Ⅲ ⅵ
至高圏への境界が間近に迫った頃、アベルが思い出したように問うた。
「ねぇ、聞いていい?」
「うん?」
「預言者って、何で代替わりするの?」
ちらりと腕の中を見る。
少女は下へと繰られていく景色を眺めていた。
「不死身だって言ったわよね。じゃあ別の理由で資格を奪われるって事?」
何気なく問うたような雰囲気だった。
「……知ってどうするつもり?」
シオンは敢えて低い声で問い返した。アベルが小さく息を呑んだ。
「べっ、別に何かしようって言うわけじゃないけど……」
うろたえる少女の様に、シオンはくすりと笑った。
「僕らにも死の条件は残ってるんだ」
アベルが顔を上げた。
「僕らの体に流れる父の血は、父の血にしか無い特別な力を持ってる。この強烈な外来因子に対する拒絶反応が僕らの命を蝕むんだ」
顔を見なくても、彼女が驚いているのが分かった。
「植えつけられた血に食われて死ぬって事」
「そうだね。でもその瞬間がいつなのかは分からない。拒絶反応自体が起こらないかもしれない。だから、血を継いで三日で死んだ預言者の記録もあれば、千年間生き続けている預言者も存在する」
白髪の青年が後者だ。反して短命の預言者が立て続けに重なった聖地もある。生命の幕切れは本当に唐突で、加えてその時がやって来るまでの猶予もバラバラだった。
「怖くないの? 自分がいつ死ぬのかも分からないのに」
シオンは苦笑した。
「怯えた事は無いよ。父の血に、それを恐れさせないような作用があるのかもね」
「……変なの」
アベルは呟くと、再び景色に目を向けた。
ふわり、と少女の淡色の髪が波打つ。
シオンは上昇を止めた地点に立ち、眼下を見下ろした。
「着いた。ここが第一聖地だよ」
目を焼くような青空を背景に、美しい石造りの聖堂が佇んでいた。
「これが……至高圏の聖地」
雲の影を映した聖堂の姿に、アベルが澄んだ嘆息を漏らした。
「……ノアが遺した最初の変換機」
瞬間。
シオンの頭の中に、弾けるような速度で回路が組み上がった。




