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悪霊は天使を嗤う  作者: 中村レギス
プロローグ
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第5話 夕陽彩る彼岸花

 出口はまだ見つからない。

 研究所の皆の目を掻い潜り、色々な場所を探したが、それらしい物も見つからず、もはや心が折れかけていた。だが、そんな時、必ず燐と別れたあの日の事を思い出すのだ。


「まだ、見つからないよ。ねぇ、燐。本当に出口なんてあるのかな」


 もうここにはいない燐に話しかけながら、今日もまた出口を探す。


「あっ、ここにいたんだ!」


 廊下を一人、トボトボと歩いていた明に、雪が体当たりをかましながら声をかけた。


「ねぇ、皆で鬼ごっこするんだって。明もしようよ」

「いや、ボクは……」


断ろうとして、ふと思い留まる。たまには気分転換だっていいじゃないかと。


「うん。やるよ」

「本当? うわぁい!」


クルクルと回って踊る姉に癒される。


「こっちこっち!」


 雪に案内されたのは、中央ホールだった。そこにはすでに、殆どの人が集まっているようで、ホールに入ると、中央に立つ佳亮が下手な演説を始めた。


「やあ諸君、今回は集まってくれてありがとう!」


 どうやら主催は佳亮のようだ。佳亮の開催する行事は、殆ど変な物なのだが、今回は割とマシなようだ。


「皆、知っていると思うが、今回の種目は鬼ごっこだ! ルールは簡単、捕まったらその人は鬼になり、追いかけるというもの。因みに、鬼の交代はないぞ!」

「つまり、タッチしても交代にならないってこと?」


 誰が喋ったのか分からないが、至極真っ当な質問だ。


「あぁ。そう言うことで合っているぞ。尚、優勝者には、俺との混浴を許可しよう!」


 そう言うと、周りにいる皆は、佳亮に向かって空き缶やら何やらを投げ飛ばした。特に、近くにいる京が本気で当てている。やはり、今日も佳亮は佳亮なようだ。


「痛い痛い、ええぃ、やめい! 分かったからやめてくれぇ!」


 可哀想なくらいボコボコにされた佳亮が、幽霊の様にゆらりと立ち上がった。


「優勝者のいる班の当番を一回免除。これでどうだぁ‼︎」


 まぁ、上等な景品なんじゃないだろうか。


「それと明の作ったお菓子! いいか? 明」

「はへ? 別にいいけど」


 特に問題は無い。お菓子を作るのは楽しいし。


『うぉぉ! やったぁ!』


 すると、周りにいる少女達が叫び声を上げ、歓喜した。正直、このテンションの高さには、少し引いてしまう。


「それじゃジャンケンをするぞ。隣の人とやって、負けた奴は残れ。勝った奴はもう逃げていいぞ」


 早速、隣にいる雪とジャンケンをすることにした。


「「最初はグー、ジャンケンっ!」」

「グー!」

「パー!」


 雪がグー、明はパーで、明の勝利。悔しがる雪を尻目に、明はすぐさまホールから離脱。


「ふふっ、この疲れない身体なら優勝間違い無しだねっ!」


 明は最早、勝ちを確信していた。故に周りへの注意がお粗末であった。気づいた時には、もう、時既に遅く、目の前に壁が立ちはだかっていた。


「わわっ、ちょ、まっ!」


 車は急には止まれない。それと同じく、全力疾走中も止まれないものだ。目を瞑って、腕で顔を咄嗟にガード。


「っ⁉︎ あれ、痛く、無い?」


 恐れていた痛みが来ない。恐る恐る目を開けて振り返ると、後ろに壁がある。どうやらすり抜けてしまったらしい。


「どうなってるの、これ」


 明は壁をペタペタと触り、すり抜けない事を確認すると、首を傾げた。


「でも、まぁ、折角何か手がかりになりそうな感じだし、ちょっと探検してみようかな」


 皆には悪いが、自分にとっては、鬼ごっこよりもこっちの方が大切なのだ。


「えっと……あ、扉がある」


 取り敢えず、周りを見回すと、少し先に行き止まりがあり、そこには外に出る為のドアがあった。明はすぐさまドアを開け、外に出た。


「うわぁ、すごい」


 ドアを抜けた先は、辺り一面、自分と同じくらいの背丈の彼岸花が咲いている丘だった。まだ、昼過ぎなのに、夕陽が丘を照らし、何とも言い難い雰囲気がある。


「そういえば、裸足だった」


 このまま歩けば、きっとあの裏山を登った時と同じ事になるだろう。それだけは避けたかった。

 明は何か履ける物は無いかと辺りを見ると、サンダルがドアの前に置いてある事に気が付いた。

 誰の物か分からないが、取り敢えず借りておこう。

 履いてみると、思いのほかサイズは合っているようだった。少しぶかぶかしているが……。


「よし、出発っ!」


 景気良く、掛け声を上げ、彼岸花の中に猛進して行く。帰り道が分かる様に、ちゃんと押し倒しながら。


「ん、そういえば、彼岸花って毒があるんだっけ」


 こんなあまり関係無い事を考える程に暇だった。小一時間走っているが、動物一匹どころか、虫さえも見ていない。まるで、この場所には生きている者は自分しかいないかのように。


「ん? あれ何だろう」


 走るのにも飽きた頃、一際高い、花の生えていない丘に立つ、モニュメントのような物が目に入った。明は、好奇心に身を任せ、その丘へと向かう。


「これってもしかしなくてもお墓?」


 丘を登ると、そこには墓標があった。名前も刻まれているが、削れていて読めない。暫く明は調査をするも、断念した。


「おー、ここって彼処から結構近かったんだ」


 丘の上から下を見下ろすと、自分が押し倒して来た花達と、入り口が見えた。どうやら自分は、同んなじような所をグルグル回っているだけだったらしい。なんともやるせない気持ちになるが、また再調査の時に、こうならないよう気を付ければいいだけの話だ。


「また夜に来よう。その時はこのお墓を掘り起こしてみようかな」


 明には罰当たりな事だとか、そんな事に構ってられる程余裕は無かった。


「さて、帰ろう」


 これ以上はきっと皆を心配させるだけだ。トボトボと、迷わないようにゆっくりと入り口に向かって行った。


ーーーー


「明ぃ、明ぃ。どっかいっちゃやだよぅ」


 壁に四苦八苦するも、なんとか入る時と同じ方法で脱出出来る事ということを、見つけるのに成功し、ホールに戻ると、イノシシの様に突進して来た雪に泣き付かれてしまった。やはり、心配を掛けてしまったようだ。


「あはは、ごめんね、お姉ちゃん」

「笑い事じゃないもん! 心配したんだもん!」


 よしよしと、頭を撫でてあやすと、疲れていたようで、寝息を立てて眠ってしまった。


「全く、何処行ってたんだよ」

「いや、ちょっと、ね」


 優人も心配してくれたようだ。なんだか心がホッコリとする。


「さぁ、皆さん! 優勝者が帰って来たぞ!」


 佳亮が宣言すると、皆、明に向かって拍手を送った。明自身、ちゃんと参加していなかった為、なんとなく罪悪感が湧いてくるが。


「皆! 迷惑掛けたお詫びにお菓子は皆の分を作るよ」


せめてこれぐらいはしなければダメだろう。

開始の時と同じく、少女達は、明の言葉に歓喜に震えた。


ーーーー


 深夜、明は倉庫からスコップを持ち出して、夕陽の照らすあの丘へと登った。


「よし、じゃあ始めようか」


 喝を入れ、スコップに力を込めて地面に突き刺す。


「よいせっ!」


ザクッ


「ほいせっ!」


ザクッ


「どっこいしょっと!」


年寄りくさい言葉を吐きながら、墓をどんどん掘って行く。


「とぉりゃーっ!」


 カキンッと金属質の物質に当たった音が鳴り響いた。そこを中心に掘り進めて行くと、本で見たことのある、タイムカプセルがあった。それを持ち上げて、土を払って、開けてみる。


「あれ……? これって、あれだよね」


 箱の中入っていたのは、優人が初めて自分にくれた、短刀が入っていた。見間違うはずも無い。なにせ、その短刀の柄には、自分の名前が刻まれているのだから。


「無くしてたと思ったら、こんな所にあったんだ。あはは、もう、全部、思い、出した、よ」


 短刀を見た瞬間、全ての記憶が蘇った。

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