「ともだち」
沙織という女性と少しの時間過ごしている典秀。いろいろとスケッチをしながら今は弁天橋の上で沙織の言葉に別の意味で戸惑う事に……。典秀は、何かつかめそうなそんな感覚で、まだ江の島を離れずにいます。
ここは江の島……
弁天橋を少し進んだ所に私たちはいます。
「辛い……」とは?
どういう事なのでしょう?
さっきまでの沙織さんではありません。
「何? 本当にどうしたの?」
「…………何でもありません。忘れて下さい」
「いや! そんな!?」
忘れろって言われても気になります。
ちょっと気まずい雰囲気です。
「行きましょう! 麻牧さん」
「大丈夫……なの?」
「平気です……。ごめんなさい。変な事言って……」
私たちは、再び歩き出しました。
しかし、無言な状態が襲い掛かります。
気まずい……
私は、思い切って声を掛けました。
「ここで知り合ったのも何かの縁だし、相談にのるよ」
「えっ? ……はい」
「もしかして彼氏の事とか? なんちゃって……ゴメン」
しょうもない事を聞いてしまったのかな?
「良いんです。それより! ほら見て下さい!」
「ん?」
「弁天橋からの江の島。どうですか?」
「あぁ~、良いかも」
「でしょう!! 描いてみたらどうですか?」
沙織さんが言うポイントにはさっきから私も共感しています。
私は、スケッチを始めました。
その描いている私の姿を沙織さんは見ています。
照れます……
私は、沙織さんの視線を浴びながら描き続けます!
集中です!
集中!!
「よし! 出来ましたよ」
「どんな感じですか? あ~! やっぱり上手ですね」
「あ、ありがとう光栄です」
この風景……
夕陽が沈む時だったらどうだろうか?
「麻牧さん、陽が沈む時もきれいですよ。きっと!」
「えっ!? 沙織さんもそう思う?」
「その時、また来ましょう!」
偶然の一致とはいえそんな時間まで一緒に?
これは、デートではない!
絶対にデートではない!
行動は共にしてはいますが……
やっぱり他人です。
……これだとただの冷たい人?
何だか自分がそう思えて来ました。
どうすれば?
でも、さっきまでの重たい空気では無くなっています。
取りあえずひと安心です。
「夕方ここに来ようって言ってたけど良いの?」
「はい。大丈夫ですよ」
「何か予定とかあったら……。本当に大丈夫?」
私は、少し気になっています。
!!!
!!!
亜美さんからのLINEです。
「どうですか? 江の島。私も行きたいな~」
この状況を把握して見てみると……
「あなた誰? どういう事?」にもなりかねません。
何も無いので問題はないと思いますけど……
あぁ~……
もうどうたら良いのか分からなくなってきました。
「どうしたんですか?」
「はは……。大丈夫! 何でもないよ!」
「何だか、すごい汗かいてません?」
汗?
本当だ!
何だこの汗は?
「だっ! 大丈夫! 何だろうねこの汗……」
私は、ハンカチで早急に汗を拭きました。
そして、亜美さんに目的の物を見つけた事を知らせました。
とても喜んでいる様子でした。
弁天橋を渡り終えた時でした……
沙織さんの携帯に着信です。
少しためらっている様にも見えます。
ひと呼吸おいて沙織さんは電話に出ました。
「あ……。うん。分かった」
何だか深刻そうです。
「麻牧さん、ちょっと急用が出来ちゃいました。なので、ここでお別れです」
「うん。こちらこそ沙織さんが居たおかげで良いスケッチが描けたよ。ありがとう」
「それじゃあ、行きますね」
沙織さんを見送った後、スケッチブックをリュックにしまい砂の上を歩いています。
さっきまでの沙織さんの存在が嘘のように思えて来ました。
本当に今まで居た?
何か言葉にするとただの独り言になっています。
ちょっと大げさかな?
元々、一人で来たんだし……
割り切って考えれば問題ない!
そう、沙織さんは絵のヒントをくれた天使なんだ!
……馬鹿げてる。
天使だなんて……
でも、描く絵に天使の羽を入れてみようかな?
私は、その後スケッチブックを出す事はなく写真を撮っていました。
サーフィンをする人。
歩いている犬。
海に浮ている鳥……
……何か、イメージと違う気がします。
私は、島の方に戻る事にしました。
また、弁天橋を戻ります。
……少し小腹が空いてきました。
潮風に乗って、海の幸たちを焼いている良いにおいが私を襲います。
私は、そのにおいに釣られて店に入りました。
注文した品が運ばれて来ました。
これは、写真撮りは必須です!
「美味しい!」
これで、アルコールが飲めれば最高なんですけど……
飲んだらアウトです。
残念な事に車で来ていますから……
「あっ! そうだ」
私は、今撮った写真を亜美さんに送信しました。
……しばらくすると着信がありました!
「良いなぁ~! でもズルイです~! 今度は、絶対に一緒ですよ!」
私は、すかさず「了解しましたぁぁぁ!」と返信しました。
短い文面だけど、なにか恥ずかしさを感じました。
普段のメールでは「たぁぁぁ!」などという言葉は使った事はありません。
つい調子に乗ってしまったかな?
私は、料理の追加注文をしています。
美味しさが……
この美味しさが止められません!
「結構、食べちゃったかなぁ……」
外を見ると、良い感じに陽が落ちて来ています。
「よし!」
店から出た私は、さっきの場所に向かいます。
沙織さんと約束した弁天橋の所です。
あれ?
意外に人がいる?
ほとんどカップル……?
でも、そこで見た景色は一人で見るには……
チャンスを逃さない様に私は少し離れてカメラを構えました。
「これだ!」
小さな声でつぶやきました!
縦、横と角度を変え撮り続けました。
もう、月が輝きを増して上がって来ています。
私は、駐車場に戻り車に乗り込みました。
そして、今日撮った写真を見返しました。
やっぱり、最後に撮った夕日のシーンが一番かなと思いました。
亜美さんに、今から帰ると送信しました。
「待っています」
すぐに返って来ました!
今度は、と言うより出かける時は一緒が良いと思いました。
それにしても、沙織さんは面白い女性でした。
沙織さんが写っている写真は残して置こうと思います。
今日という記憶の一つとして……
帰りの道は渋滞していました。
亜美さんの家には思ったよりも遅く着きました。
しかし、途中のコンビニの駐車場で遅くなるかもと連絡はしています。
私は、亜美さんと対面しました。
「お帰りなさい」
「ただいま……」
「中にどうぞ!」
私は、亜美さんの家に少しお邪魔する事にしました。
亜美さんの部屋に向かいます。
「あっ! これお土産! これだと思うけど、ご注文の品は……多分」
「ありがとうございます」
「あと、お菓子。試食して美味しかったから」
お母さんは、もう寝ている様子です。
帰って来るまで起きていたなんて優しいと思いました。
「典秀さん、御朱印帳買ったって言ってたけど私も持ってるんですよ」
「持ってるの? じゃあ、一緒に回れるね。なんてね」
「ちょっと待って下さい。持って来ますよ」
亜美さんは、隣の部屋に行きました。
飛行機の模型コレクションがあるという部屋に……
戻って来ました。
「ほら! これです!」
「二冊も!? 絵柄は同じ様に見えるけど? 羽田神社ってさすがだね」
「黒い方は限定です」
保存用という事なのでしょうか?
もう一冊の方は、結構な神社を参拝しているみたいです。
飛行機が描かれているなんて、亜美さんらしい御朱印帳です。
「限定なんてのもあるんだ? ふ~ん」
「そうなの、御朱印も場所によってはカラフルだったりするんですよ」
「この町の神社にもあるって言ってた……」
私は、何気なく口に出してしまいました。
「言ってたって誰がですか?」
「……詳しい人がたまたま」
「詳しい人? ……もしかして女性?」
何か誘導されているようです。
「…………えっ! あ~……。うん」
私は、隠せない性格なもので……
「ずっと一緒に居たんですか?」
「ずっとではない。ずっとでは……。その人は、急用が出来て帰ったよ」
「急用が無ければ、ずっと居たという事ですか?」
まずいな……
!!!?
「あぁぁぁぁぁっ!」
「どうしたんですか!? 急に大声をだして」
「その写真! 後ろの!」
私は机の上の写真を指さしました!
それはまさしく彼女!
沙織さんです!
「これ? これは半年前に友達と撮ったものですけど」
「この人だよ! 一緒に居たのは……」
「沙織と? あ~……。沙織なら分かる気がする。描いてるのを見るの好きだから」
何となく、空気がほんの少し和らいだ気がします。
多分ですけど……
「でも、次は許しませんよ~!」
「大丈夫! 大丈夫! 私は、亜美さん一筋ですから」
「じゃあ、お詫びの……」
亜美さんは、目を閉じています……
「……ゆ、許します。今回だけは」
「良かった~! でも沙織さんが友達だなんてビックリした」
「でも、沙織どうするんだろう?」
何がだろう?
あの時も沙織さん、急用だって急いで行っちゃたけど。
何か関係あるのかな?
「何? どうしたの?」
「沙織ね、アメリカに行きたいっていう彼氏がいるのよ」
「アメリカ? それはまた遠い話しだね」
行きたいって言っても旅行?
……違うか?
でも、私は聞いてみました。
「旅行かなにか? それとも……」
「沙織の彼は、アーティストなんです。アートの」
「へぇ~。芸術家なんだ。うらやましい」
つい本音が出てしまいまいた。
「その彼、オレのアートはアメリカじゃなきゃ分からないんだ! ……って」
「また安易な……」
「でも、かなり独特なタッチだけどセンスはあると思うの」
独特?
しかもかなり?
それでいてセンスがある?
どんな絵を描く人なんだ?
亜美さんは、会った事がある感じです。
「それで、沙織さんは彼について行くって訳だ」
「でも、沙織のお父さんが猛反対なの」
「それって食っていけるのか!? ってパターン?」
昔、自分も言われました……
今だったら親の気持ちが分かる気がします。
「そうなんです。そのままの言い方されたみたいなんですよ」
「そりゃカワイイ我が娘だもの心配なんじゃないかな?」
「お父さん目線ですか? 典秀さん」
……変な発言をしてしまったかな?
「多分、お父さんは安定という言葉が欲しいんだと思うよ」
「やっぱり、お父さん目線! 反対という事ですか?」
「別にそう言う訳じゃあないんだけどね」
急におじさんくさい感じになってしまったか?
でも、実際に40過ぎたおじさんなんだけど……
亜美さんは、どう思ったかな?
「沙織の様子はどうでした?」
「様子ねぇ……。電話が来るまでは普通に元気な感じだったけど」
「そうですか。 ……着信!? 沙織からだ!」
何?
このタイミングは?
亜美さんは、沙織さんと話し始めました。
「えぇ~! そうなの良かったじゃない! ……男の人?」
何だ?
男の人?
どんな会話をしているんだろう?
私は、沙織さんの写った机の写真をつい見てしまいました。
「……その人。多分、私の彼だと思う。……失礼ねぇ~いいの!」
私の事を話しているのか?
亜美さんは、ちょっと顔を赤らめてチラッと私を見ました。
「と、とにかく諦めないで良かったじゃない沙織。……うん。じゃあね」
短い時間だったけど通話が終ったみたいです。
「沙織、彼と一緒にアメリカ行くんだって言ってました」
「よくお許しがでたね。厳しいんでしょ。お父さんって」
「何でも条件があるみたいです」
出たよ条件!
まるで映画的な展開?
「で、その条件って?」
「アメリカで結果を出してみせなさい……と。 しかも一年の間にですって」
「いろんな意味でお父さんスゴイ賭けに出たね。あとは彼次第って事?」
まぁ、私がとやかく言う事でもないけれど……
「……沙織のお父さんどうしちゃたのかな? あんなに反対していたのに」
「まぁ、チャンスって事じゃないかな? あの二人の」
「チャンスですか。典秀さんの言葉信じます」
あらためて若いって良いなって思いました。
こんな事言ったら、本当におじさんだよな……
「一年なんて、あっという間だと思うよ」
「もう、他人事だと思ってるでしょ典秀さん?」
「そんな事は思ってないけど。でも、沙織さんその彼の事好きなんだね。……愛かな?」
愛かなって、何を言っているんだ私は……
何だか恥ずかしくなってきました。
「そうですよ! 愛なんです! さすが典秀さん!」
「そ、そう愛」
「沙織を全力で応援しましょう! 典秀さん!」
両手を強く握りながら目を輝かせている亜美さん。
私の人生の中で、一瞬の出会いなのだろうけど応援しましょう!
「もちろんだよ!」
私は、両手を握り返しました。
「ありがとうございます! 典秀さん!」
亜美さんは、ギュッと抱き付いて来ました!
そして、私の耳元でやさしくささやきました。
「好き……です」
次話へつづく