表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/60

Ⅳ ⅷ

 目が捉えたのは、廊下に面した扉だった。

 変だなと思って目を凝らすと、扉は完全に閉まっておらず、細いすき間を開けていた。

 シオンは惹かれるように扉へと歩んだ。太い取っ手の下にはアナログな鍵穴が造られている。扉自体もひどく重そうで、まるで何かを閉じ込めておく部屋のように思えた。

 取っ手を掴もうと手を伸ばし、直前で思い直す。伸ばした手を横に払い、静電引力で扉を開いた。

 現れた部屋の中は、闇に覆い隠されていた。明かりは一切無い。廊下から漏れる光が、絨毯の床にシオンの影を描いていた。

 この部屋には何かある。

 今も感じ続ける異質な引力が、シオンにそう確信させていた。

 徐々に目が慣れて来る。しかし見えるのは家具と窓枠の影だけだ。

 高鳴る鼓動に急かされて、思い切って頭上のランプへと意識を放った。

 ジッ、と音がして、ランプに明かりが灯った。

 瞬間。

 シオンは呼吸を忘れた。

 朱みがかった光が部屋を照らし出す。電力を強制供給したせいか、放たれる灯影は危うげに揺れていた。

「……エリーシャ」

 その下には、今まで存在を潜めていた、第二聖地の預言者エリーシャの姿があった。

 緩くカールした長い髪。目を閉じていても優しげだと分かる顔立ち。ワンピースに包まれた背の高い体。

 ベッドからこぼれ落ちた髪の毛先が、床をこすっていた。

 同じくベッドから投げ出された細い腕には、無数のチューブが挿し込まれていた。

 何だ、これは。

 シオンは愕然と彼女を見た。

 両腕だけに留まらず、細いチューブは両足、首筋、胸元からも伸びている。内側に血液と思われる赤黒い液体を満たした管の群れは、ベッドの横に据えられた巨大な機器へと繋がっていた。耳に響く自分の鼓動の背景には、この機器が駆動する機械音が聞こえていた。

 管まみれにされたエリーシャの姿は、瀕死の患者などとうに通り越した、哀れな実験動物だった。

 渾身の力で身をよじった後で力尽きたように、彼女は歪な姿勢でベッドに横たわっていた。

「え……エリーシャっ!」

 シオンはベッドへと駆け寄った。

「誰にこんな風にされたんだっ。エリーシャ!」

 彼女が返事をする代わりに、傍らの機器がゴウンと低い音を立てた。

 シオンはそれをギッと睨みつけた。衝動的にエリーシャの腕にまとわりつくチューブを掴んでいたが、引き抜いてしまう前に思い留まった。

「……ぃ……」

 微かな声が鼓膜を振るわせた。

「エリーシャ! 気付いたの!? エリーシャ!」

「しぉ……く……ん」

 両の瞼が細く開いた。その隙間から、虚ろな瞳がシオンを仰ぎ見た。

 シオンは必死に問うた。

「どうすれば助けられる? この機械を止めればいいの?」

「……っ」

 再び彼女の瞼が閉じかかった。

「――っ! お願いだエリーシャ! 答えて!」

 その時だった。

「いっ!」

 首筋に鋭い痛みが走った。

 とっさに振り返った瞬間。背後に立っていた男がシオンの頬を殴りつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ