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Ⅳ ⅲ

「リゼッタさん! あぁ、今日もなんて綺麗なんだ!」

 フレッドが顔を輝かせて感嘆した。チェンリーが「女は嫌いじゃないネ?」と白けた目を送る。

 姿を見せたのはリゼッタだった。凛とした動作でサロンルームへと入って来る少女の姿は、まさに高貴な姫君だった。やわらかなシルエットのドレスに、首には花のチョーカー。膨らんだスカートは床まで伸びるが、パンプスはそれを踏むこと無く優雅に絨毯を歩む。どう生きていればこんなにもドレスが似合う姿になるのだろう。シオンは感心しながら思った。

 リゼッタは十歩ばかり歩んだ所でピタリと足を止めた。

「……どうしたの? 会場はこの中よ」

 振り返り、扉の向こうへと言う。

「わ……分かってるけど。でも、この格好やっぱり……」

 アベルの声が聞こえる。シオンは反射的に扉の前へと向かっていた。

「は、恥ずかしい!」

 ばっ、と顔を上げた少女と目が合った。

「あっ――シオン」

 シオンはかける言葉も忘れて少女を見つめた。

 純白のドレスに、羽のような純白のショール。つやのある生地はすらりとしたシルエットで少女の体を覆っている。肩を覆うショールをぎゅっと握り締める両手には、華奢なブレスレット。羞恥に頬を染めた顔には薄く化粧が施してあった。

「またえらい気合い入れて洒落めかさせたな」

「メインゲストだもの。ドレスコード無しでもフォーマルが当然よ」

 さらりと答えるリゼッタ。しかしフォーマルドレスを着せられた当人は明らかに困惑していた。

「いらっしゃい、アベル。シオンのエスコートなんて期待するだけ無駄よ」

 がくっ、とシオンは膝を折りかけた。確かに気が利かなかったけれど、そう言われた後では迎えに行く事も出来ない。

 アベルは躊躇の後、静かに歩みを再開した。膝丈のドレスが、一歩歩む度に滑らかに揺れた。

 女の子は変わるものなんだなぁ……

 シオンはすっかり大人しくなってしまったアベルを見ながら思った。事あるごとに怒鳴りつけられていた昼間までが嘘のようだ。

 しかし。

 サロンルームに入った途端、アベルはすうっと深呼吸した。

 シオンが嫌な予感を覚えた直後、彼女はパンパンと自分の頬を両手で叩いた。

「初めまして! アベル=リードです。どうぞよろしく!」

 清楚なドレスとは真反対のセリフが、サロンルームのに響き渡った。

 はたり、と沈黙が落ちた。部屋にいる九人のうち、アベルを除く八人が目を点にして固まっていた。

「――あっはははは! 元気な子ぉ!」

 初めに笑ったのはマレイアだった。

 彼女の一声を皮切りに、一気に空気が弛緩した。

 ジャックが笑顔で頷いた。

「本当、媚の無い良い挨拶だなぁ! アマーリエも見習わないといけないぞ」

「うん! アベルちゃん、アマーリエもよろしくねー!」

 ジャックの足元でアマーリエが背伸びしながら手を振る。幼女を見つけたアベルは心底驚いた顔をした。

「わ、いろんな人がいる。でも思ってたより普通……」

「なぁに? 預言者や御芯体だからって化けモンみたいなのだと思ってたぁ?」

 マレイアがアベルへと歩み寄る。アベルが黒ドレスのスリットに釘づけになった隙をついて、頭をむぎゅっと抱きしめた。

「わ! っ、えぇ!?」

「あたしは第七聖地の預言者マレイアよ。こちらこそよろしくねー」

「よっ、よろ、って言うか!」

 化け物クラスの美乳を頬に目を白黒させる。

「助けてリゼッタ!」

「それがマレイアの愛情表現よ。誰もが一度は通る試練だから、心してお受けなさいな」

 ふいと顔を逸らしながらリゼッタは言った。代わりにアマーリエがアベルへと駆け寄る。

「アベルちゃんお姫様みたーい。ドレスちゃんがすごく似合ってるのー」

「こっ、これはリゼッタのコーデよ! 適当なワンピとかでよかったのに、こんなの恥ずかしいったらありゃしないわ!」

「あらあら、本音が出ちゃったわねぇ。ドレスの中身はTシャツが似合う元気っ子?」

 楽しそうにアベルをもみくちゃにしている女性陣。きゃっきゃ言うムードが漂い、今まで立ちつくしていたフレッドがふらりと背を返した。

「どうした? フレッド少年」

「……はかない幻想が散った……」

 傷心の面持ちで呟くフレッド。

「リゼッタさんの再来かと思ったのに……可憐な花は一瞬で散ってしまった……はは」

「何言ってるネ。アベルは可愛いヨ」

 チェンリーが不服そうに反論する。ジャックが彼女の頭をポンポン叩き、「男には男の理想ってモンがあるんだよ」と何やら教え諭していた。

 シオンは安心やら心配やら複雑な気分で事を見守っていた。

 そこへ、

「見事に打ち解けよったなぁ、嬢ちゃん。心配しとったけど本人も乗り気やん」

 テッドが呟く。シオンも頷いた。

「うん。歓迎のされ方は変だけど、ひとまず良かったと思うよ」

「嬢ちゃんがおったおかげでウチのお姫さんも重い腰上げたようやしな。何や責めてしもうたけど、お前が嬢ちゃん連れて第一聖地来たんは正解やったわ」

 シオンは振り向いた。目が合うと、テッドは小さな頷きを返した。

 アベルがいなかったら、リゼッタはパーティに来なかった?

 そしてテッドにとってそれは都合が悪い事だった?

 シオンはテッドから目を逸らした後、怪訝な気分で床を見つめた。

 すると、不意に部屋の照明が落とされた。

 代わって飾りかと思っていたランプに火が灯される。突然の暗転に部屋の喧騒が鎮まった。

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