表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/60

Ⅳ ⅵ

 宵闇の聖地は静まり返っていた。

「相変わらず丸っこい聖堂やなぁ」

 宙に佇みながら、テッドは第五聖地の聖堂を眺め下ろしていた。

 彼は空中の局所重力場を蹴ると、吸い込まれるようにドーム型の屋根へと降下した。革靴が大理石の屋根を叩く、と見えた瞬間、彼の意識と共に大理石の分子結合が解裂し、人一人分の大きさの穴が生じた。彼はそこをするりと通り抜けた。

 薄闇の満ちた堂内の空気を、彼の影が裂いて降りる。すとんと着地し、落下の衝撃など全く窺わせない仕草で身を起こすと、いつも通りの淡い笑みで正面を眺めた。

 そこには、この地の聖なる依代が眠っていた。

 テッドはポケットに手を突っ込むと、祭壇へと歩んだ。

 彼の足音は、ドーム状の天井に高く響いた。空気振動を止めれば足音もひそめられたが、彼はそうしなかった。棺の中へと眠る青年へ、己の来訪を告げるために立てた足音だった。

 青年は目を覚まさない。テッドは知っていた。

 ぴたり、と祭壇の数メートル前で足を止めた。見えない異電場の膜を前に、彼は満足げに呟いた。

「見事なトラップやないか。遠隔やのに一つの綻びもあらへん。さすがは歴代の血族一の電場使いやわ」

 祭壇を守る球状の電気網。何者かが触れれば、即座に計算された強度の電流が走るのだろう。この周到な罠があるおかげで、弟は聖地を離れられたというわけだ。

 祭壇の周りを一周した後、テッドは再び棺の中を見た。終末昏睡誘導機。曇りないガラスに囲われた青年は、固く閉じた両目で天井を仰いでいた。

 テッドは微笑みかけた。

「アレックス。万一この網が破られようが、お前やったら己でどうにかできるやろな」

 異電場とガラスを隔てて言った。

 そう言える根拠は今も、青年のローブの胸元で小さく光っていた。棺が発す淡い駆動灯を受けた輝きだった。

 と、その時。テッドはピクリと反応した。空気を伝う磁場波紋。数台のポッドがこの陸地へと近づいている。

 テッドは背を起こした。

「ほな、俺は行くで。今生の別れやろうけど、涙も無しや言うて怒らんといてな」

 ひらりと手を振りながら、ためらい無く棺に踵を返した。

「俺がいつぞ死んだ時にはあの世で再会しようや」

 その言葉の残響が消える頃、白髪の影も姿を消していた。

 何事も無かったように、聖堂に静寂が落ちた。


 そして――薄闇が絶叫の渦に巻かれるまで、そう時間はかからなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ