「プレゼント」
ショッピングモールで絵を描く為の画材を揃えた典秀であったが、眺めているだけで時間は過ぎ行く。そして、遅番勤務に突入する! そして、3日後の彼女の誕生日に向けてのカウントダウン!
「ん~!! 今日も良い天気だ!」
今週の水曜日、彼女の誕生日がやって来ます。
私は、今日から勤務時間が変わって少し遅めの出勤になります。
洗面台の鏡に映った自分を見ながら今の私に彼女ができるとは……
会社に行く支度は出来た。
「さぁ! 行くか!」
車に乗り込んで、いつもの通勤コースに出ました。
「何っ!?」
電線の工事?
昨日はやってなかったのに片道通行です。
時間には、まだ余裕があるので楽勝です。
「おぉぉぉぉ!!?」
猫が横切りました!
「大丈夫! 大丈夫だ!」
変なドキドキ感の中で会社に着きました。
……9時からのパートの木村さんが私に駆け寄って来ました!
「どっ! どうしたんですか? トラブルですか?」
「そうじゃないの! 私、モールで見ちゃったのよ!」
「だっ! 誰をですか?」
もし、この話しが私達の事なら大変です。
よりによって、こう言う話しに一番食い付く木村さんに……
「まだ誰にも言ってないけど。事務所の宮元さんが男の人と楽しそうにっ! デートよあれは!」
「……男の人?」
「そ~なの……。でも、その時は結構混んでいたのよね~。でね~……」
どうして私に話しかけて来たのでしょうか?
すでにバレている?
かまを掛けてきた?
落ち着け!
平常心だ!
平常心……
「どうしたんですか?」
「似てるのよね麻牧くん……あなたに」
「いやいや人違い出しょう! 仕事にもどりましょう! ……あぁ、休憩?」
あぶないあぶない。
「さぁ! 仕事! 仕事! ……ん!?」
「あ~、麻牧さん!」
「宮元さん!? どうしたの?」
突然の亜美さんの出現に驚く私!
大げさか?
「この書類を確認して、署名をお願いしたいんです」
「書類? ここじゃダメなの?」
「少し説明もあるので事務所までお願します。あっ! そんな難しい物ではないので安心して下さい」
私は、亜美さんと事務所に向かいました。
「……ここに書けばいいんだね」
「はい。そこです」
「あ~。この間のモール……。2人でいたの見られていたみたいだよ」
私は、声を低くして言いました。
「人の集まる所ですから、会社の人もいるかも知れませんね」
「そうだけど……」
「イヤですか? 知られるのは?」
亜美さんは強い人だな~。
そんな気がします。
私は、何を気にしているのでしょうか?
年の差という世間体?
それは、あるかも知れない。
書類は、不備無く書き終えました。
署名しかしていませんが……
「あとは何か必要?」
「大丈夫です」
「それじゃ、戻るけど」
亜美さんは、笑顔でしたけど……
ちょっと、そっけなかったかな?
私は、工場につながる通路を戻ります。
その途中には、休憩室があります。
「やっぱりそうよ!」
休憩していた木村さんが出てきた!
「うわっ! 木村さん!?」
「ねぇ? モールにいたよね? ねぇ? ねぇ? 麻牧くん……」
「あはは……。その話しは、また今度にしましょう。作業に戻らないと……」
私は、少し小走りに攻撃をかわしました。
工場に戻って作業を始めました。
でも、落ち着きません……
全然落ち着きません!
その日は、なんとかミスも無く切り抜けました。
「ふぅ……。あと2日。あと2日だ!」
今の時間は、22時12分
「終わるのが、この時間だもんな……」
私は、会社の駐車場で思いました。
でも、一回家に帰ってから行くからな~
次の日
いつもの様に出勤しました。
何やら雰囲気が違います。
何と言うか……
何か皆さん言いたげ?
……木村さんか?
覚悟を決めた方が良いのかも知れません。
しかし、その日は何だか拍子抜け?
誰も彼女の話しをして来ませんでした。
私は、何を期待していたのでしょうか……
ひやかされる事?
取りあえず帰宅しました。
いよいよ明日です!
私は、また気持ちが落ち着かずにいました。
横になっても、なかなか眠れません。
「んっ!? 雨? マジかっ!?」
私は、窓の外を見ました。
降っています……
「雨が降る予報なんか出てたっけ?」
少し沈んだ気持ちで、また横になりました。
「雨か……」
……いつの間にか眠りについていました。
「ピピッ! ピピッ!! ピピィィィィィ!!」
目覚ましのアラームが鳴っています。
「ん~……。うるさい」
耳障りなアラームを止めました。
私は、雨の事が気になりました。
「おっ!? 降ってない! 良かった~」
雨の降ってない事に感謝しました。
テンションも上がっています!
「何だかドキドキするな~!」
などと口走りながら、出勤の支度をしています。
支度をする間もプレゼントの入った紙袋を確認する私……
私は、今夜の彼女の喜ぶ顔を思いながら玄関を出ました。
車を運転している時、最近ちょっと気になる場所があります。
「あ~、ここコンビニになるんだ~」
こんな事でも何だか喜んでしまいます。
会社に着いて、昼勤の加藤さんに話し掛けました。
「今日、受注多いね」
「そうなんだよ! だからパートさん達に1時間だけ長くお願いした」
「この量じゃ……。人手が足りないもんね」
説得!
納得!
……させたんだろうな~
問題は、パートさん達が帰ってからの約1時間ってところかな?
隣のラインから応援に来てもらうか?
「さっき隣に頼みに行ったんだけど無理みたいなんだよね」
「無理? ダメですか~」
「あと……。まぁ、頑張ろう!」
午後3時です。
パートさん達が帰る時間です。
!?
「宮元さん!!? それに事務所の……」
驚きです!
「お手伝いに来ました。3人ですけど」
「助かります! この三角のコルネ型に生地を巻き付けるんですけど」
「巻き付けていけばいいんですね。こうですか?」
まさか、こんな展開になるとは……
さっきの「あと……」って事務所にまで頼みに行ったって事か?
でも、大丈夫かな~?
「へぇ~。皆さんなかなか上手ですね! 初めてじゃないって感じですよ!」
「そうですか? ゆっくりですけど……」
「いやいや、その調子でお願します!」
私の思惑とは裏腹に皆さん器用です。
安心しました。
「ふぅ~。これで終わりです。ありがとうございました」
「私達も貴重な経験をさせてもらいました」
「また、お願いに行くかも知れませんよ? その時はよろしくお願いしますね」
宮元さん達は、事務所に戻って行きました。
私は、オーブンの出口に向かいます。
さっき生地を巻きつける時に使ったコルネ型の型抜きをする為です。
オーブンの前には、黙々と型を抜いているベテランがいました。
私は、応援に入りました。
「今日は、特に忙しいよ!」
「そうですね」
そのおかげで宮元さんと作業も出来た。
……生地の塊が流れて来ました。
終わりの合図です。
「よし! 終わりだ!」
「長かったよ今日は! 牧さん助かったよ」
「もう加藤さん上がりだから行きますね!」
私は、交代の為に加藤さんの所に向かいました。
「加藤さん、代わりますよ。お疲れさん」
「あとはいつも通りだから大丈夫だと思う」
「了解です!」
私は、加藤さんと交代しました。
……あと数時間で彼女に会える!
頑張ろう!
あと、20分程で私も上がれます。
「なにっ!?」
オーブンの方で何かトラブル!?
警報が鳴っています!!
「あぁぁ~! これは……」
天板がうまく流れずに詰まっています!
他の人達も駆けつけて来ました!
「出て来るのをラックにお願いします!」
指示を出して、私は天板が重なり詰まっているのを取り除きます。
「これが最後の天板だぁ~!!」
すべての天板を取り除きました。
ちゃんと流れるか試してみます。
「OK!! 大丈夫だ! ……?」
夜勤の人の姿が見えました。
と言う事は、もう22時……
「交代するよ。牧さん」
「うん。でも、このダメになった天板を片付けてから上がるよ」
「分かった。頼んだよ」
私は、曲がってダメな天板をスクラップ置き場に運びました。
一応、仕事の引き継ぎをして私は上がりました。
タイムカードの時間は、22時32分でした。
思ったよりも片付けに時間が掛かってしまったようです。
自宅に戻って彼女の所に着く頃は、確実に11時は過ぎるでしょう。
「メールしておこう。……さぁ早く帰ろう!」
私は、会社を出ました。
…………
「なんだ? 前の車……。すごい遅いんだけど!? 何やってんだ?」
朝の出勤の時にたまにいるけど……
この時間に遭遇するとは思いませんでした。
「イライラするな~」
私は、時間を気にしてイラついています。
すると、前の車が左折する様です。
私は、ホッとしました。
自宅に着き、急いでプレゼントを持って彼女の家に向かいます!
「23時11分かぁ……。急ごっ!」
大丈夫だ!
大丈夫だ!!
ちょっと焦りながらも、自分に呪文のように言い聞かせています。
それにしても、信号がもどかしい……
いろいろな障害があったけれども、何とか亜美さんの家に着きました。
呼び鈴を押しました。
「は~い」
「こんな時間になってしまて……」
「でも来てくれたじゃないですか。嬉しいです」
そう言っても、ゆっくりしている時間はありません!
「あの……これ。プレゼント」
「ありがとうございます」
「ぐぅ~~……」
こんな時に……
安心したせいか空腹感が襲って来ました。
「くすっ! 何か食べに行きますか?」
「ははは……。ファミレスでも? 行きますか」
「行きましょう! 支度して来ますね」
なんかもっとロマンチックな感じにしたかったのに……
「お待たせしました」
「行こう!」
「はい!」
店に到着して、中に入り席に案内されました。
私達は、注文を済ませしばし待ちます。
しばらくすると、注文した品物が来ました。
「これ開けても良いですか?」
「あ~。ど~ぞど~ぞ」
「これって……! スワロフスキーじゃないですか!?」
喜んでもらえたかな……
「良いんですか?」
「良いもなにも亜美さんの為に用意したんだから」
「ありがとうございます」
やっぱり笑顔は良いです。
「良かった~。喜んでくれて、あの時時間無かったから……」
「時間? あの時? まさか羽田? ですか?」
「あっ……。まぁ……。誕生日おめでとう」
まだ言ってませんでしたよね?
確か……
私は、空腹を満たしました。
彼女は、デザートを食べています。
時計を見ました。
日付が変わるまで、私の時計であと1分……
「あっ……。亜美さん、もう一つあるんだ」
「えっ? 何がです?」
「これなんだけど」
私は、もう一つの小さなプレゼントを出しました。
「何ですか? これは、イヤーカフですね」
「なんか身に着けてもらえる物も良いかな~って」
「じゃあ、早速付けて見ますね。……どうですか?」
亜美さんは、ピンクパールとフラワーをあしらったデザインのイヤーカフを左耳に付けました。
「良いよ! 似合ってる」
「そうですか? 嬉しです。ありがとうございます」
「うん。今日は、応援ありがとう……。あっ、もう昨日だね」
時間の経つのは早いと思いました。
明日が休みじゃないのが残念です。
私達は、店を出ました。
車の中で、亜美さんが聞いて来ました。
店では聞いてこなかったのに……
「そう言えば、絵の方はどうですか?」
「う~ん……。まだ、ちょっとかな……」
「そうですか~。でも、気長にいきましょう! 焦っても良い作品は出来ません!」
ありがたいお言葉です。
と、言うより逆にプレッシャー?
でも、早めに進めないといけないな!
「それじゃあ」
「おやすみなさい。プレゼントありがとうございます」
「また今度、休みが合った日にどこか行こうよ」
私は、彼女を送り届け自宅に戻りました。
しばしリビングにて……
喜んでもらえた時の笑顔は、本当に最高でした!
メールだ……
亜美さんからです。
「LINE? 招待?」
次話へつづく