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Ⅲ ⅱ

 血液が爆ぜた。

 青年の怒号の瞬間、聖堂に蠢いていた人間たちの首が弾けていた。

 彼らの手には変換機があった。

 彼らはこの今も殺し合っていた。刃状の装置には血液が滴り、螺旋形の輪をはめた両腕は大きく擡げられていた。

 床には倒れた体があった。既に多量の血液が流れていた。

 闇に色彩を奪われた泉に、今、煙のような雨が降り落ちた。

 ぎゃあ、あ、あ、あ、ああ、あああ

 悲鳴が重なって一つの雑音に聞こえた。

 断末魔と言うモノを、少女は初めて聞いた。

「……」

 彼女の視界の中央には、その男の背があった。たった今まで自分の体を抱きかかえていた男だった。

 彼の右手が動く。

 その先で唖然と固まっていた人間が、正中線から二つに割れた。一瞬晒した断面は、暗闇に隠れて見えなかった。

 吹き上がった血液が彼の右手を汚す。白亜のテールコートは見る間にバイカラーの装飾を纏った。

 彼は流れるように姿勢を変えた。振れた左手の軌道上にいた人間たちが端から順に弾けていった。

 血液の霧が、彼の顔を一瞬隠した。

 霧が晴れた後の彼は、一刻と深さの増した瞳で立っていた。

 響く音色は血滴の調べだった。

「見つけたで」

 旋律にのる彼の声。

 ひっ、と喉を鳴らしたのは、彼と目を合わせた人間だった。

「返してもらうわ」

 青年の姿が消えた。彼の向こうにいた人間の姿が露わになった。血液にまみれたナイフを持ったその人間は、蒼白な顔で後ずさろうとしていた。

 少女はその間も立ち尽くしていた。

 ぐっ、と後ろから抱きしめられた。

「っ!」

 右腕を掴んだ手が強引に腕を擡げさせる。

 視界に揺れる金属。フォークを握ったままだったと、少女はその時気がついた。

 瞬間、金属が弾けるように間合いを駆けた。

 ぐちん、と、遠い所に感触を覚えた。

 気持ちの悪い音がフォークの先で鳴った。尖ったフォークの先端に眼球を貫かれた人間の呻き声だった。

 少女は見開いた目でこの映像を見ていた。

 フォークは未だ、彼女の手の中にあった。金属結合径の拡大により体積を大幅に拡張したフォークが、死体の海の向こうにいる人間の眼球を突き刺していた。

 極端に密度が低下した金属は最早、向こうの有り様まで透き通って見えていた。霞みのような金属分子が、真下の血だまりに一直線の影を落としていた。

 血液の泉を貫く影の基部には、重なった二つの影があった。

「継代……完了や」

 頭の上で誰かが囁いた。

 巻き戻るようにフォークが元の長さへと収束する。

「お疲れさん」

 血液と脳漿がこびりついたフォークを、青年は少女の手から抜いた。

 彼は少女を解放した。途端に彼女の体は、糸が切れたように崩れかけた。

「っ」

 落ちかけた膝を制して、少女は後ろを振り返った。

 その男は優しげに微笑んでいた。

 どこまでもやわらかく、どこまでも緩やかで、どこまでも醒めきった微笑みだった。

 揺れる少女の瞳を見つめ、青年はその笑みを屈託なく変えた。

「至高圏第一聖地。あんたは今から、ここの御芯体や」

 血液にまみれた右手を差し出す。

「仲ようしてな、お姫さん」

 名前すら知らない男だった。

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