Ⅳ 20
第五聖地を彼方にして、男の体は落下を続けていた。
「ああぁぁああああああ――!」
悲鳴を垂直軌道にたなびかせながら、レスターは成す術も無く重力に呑まれていた。
「ええ悲鳴やなぁ。自由落下の気分はどないですかー?」
投げられた声にレスターははっと横を見た。
「おっ、お前は!」
「気ぃ失うか思てたけど、神経図太いヤツは体の方もしぶといんやなぁ」
感心したように顎に手を当てるテッド。もう片方の手はポケットの中。ラフな姿勢で床に立っているような見た目だったが、彼もレスターと同じ速度で落下していた。
レスターは体裁も構わずに怒鳴った。
「早く助けろ! 預言者だろうが!」
「うーん。預言者かて俺は第一聖地のモンやしなぁ」
「つべこべ言うな! 私が死んだら第二聖地は落ちるぞ!」
切り札を叫んだ。
しかしテッドは少しも動揺しなかった。
「おっ、おい! 聞いていたのか!? 私は芯体だぞ。私が死んだら――」
「心配いらへんよ」
にこり、とテッドは笑った。レスターは口が半開きのまま硬直した。
「あんたはただ落ちてくれるだけでええねん。他はぜーんぶ、俺が手ぇ回しとるんやから」
テッドは楽しそうにレスターの強張った顔を眺めた。
「まっ――まさか! あの地震もお前の!」
「ちゃうちゃう。地震は第五聖地のせいやで。アレックスが聖地動かしたせいで他んトコにも影響出たんや。おかげで修正すんのに余計な手間掛かったわ」
やれやれ、とテッドは肩をすくめた。
「地震はオマケや。あんたを放り出させたんは次元婉曲やで」
「次元婉曲だって!? そんな代物、たとえ預言者だとしても」
「四位共鳴や」
手品の種を知ったように、レスターの目が大きく見開かれた。
「聖地の複位連動による超現象誘起。あんたが企んだ三位共鳴だけや思うたら大間違いやで」
「っ――! お前、初めから全て!」
テッドは笑った。
「ウチの大事なお姫さんに手ぇ出さんといてくれます?」
愕然と、レスターはその圧倒的な笑みを見つめた。
「そしたら、この辺でお別れやな。お姫さんのご機嫌とらなあかんわ」
「おっ、おい! 待て、頼む! 助けてくれ!」
「助けてほしいのはこっちやわー。今度こそ殺されてまうかもしれへんなぁ」
「ふざけている場合か! 早く私を、私を――」
男は下へと吸い込まれて行った。縋るように伸ばされた手は一瞬で見えなくなった。
「俺はいつでも本気やで?」
テッドは彼方へ消えた男へと手を振った。
そして、
「私をぉぁぁぁああああああああああああ!」
「……」
土の上に佇む少女の耳が、その悲鳴を聞いた。
すっと片手を上げた。開いた手の平を起点に、刃のシルエットが組み上がった。
夜空に現れたのは、途方も無い長さの剣だった。
少女は手の平を握った。剣の柄の感触は、浮遊水分の集合体とは思えないほどに硬質だった。
刃を天へと突き上げた。
ざしんっ、と遥か彼方の先端に何かが突き刺さった。
「後任、お引き受けいたしました」
眼鏡の奥の瞳を瞬き、強く、静かに宣誓した。




