Ⅱ ⅹⅱ
「裏方って……もしかして何かあったの?」
少しの間の後、テッドは言った。
「狙われとるで、お前とこの聖地」
息を呑む。
「お前が聖地空けとる間に、どこぞの輩が聖堂に入り込んどったで。目的は言わんでも分かるやろ」
「あ……アレックスは無事!?」
頷くテッド。
「棺の中で眠っとるままや。昏睡解かれる前に全員始末したったわ」
ほ、とシオンは息をついた。
そして遅れて気づいた。
「全員って……何人来たの?」
「五人やったな。せやけどお前、全く気づかんかったん? 嬢ちゃん捜し出すんに必死になるんもええ加減にしときや」
呆れたように諭すテッド。まっとうな指摘を受け、シオンは身を縮めた。
「で、でも……聖堂を襲われるなんて」
「力に自信あるモンは意地で昇って来るで。俺ら預言者はそういう輩退けるためにおるんやろ」
確かにそうだ。現に今まで何度も、聖地へ侵入してきた技師を退けた事がある。
しかし、継代のただ中に強襲された事は一度も無かった。
偶然だろうか。しかも、五人と言う人数。
「地界に情報が広まったのかな……。アベルを捜してた時に一度、アベルが御芯体を継代するって教えちゃったから」
アベルを雇っていた女主人だ。ただ彼女は言いふらしはしても、自分自身で至高圏まで昇って来る実力は無さそうだった。
「その噂は広まるやろうな。ただ、地界の陸におる人間が言いふらしたから言うて、こないな状況にまで陥るとは思われへんわ」
テッドは首を振った。
「それじゃ、一体どこの誰が……」
「どうもな、内輪の動きがおかしいねん」
えっ、と顔を上げた。
テッドは腕を組むと、砂の地面を見ながら続けた。
「前から気づいててん。第五聖地襲ったのは、恐らく内輪の手のモンや」
「内輪って、至高圏の誰かってことだよね」
「せや。お前は認めたないかも知れへんけど、内輪の誰かが手ぇ回したとしか思われへん」
「……」
口をつぐんだシオンの一方、テッドは何かに挑むように口調を強めた。
「前から見当はつけとったんや。今回の件で確信持てたで」
腕をほどくと、そのままポケットに入れた。
「いつか来る思うて、こっちも手ぇ打たせてもらっとるわ。いくら至高圏のモンとは言え好き勝手はさせへん」
シオンの視線に気づき、笑みを返す。
「ええ兄ちゃんやて見直すやろ」
「……いや、そうじゃなくて」
口をとがらすテッドへ、シオンはためらい混じりに尋ねた。
「誰がアレックスを狙ったの」
「正確には御芯体の座ぁやな」
言い直すと、テッドは軽く肩をすくめた。
「お前は知らんでもええ。むしろ、知って警戒される方が厄介や。あちらさんに俺の計画がバレてしまうわ」
「そんな!」
「自力で気づく事やな。まぁ、勘ぐらんでもすぐに分かると思うで」
シオンの抗議の視線を撥ねつけ、テッドは首を巡らせた。
澄んだ闇色の空へ、彼は目を細めた。
「もう地界うろつくんは止めとき。嬢ちゃんも見つかったんやし、そろそろ己の守るべき場所に戻っときーや。ほったらかしにしとくと、またロクな事が起きかねんで」
シオンは拳を握った。問い詰めたかったが、言われた事も事実だった。
「俺にしゃしゃり出るな言う前に、自分とこの聖地はキッチリ守りや。妙な輩に侵されてもうたら本気で〝俺の二の舞〟になるで」
その言葉が何よりも説得力を与えた。
シオンは素直に頷いた。
「うん。……それから、ありがとう」
テッドは虚を突かれた顔をした。
「そないな言葉、久しぶりに聞いたわ」
遅れて、屈託ない笑顔が青年の顔を覆った。
「ただな、俺もこの状況利用させてもろとるからお相子や。むしろ恨まんといてや」
「恨みはしないよ。君はこの世界を、この姿のまま生かし続けるためにそうするんだから」
テッドは肩をすくめた。
「核心ついとるわ」
一言言うと、くるりと背を返した。
第一聖地の預言者。その後ろ姿をシオンは眺めた。
彼がたびたび起こす暴挙。シオンはそれに反発しながらも、心の内側ではその価値を理解していた。
彼が重ねてきた行為の全てには、絶対的な信念があった。彼がリゼッタにさせた残虐な行為もまた、全てが至高圏の安寧のためだった。
淡くため息をついた。
君の思想をなぞろうとは思わない。
でも、一つ確信できる。父が君を預言者に定めたのは正解だったよ。
君が父を恨む限り、世界は君の手で守られ続ける。他の誰に任せるよりも正確に、確実に、そして忠実に。
カッターシャツの襟を白髪が掠めた。
「あー、予定外に遅なってしもたわ」
テッドはぐーっと伸びをした。息を吐いて体を緩めると、軽く首を擡げて夜空を仰いだ。
「早よ帰らんと、またお姫さんに怒られてしまうわ」
その視線の先には、至高圏を見渡すバルコニーがあるに違いなかった。
……ああ、そうか。
今は手に負えない宝物もあるんだったね。
いつくしむような彼の瞳に、シオンは淡い笑みを返した。




