Ⅳ ⅵ
宵闇の聖地は静まり返っていた。
「相変わらず丸っこい聖堂やなぁ」
宙に佇みながら、テッドは第五聖地の聖堂を眺め下ろしていた。
彼は空中の局所重力場を蹴ると、吸い込まれるようにドーム型の屋根へと降下した。革靴が大理石の屋根を叩く、と見えた瞬間、彼の意識と共に大理石の分子結合が解裂し、人一人分の大きさの穴が生じた。彼はそこをするりと通り抜けた。
薄闇の満ちた堂内の空気を、彼の影が裂いて降りる。すとんと着地し、落下の衝撃など全く窺わせない仕草で身を起こすと、いつも通りの淡い笑みで正面を眺めた。
そこには、この地の聖なる依代が眠っていた。
テッドはポケットに手を突っ込むと、祭壇へと歩んだ。
彼の足音は、ドーム状の天井に高く響いた。空気振動を止めれば足音もひそめられたが、彼はそうしなかった。棺の中へと眠る青年へ、己の来訪を告げるために立てた足音だった。
青年は目を覚まさない。テッドは知っていた。
ぴたり、と祭壇の数メートル前で足を止めた。見えない異電場の膜を前に、彼は満足げに呟いた。
「見事なトラップやないか。遠隔やのに一つの綻びもあらへん。さすがは歴代の血族一の電場使いやわ」
祭壇を守る球状の電気網。何者かが触れれば、即座に計算された強度の電流が走るのだろう。この周到な罠があるおかげで、弟は聖地を離れられたというわけだ。
祭壇の周りを一周した後、テッドは再び棺の中を見た。終末昏睡誘導機。曇りないガラスに囲われた青年は、固く閉じた両目で天井を仰いでいた。
テッドは微笑みかけた。
「アレックス。万一この網が破られようが、お前やったら己でどうにかできるやろな」
異電場とガラスを隔てて言った。
そう言える根拠は今も、青年のローブの胸元で小さく光っていた。棺が発す淡い駆動灯を受けた輝きだった。
と、その時。テッドはピクリと反応した。空気を伝う磁場波紋。数台のポッドがこの陸地へと近づいている。
テッドは背を起こした。
「ほな、俺は行くで。今生の別れやろうけど、涙も無しや言うて怒らんといてな」
ひらりと手を振りながら、ためらい無く棺に踵を返した。
「俺がいつぞ死んだ時にはあの世で再会しようや」
その言葉の残響が消える頃、白髪の影も姿を消していた。
何事も無かったように、聖堂に静寂が落ちた。
そして――薄闇が絶叫の渦に巻かれるまで、そう時間はかからなかった。




