします。


 何だろう?

 何かふかふかな物の上に横になっ……


 ダメだ……

 この睡魔には太刀打ち出来そうもありません。


 あぁ…………



 ん?

 今何時だ?

 壁に掛けてある時計が目にはいりました。


 まだ、5時17分……


 んんっ?

 おや? 

 背中にぬくもりを感じます。


 ……って、ここは亜美さんのベッドの様です。


 亜美さん……

 振り返ろうにも密着していて振り返る事が出来ません。


 へたに動くと亜美さんを起こしてしまうし、かと言ってまた眠る事も出来ません。

 って言うか、私は服のまま寝ていた様です。


 この状態でも上着はハンガーに掛っているのが見えました。


 そうこうしている内に時刻は、もうすぐ5時30分になろうとしています。

 横になりながら眺めています。


「あっさだぞ~!! おっきろ~!! あっさだぞ~!! おっ……」


 目覚まし?


「ん~~……」


 背中の亜美さんが動きました。

 私は、まだ寝ているふりをしています。


 亜美さんは、私に気を使ってそぉ~と起きたみたいです。

 その時、私のほほに柔らかな唇の感触が……


 何かごそごそしています。

 着替えているのかな?


 パタンと静かにドアの閉まる音がしました。

 私は、そっと目を開けました。


 部屋に一人残された私がいます。

 しかもベッドの中……


 どのタイミングで起きていけば良いか?


 しばらくして亜美さんが部屋に戻って来ました。

 まだ、起きれません……



 すると、亜美さんが……


「よしっ!」


 何でしょう?

 気合を入れている?

 それとも日課?

 何の……



「亜美さんおはよう」

「あっ! 起こしちゃいました? 典秀さん。おはようございます」


「早いね。いつもこの時間に起きるの?」


 私は、さりげなく言葉を返しました。


「そうですね~。早起きなんです。本当は、もうちょっと寝てても良いんですけど」

「良いんじゃない。昔から言うでしょう。早起きは三文の何とかって」


「私、時間には余裕をもって行きたいタイプなんです」


 実際のところ私も同じタイプです。

 昔、一回すごい遅刻をしてしまい上司に怒られて、それから時間には余裕を持つようになりました。

 まぁ、こんな話しは今どうでもいい事なんですけどね。


「それは同感だね。余裕はあった方が良いよね」

「朝ご飯食べて行きますよね?」


「……うん」


 「うん」と言ってしまったが……


「お母さんならお店の準備してますから大丈夫ですよ」

「あ~はは。そう……。お気づかいなく」


「いつもの事ですから。結構、夜勤明けの人とか来るみたいですよ」


 私もその内の一人かも知れませんね。

 最近はあまり来てないけれど……


「さっ、行きましょう!」


 私は、亜美さんと部屋を出て1階へ降りて行きます。



 食卓の椅子に座ると、亜美さんは味噌汁を温め直しています。


「亜美さんって、朝ちゃんとご飯作るんだ。ちゃんとって言うのも変かな?」

「朝ですか? たまにトーストの時もありますよ。でも、ご飯作るのは面倒ではないですよ」


「いいよ~! 朝ってご飯の方好きだな」


 私もご飯を作る時は作るけど……

 コンビニとかが多くなってきたかな?


「さぁ食べましょう」

「いただきます!」


「どうですか? 大丈夫ですか?」


 良い味!

 美味しいですね。


「美味しいよ! 料理上手だ……ね」

「あら、典さんおはよう」


「お、おはようございます。お店の準備は終わったんですか?」


 お母さんが戻って来ました。


「お母さんも食べる?」

「お店の方があるから、あんまり時間無いけど食べるわ」


「じゃあ、すぐ用意するね」


 何だか、ここに居る私の存在がすごく自然に思えて来ました。

 全然、二人とも気にしてない様子です。


「まぁ、二人の事はあまりせん索しないけど仲良くやってね」

「それはもう任せて下さい!」


「頼もしいわね典さん!」


 何だろう?

 テンションが上がってしまいました。


「もう、お母さんたら~」

「いいじゃない! 典さんに任せてもらったら?」


「ほら、もうお店開ける時間じゃない? 行かないと~」


 会話に入れない……

 お母さんは強引なんだか、ただ面白がってるだけなんだか?


 ……楽しんでいる様にしか見えないのはなぜ?


「どうぞごゆっくり。じゃあ、母さんお店の方に行くね」

「もう~。お母さんったら今日は休みじゃないのよ」


「はいはい」


 そろそろ私も家に戻らないといけないかな?

 今日の夜から夜勤にだし……


「ごちそうさま。美味しかった~」

「うれしいです! 作ったかいがあります」


「あれ? 家出るの何時? 支度は?」


 まだ、少し早いと思ったけど聞いてみました。 


「あと、20分くらいは平気ですよ」


 亜美さんは、そう言いながら片付けをしています。



「よし! 終わり!」

「亜美さんの方はどうなの? 絵の事なんだけど」


「あとちょっとで完成しますよ」


 そっか~……

 こっちは、まだ道具をそろえただけだもんな


「そうですかうらやましい限りで……。何とか進めたいんだけどね……。ははは」

「大丈夫ですよ。焦らないでください」


「ありがと。頑張るよ」


 何か励まされてしまいました。

 頑張らねば!


「亜美さん、そろそろ支度する時間じゃない?」

「そうですね」


「じゃあ、ちょっとお店にでも寄って帰ろうかな」


 お店に展示している他の人の描いた絵も気になるしね。


「それじゃあ。朝ごはんごちそうさま」

「典秀さんも、今夜からの夜勤頑張って下さい」


「うん。土曜日が楽しみだ」


 私は、玄関から出てお店の入り口に向かいました。


 カラ~ン!


「いらっしゃい。あら典さん!」

「亜美さん出勤ですから。コーヒーを下さい」


「どう? お店の絵また増えたのよ。典さんの絵も早く飾りたいわね」


 私は、お店の中を見回して見ました。


「んっっ!!?」

「どうしたの? 驚いたような声出して」


「いや~……。結構増えたな~って思って」


 私は、ある一点の絵を見て愕然がくぜんとしました……

 それは、夕日が沈む江の島の絵でした。


 それも、今描こうとしているサイズよりも大きい……


「はい典さん、コーヒー」


 今日のコーヒーは何だか苦く感じました。



次話へつづく

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