Ⅳ ⅹ
「エマっ! エマ! こんな所に閉じ込めるなんて聞いてないわよ!」
バンバンバン! と扉を叩くが、向こう側から反応は無い。
アベルは呻くと、取っ手を掴んで体当たりを試みた。はらりと落ちたショールを思いっきり踏みつけながら、何度も体当たりを繰り返した。
「いったぁ……くっそ。さっぱり開きやしないわ」
赤くなってしまった肩をさすりながら扉を睨みつける。
「どうにかして開けないと。エマがシオンに告げ口したら計画が台なしよ」
キッチンへと向かう途中、気がついたらアベルの体は宙を舞っていた。そして図ったように扉を全開にしたこの部屋へと放り込まれたのだ。
扉が閉まる直前、エマは申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた気がする。
「……でも、閉じ込めるんなら謝ろうがシラ切ろうが同じよ。絶対とっちめてやるんだから」
アベルは腕を組むと、一歩下がって扉を見回した。大きな屋敷によくある様式の片開きの扉だ。鍵穴は一つ。同じ鍵で外からも内からも施錠できるようになっている。
仮にエマが技術を使って鍵をかけたとしも、施錠の原理はアナログと同じだ。
にやり、とアベルは笑った。
「元・バリバリの下働きをなめないでよね。大工仕事も一通り教え込まれてるんだから」
腕を解くと、結い上げられた髪からピンを一本抜き取った。そして扉の前にしゃがみ込むと、鍵穴にピンを差し込み、秘伝の鍵開け技法を発揮させた。
かちゃかちゃと音が続くこと数秒。カチンと音がして手ごたえが変わった。
「勝った」
アベルは勝ち誇った笑みで立ち上がると、勢いよく扉を開いた。
純白のドレスが廊下に躍り出る。長い廊下には誰もいなかった。
「どこに行けばいいんだろ」
何の目印も無い廊下をきょろきょろと見回す。人気は全く無く、不思議と物音も聞こえてこない。
「パーティの晩なのに……」
と、その時。壁の向こう側で何かが弾ける音が聞こえた。
「え? 花火?」
くぐもった爆発音を、アベルはそう解釈した。銃声など聞き慣れない少女には当然なのかもしれなかった。
そっちに行けば、誰かいるかもしれない。振り向いた方向は幸いにしてサロンルームとは反対方向だった。
アベルはためらい無く、廊下を駆け出した。




