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第一章「大きな狐の仮面裏は小さな光に堕ちる。」

高校生の春。そう俺は、今年から高校生として春を迎える。高校生になるという期待と不安がおり混ざる中、学校への道を進む。

学校にたどり着くには大きな坂を登らなければならない。自転車で登るのに少し勇気がいる角度の坂が、長く続く。

これから5日間はこの坂を登らないと行けないと思うと気が重い。

坂を登りきって、しばらくまた歩くと学校が見えてきた。

多くの学生が行き交っている。友達と楽しく歩く学生、緊張した面持ちの学生。

自分と同じ学校の制服を着ている。そう思うと「高校生になったんだ」と改めて実感させられる。

学校につき、下駄箱前に表示されたクラス表を見る。

吉烏頭凱斗ようすかいとっと・・・五組の三十五番ね・・・」

自分の場所を確認して、教室に向かう。

この学校、松ヶまつがまえ高校は元女子校だけあって学校内はとても綺麗だ。

もうすぐ創立100年とか聞いたけど、古さを感じない。

「うおっ、もう沢山いるし」

教室の扉についている小さい窓から中を覗いてみる。既に、半分以上はいた。

「ここで悩んでいてもしょうがないよな・・・」

教室の前の扉から入るには気が引けたので、あえて後ろから入る。あまり見立たないように自分の番号が書いてある席に座る。一度落ち着いてから、周りを見回す。

「よぉっ!凱斗!」

不意に後ろから肩を叩かれた。

「ん?あ、彰?」

「おぉ、覚えていてくれていたか!中学一年以来だな!」

関口彰せきぐちあきら。中学一年の時にクラスメイトだった。中学二年からは、クラス編成されて変わったから、それ以来だ。

「いやぁ、知っているやついてくれてよかったよ!ほら、俺らの学校からこの高校来てるやつ少ないからさ」

「そういえば、三、四人だったよな。詳しくは知らないけど」

「そうそう。よろしくな、妖怪くん!」

「ちょ、そのあだ名はやめろって!!」

そのあだ名は、中学までだと思っていたのに・・・!

中学の時、苗字と名前の頭文字をとって、もじったりしてあだ名を作るのが流行っていた。「吉烏頭凱斗」の両頭文字2文字ずつを取ると・・・以下略。

「まぁまぁ、そう落ち込むなって。新しい友達に親しみやすくなるだろ?」

「ならねぇよ」

「よーし!さっそく、男子友達増やしてこーぜ。男子少ねぇからな!」

相変わらず元気なやつだ。こいつがいれば、誰とでも仲良くなれる気がするよ。

先ほども言ったが、元女子校のこの高校は男子共学になってからは、まだ3年しかたっていない。そのため、世間にはまだ女子校の印象がるのか。それともこの高校の第一印象である「芸術的」というところに惹かれてか。女子と男子の割合が約3対1。クラスには40人中11人しか男子がいない。

教室を見回しても、本当に女子ばかり。一見、男子にとっては嬉しいかもしれないが、これだけいると圧巻させられる。ハーレムなんてよく言ったもんだ。

「おーう!初めまして、俺、関口彰って言うんだ。よろしくな!」

入ってきた男子に威勢良くあいさつをしにいく彰。俺も彰に紹介されながら、すべての男子の顔は覚えていった。

そのうちチャイムが鳴って、皆、席に座る。

ガラガラと教室の前の扉が開くと、体格のいい男の先生が現れた。

「はいはい、全員揃っているか?えー、俺がこのクラス担当の熊谷虎龍くまがいこりゅうだ。よろしく」

なんて名前だ・・・「熊」に「虎」に「龍」だと?これで頑固なおじさんとかだったら怖いが、見た目若そうだしスポーツ選手のようなシュッとした体格をしている。

名前の割に優しいのかもしれない。

「じゃぁ、適当に廊下に並んで。体育館に移動して入学式な」


入学式は順調に終わり、クラスの顔合わせも何事もなく進んだ。

残念なことに彰のおかげで俺のあだ名が「妖怪くん」になったのは言うまでもない。先行き不安だ。

「はぁ・・・」

すごく疲れた。あだ名の驚くべき浸透力に呆れていた。男子は愚か、女子にまでうっすら浸透してしまっている。最悪だ。

机に突っ伏していたところに、声をかけられる。

「よっ、凱斗。大丈夫か?」

「お前のおかげで、死にそうだよ」

「ははは、ごめんって。そうだ、一緒に帰らないか?」

全然気持ちこもってないし。少しは自覚を持って欲しいものだ。

「でもお前は自転車だろ?」

「おう、そうだ。あれ?お前は違うの?」

「うん・・・俺の家は割と近いから、徒歩だ」

「そっかぁ、今考えるとお前とは帰り道違うからな」

そう言うと、うーんと唸り出す。俺は相変らず、突っ伏している。

「なぁ、それよりよ。このクラスの女子どうだ?」

突然、耳元で小さく彰の声がした。

「は?」

顔を上げて彰を見ると、目を輝かせながら教室にまだ残っている女子を見回していた。

「松ヶ前高校は美人が多いって聞いたけど、本当に可愛い子ばかりだよな・・・!」

「あ、あぁ。まぁ、確かに・・・」

楽しげな顔を俺に近づけて、興奮した面持ちで話しかけてくる。

「なぁ、誰がいい?見た目の判断でさ」

「誰がいいって、お前なぁ・・・」

確かに可愛い子は多い。だけど見た目の判断だけで、決められるものか。

女子は裏で何を考えているかわからない生き物だからな。恐ろしい限りだ。

しかしながら、男子は見た目で釣られてしまうわけ。なんと単純な生き物。

「俺はね、やっぱり伊那瀬さんかな。少し控えめな感じだけど、そこがまたいいよな!」

「伊那瀬さん?どこの席?」

「いやでも松村さんも・・・ん?お前知らないのか?」

「いやまだ一日目だぞ。29人もいる女子を一日で覚えられるお前がすごいよ」

「そうか?・・・ほら、窓側の一番後ろの席だよ」

俺の席は廊下側の一番後ろ。ということは、左の端・・・。

「あの子か」

彼女は荷物をまとめている途中だった。

「あっ・・・」

無表情の顔がこちらに向けられた。目が合う。特に表情の変化もなく、彼女は顔を元に戻すと鞄を持って教室から出て行ってしまった。

「どうした。一目惚れしたか?」

「し、してない!」

確かに容姿端麗という感じで、長い黒髪が印象的だった。

「顔はいいけど、なかなか話をするタイプじゃないのが勿体ないなぁ。自己紹介の時も暗かったし、さっき女子と喋っている時も無理してる感じだったな~。」

「ふーん・・・」

・・・どこか、寂しい雰囲気が漂っているもんなぁ。

「明るいのがいいなら、松村さんだな。ほら、あそこの」

彰が指をさしたのは、教室扉近くで沢山の女子と喋っている子だった。見た目からしても明るそうな顔で、終始笑顔だった。

「おっと。今日は早く家に帰らなきゃいけないんだった。じゃぁな!」

彰は足早に教室を去っていった。

「俺も帰るかぁ・・・」

教室をでて、なんとなく他のクラスを少し覗いていく。

七組まであるこの学校。そのうち七組は芸術科クラス。芸術科は普通科より通常授業が少ない代わりに、美術や工芸といった創作分野の授業が多い。

六組は階段とは反対方向だから見れなかったが、四組から一組までをざっと覗いていった。

まだ残って話をしている学生が多いクラスもあれば、全員が既に帰っているクラスもあった。

校舎の左端と右端に位置する階段。左端の階段が教室から一番近いが、下駄箱までは一番遠い。まぁ、右端の階段から降りても、左端の階段から降りても、四階の廊下を歩くか一階の廊下を歩くかという違いだけど。

ただ一階の三年生の教室が並ぶ廊下を歩いて行くより、四階のほうが気が楽なのだ。

学校から出て、一人帰り道。

この高校は山奥というほど奥ではないが、高い位置にあるため、学校前の急な坂以外にもたくさん坂がある。往復するだけでも十分な運動になるくらいだった。

季節は春。道をなぞるように、桜並木が広がる。

「あれ?」

気づくと前の方に長い黒髪の子が歩いていた。あれは・・・。

「伊那瀬さん・・・?」

わかりやすい。さっきはよく見てなかったけど、長髪という域を少し超えている。髪の毛は足の膝あたりまで伸びているのだ。邪魔じゃないのかな。

帰り道こっちなのか・・・うーん、話かけてみようか。いやでもなぁ・・・考えるんだ、俺。

「よし!」

無難に・・・ってあれ?

「いない・・・」

視界にはもう伊那瀬さんはいなかった。

角を曲がったのか?それとも、無意識に随分と長く考えていたのか・・・?

やばいなぁ。こんなんじゃ、女子の多い学校で生きていけない気がする。

「いっか。どうせ、明日もあるし」

その日はなにもなく過ぎていった・・・と言いたいところだが、気になったことが一つあった。

十時だったか、十一時だったか時間はよく覚えてないけど、その日の夜。ふいに、授業ノートを用意してないことに気づき、近場のコンビニに向かった。

「おぉ、満月」

黒く染まる空には、白く神々しく月が地を照らしていた。本当に神々しいほどに。

こんなに月の光を感じるのは初めてだった。

そうやって、空を眺めていると何かが視界に入った。

誰の家か知らない一軒家の屋根の上。誰かがいた。いや、誰かではないかもしれない。

暗くて見えづらいところがあるが、所々「人間らしくない」箇所はよく見えた。

長い耳と尻尾。狐のような毛並みの。

―――人間の形をした狐のようだった。

瞬間、目があった気がした。黄金色に染まった二つの目は、俺を威嚇しているようだった。

目を疑い、何度も瞬きをする。脳が間違えて、俺の目に見せているのかもしれない。

「ん・・・?」

屋根の上には、もう姿はなかった。

「気のせいだったのかな」

それ以上、何も見ることはなかった。再び目をゆっくり閉じて、開いてみても現れはしなかった。

入学式で学校初日だったし疲れていたのかも、と自分で解釈して、その日はぐっすり眠った。


二日目。

今日から授業が始まる。といっても、多分最初は説明みたいのを受けたりして、本格的にやりはしないんだろう。

六時間あるうち、二時間は委員会やら係の役割決めだし。

「うわ、指定のノートとかあったっけなぁ」

高校生生活、気合の空振りをしてしまった。授業初日から完璧という計画が。

一応、これまでの学校生活は真面目に取り組んだ方なのだ。これといって目立つほど成績は良くないが、悪くもない。

部活は小学校の頃はサッカー部をやっていたが、中学では一年でサッカー部をやめ帰宅部だった。なんでやめたの?とよく聞かれたが、なんとなくとしか答えられなかった。それほど、サッカーが好きだったわけでもないから。

しっかりしているところもあれば、スロースターターという欠点もある。やることをはじめるのが少しとろいというか。つまりあれだ、非常にマイペースな性格なのだと自負している。

学校登校途中、昨日の家を見てみた。登校時のルートにあったので、確認がてら。

「い、な、せ?」

ネームプレートを見てみると、ローマ字で確かに「INASE」と書いてあった。

「・・・まさか」

あの伊那瀬さんの家か?

「いやでも違う可能性もあるし・・・」

なにしろローマ字表記だ。もしかしたら、別の「いなせ」かもしれない。

でも昨日は帰宅ルートが同じだった。

「ま、いっか」

どうせ今日も帰宅は同じだろう。ついていくのはストーカーみたいで嫌な気持ちになるが、伊那瀬さんの家なら何か聞けるかもしれない。昨日のこと。

「あー、もう!いいんだ、あれは!夢だ、夢!」

無駄な詮索をしても意味がない。


まだ学校の雰囲気はなれなかった。教室に入るときに、まだいちいち緊張してしまう。自分の席につき、周りを見渡す。もうクラスの大半は来ていた。

「よっ、妖・怪・くん」

妙にゆっくりと聞きたくないあだ名を聞く。

「彰、だからやめろって・・・」

「ふふ、もう男子の奴らには教えこんどいたぜ。由来もちゃんとな」

「しなくていい」

昨日もらった教科書などを机に入れながら、適当に受け流す。聞かなくても、彰ならやるだろうと既に悟っていたからだ。

「今日の昼休みさ、外で食おうぜ」

「なんで?」

「お前、あまりまだ男子の奴らと話していないだろ?男子は少ないんだからさ、一気に仲良くなろう!という意味を込めて。お前今日弁当だよな?」

「あぁ、まだ購買を使う勇気はないからね。いいよ」

確かに男子仲良くやらねば、やっていけないよな。

「よし。お、先生来た。じゃっ」

先生の出欠確認と同時に朝のホームルームが始まる。

「伊那瀬、は休みか?」

え、休み?と伊那瀬さんの席を見る。そこには机と椅子があるだけだった。

「後で連絡とってみるか・・・よーし、今日の予定を言うぞ~」

先生が今日の予定をざっと話し、朝のホームルームが終わる。

「ん、伊那瀬さんいないんだな。やっぱ、病弱タイプか?綺麗なのに勿体ないよな・・・」

いつの間にか彰が俺の前にいた。

「でもお前は、松村さんがいいんだろ?」

「あぁ。今日も元気そうで眩しいぜ・・・!」

「はいはい。そろそろ、授業始まるぞ」

そういって軽く追い払い、授業の準備をする。

にしても、休みか。また明日でもいいか。

それから授業は軽く終わり、昼休み。男子全員で外に行く。

この学校には、土のグラウンドの周りに芝生が広がっており、そこには木でできている六人分の机と椅子がある。そこで、ぎこちなかった関係も割と緩和されて、気軽な持ち前になった。


放課後。帰りのホームルームの時。

「吉烏頭。ホームルームが終わったら、先生とちょっと来てくれるか?ついでにプリントを運ぶの手伝ってくれるか」

「あ、はい」

なんで俺なのかと思ったが、プリント運びを手伝ったあと、その疑問は晴れる。

「お前、伊那瀬霙ってわかるか?」

「えぇ、まぁ。同じクラスですし」

「家に連絡しても誰も出ないんだ。今日ホームルームで配ったプリントあるだろ?あれ今日中だし、大事なプリントなんだ。届けてくれないか?」

「え、でもなんで俺なんですか?伊那瀬さんの家も知らないし」

「あれ、知らないんだ。近いからてっきり知ってるかと」

もしかしてあの家のことかな。と昨日の家を思い浮かべる。

「まぁいいや。近いといってもご近所付き合いってほどの近さでもないからな。今、地図書くから安心しろ」

「は、はぁ・・・わかりました」

そう言って、地図とプリントを預かり、学校を出た。

「えーっと・・・この角を曲がって・・・やっぱりここか」

着いた場所は紛れもなく昨日の夜、そして今日の朝に見たあの家だった。

「やっぱ、この家だったのか・・・」

誰もいないって言っていたし、ポストに入れておけば良かったのだが、一応インターホンを押してみた。

数秒、間が空いた後、ドアが開いた。

「どちら様・・・?」

長い黒髪とドアに掛けた手だけが見える。

「あ、あの、伊那瀬さんのお宅です・・・よね」

わかっていながら聞いてしまう。あまり、こういうには慣れていないのだ。

「‥‥‥‥はい」

かえってきたのは、ギリギリ聞こえる範囲の声だった。

「え、えーっと・・・あの、五組の吉烏頭だけど。学校のプリント渡しにきたんだけど・・・」

まだ男子の家ならまだしも、女子の家だし、あの伊那瀬さんを相手に喋っているからかオドオドしてしまう。若干、俺には女性恐怖症的なものがあるかもしれないと思うくらいだった。

「吉烏頭…凱斗君、だっけ」

「あ、そう!吉烏頭凱斗!名前覚えてくれているんだ」

驚いた。正直、名前を言ってもわからないかと思ったが下の名前までちゃんと知っているとは。

すると、ドアが完全に開き、彼女の全身が見える。姿が制服だったのが、不思議に思えたが、目があった瞬間に頭が真っ白になっていた。

よく目が合ってしまうなぁ・・・、顔を伏せる。

「え、えーっと。あ、そうそう。プリント。はい」

なんだかカタコトのようになってしまった。

「・・・ありがとう」

そう言って、素っ気なくドアを閉めようとする伊那瀬さんに

「ちょっ、ちょっと待って!」

と慌てて止める俺。

最悪だ、まだ何か考えてなかったのに思わず口から出てしまった・・・!どうする!?直球で聞くか!?いやまてよ。

「・・・なに?」

相変わらず無表情の伊那瀬さんを見て、さらに頭が真っ白になっていく。

「あ、あの。伊那瀬さんって・・・犬とか猫とか・・・その、ペット飼っていたりする?」

うわぁー!なんだ、この質問!いきなり聞いたりしたら不審がられるだろ!

なんとか笑顔を作りながら、無表情の伊那瀬さんに問いかける。

「・・・犬かな。犬なら飼ってる」

「へ、へぇ、い、犬ね。そっか」

あれは犬だったというわけかな。うん、そうしよう。

「あなたは?」

「へ?」

「ペット飼ってるの?」

「あ、えと、そう!俺も犬を飼ってるんだ。で、でかいやつがいてさ。はは、は・・・」

咄嗟に嘘をついてしまった。犬なんて飼ってないけど、ここはこう言った方がいい気がしたんだ。話を続けるためだ。しょうがない。

「犬、好き?」

「え?あ、うん」

「じゃぁ、変なこと聞くけど。狐だったら?」

「狐?」

なぜ、狐が出たのかわからなかったけど聞いたからには、好きなのかな。

「そうだなぁ、たぶん好きかな」

「私は嫌い」

あっさり答えられ、しばらく静寂が生まれる。

「あれ?」

つい、声が出てしまった。しかし、俺の反応を無視して彼女は続ける。

「化けて人を騙して嘘をつく。嫌でしょ?」

無表情だった彼女の顔は、どこか寂しそうな顔をしていた。あのときの顔だ。初めて目があったときもこんな顔をしていた。

俺は、ただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。


次の日、伊那瀬さんは学校に来ていた。

相変わらずの雰囲気で、周囲にあまり溶け込んでいるようではなかった。

噂に聞くと、ああいうクールな女子好きの男子には人気があるそうだ。性格はともかく、顔立ちはいいからなぁ。

「でもクールという感じじゃなさそうだけどなぁ・・・」

どちらかというと、無理をしている感じがある。

クールというと、よく言えば自己を大切にしている人だろう。悪く言えば、自分優先というか。

話をあえて避けているというのだろうか。

だけど、彼女は話に参加する時もたまにあるが、明らかに「他人と話すのが苦手」のように見えた。

「うーん・・・よくわからないな」

みんなが言うように、あえて突き放しているのかもしれないし。冷血な性格っていうこともある。彼女は全く寂しそうな顔色は見せてない。いつも無表情で、これが当たり前という顔をしている。

矛盾している。俺が見た顔はなんだったんだろう。詮索しすぎかな。


放課後。

気づけば、授業中はずっと伊那瀬さんのことを考えていた。客観的に聞くと、恋をしているような文章だがそれとは違う。

どこか、引っかかる。勘というか、何かが彼女の存在を不思議に思っている。

これが恋・・・?・・・乙女かよ。

もやもやしながら帰る支度をしていると、目の前に誰かがいた。

「吉烏頭君・・・だよね」

「え?あ、伊那瀬さん?」

そこにいたのは、帰る支度を終えた伊那瀬さんだった。

「昨日はありがと。あの、吉烏頭君って帰り道一緒なんだよね」

半ば、強制的に話が続く。

「あぁ、うん。そう。伊那瀬さんの家の前を通るね」

「一緒に帰らない?」

「え?」

声を裏返らせながら、事態を飲み込もうとする。

帰り道が一緒なら、一緒に帰るっていうのはいいけど・・・まさか伊那瀬さんから誘いが来るとは。

これは昨日のを挽回できるチャンス!今度こそちゃんと聞こう。

「いいよ。伊那瀬さんが良ければ」

少し照れながら、返事をする。

「じゃぁ、帰ろ」

伊那瀬さんは単調に返す。もしかしたら、本当にクールなのかもしれない・・・。

彼女の返事の呆気なさに、ただただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。


学校を出て、帰り道。伊那瀬さんから話をふってくる。

「吉烏頭君って変な名前だね」

唐突な質問にたじろいでしまう。

「そ、そう、だよね!カラスの頭だもんね・・・」

「あ、ごめんなさい。別に馬鹿にしたわけじゃないから。面白いなと思って」

「いや大丈夫だよ。よく言われるし。この名前のおかげであだ名まで変だしね」

「あだ名?」

伊那瀬さんの耳には伝わってないのか。少し安心した。

「い、いや、いいよ!知らなくていいから」

「なんていうの?」

冷静な目で、こちらを眺めてくる。

「知らなくていっ」

「・・・なに?」

俺の言葉を瞬時に遮って、質問を押し切ってくる。

「・・・妖怪くん」

負けてしまった。これだけ見られるとなんだか照れてしまう。

「ふーん。なんで?」

「苗字と名前の頭文字をとって、ようかい」

「へぇ」

あまり興味がなさそうだった。視線を前に向きなおす。

「そうだ。伊那瀬さんに聞きたかったことがあるんだけど」

今度こそ、ちゃんと聞いてみるぞ。

「この前、夜に伊那瀬さんの家を通ったんだけど。屋根の上に変なものが見えたんだ。その・・・狐、みたいな」

そう言った瞬間、伊那瀬さんの顔が少し動いたような気がした。

「・・・そう」

「あ、なんか変な話だよね、ごめん。でも気になってさ。ちょっと変わった人みたいな狐でさ。幽霊でも見えるようになったのかな、ははは」

「確認してみる?」

髪をかきあげ、淡々と返答する伊那瀬さんに違和感を覚える。

なんだろうな、この感覚。

「今日の夜に私の家に来てみてよ。私も見てみたい」

「え、いやでもすぐに消えちゃったし、見間違いかも…」

「でも気になるんでしょ?」

気づけばもう、伊那瀬さんの家の前まで来ていた。

「ふふ、冗談。入学式の日だったから疲れていたんじゃない?」

「そ、そうだよね」

「今日はありがと。また明日学校で」

そう言って、伊那瀬さんは早々と家に帰っていった。

「…あれ?」

入学式の日って言ったかな、俺。


その夜、どうしても気になって外に出た。まっすぐ伊那瀬さんの家に向かう。今日も満月だ。

伊那瀬さんの家近くなってから、足取りをゆっくりにする。

高校生ってこの時間に出歩いていいのかな。もうそろそろ夜の十二時だけど。

なるべく人に会わないようにと、あたりを確認しながら進む。

「ここだ」

伊那瀬さんの家の前に来た。恐る恐る屋根の上を見ると、あの姿はなかった。

「・・・・・・よかった」

もし、いた事になっていたら本当に幽霊が見えるようになったのではないかと心配だった。

漫画やアニメの世界じゃあるまいし。少し残念な感じもするけど。

「いた?」

「うわぁ!」

突然、横のほうから声がした。

「・・・伊那瀬さん!?」

少し距離をとって誰かがいる。顔がよく見えなかったが、声を聞く限り伊那瀬さんだろう。

「見えた?」

「いなかった。いやぁ、いなくてよかったよ」

「・・・そっか」

「伊那瀬さん?」

気配がなくなった。もう家に戻ったのかな。

「あっ」

屋根の上に現れていた。あの姿がはっきり見えた。耳は少し変わっているけど、狐のような尻尾。しかし、体つきは人のようで。

「黒髪?」

あの時はよく見えてなかったが、ちょうど良く月の明かりが屋根の上を照らしていた。

そしてまた目があった。あの黄金色の目。

「見えた?」

狐の口が動く。みえた、と。

直後、背後に違和感を覚える。誰かがいる。同時に体に何かが「貫いた」感覚が襲う。

慌てて体を見てみると、日本刀らしきものが体を貫いていた。

「君、妖でしょう?」

振り向いてみると、屋根の上で見たものがそこにいた。

格好は巫女のような白と赤の生地に黒い線が入っている着物。顔にはよく見る狐の仮面をしていた。

「人間にうまく化けているの?それともそういう妖なの?とり憑かれて訳じゃなさそうだけど・・・」

「伊那瀬さん?」

声が少し高くなっていて一瞬疑ったが、長い黒髪が健在だ。無駄に長いこの黒髪は明らかに伊那瀬さんの髪だ。無駄にというのは失礼だけど。

「一回じゃ死なないか。鈍い割にしぶといのね」

いつの間にか、体から抜けていた刀を再び俺の体に突き刺す。

「えっと・・・なんにも痛くないんだけど」

体を明らかに貫いているのに、痛みを全く感じない。「貫かれている」という感覚はあるのだが。

「…どうして!?」

「ねぇ、伊那瀬さんだよね?」

「だ、誰だ、それは。私は伊那瀬霙などではない」

うーん・・・どこか抜けているところが伊那瀬さんにはあるのかもしれない。帰り道での話でも、うっかり口を滑らせていたし。

入学式の日に見た、なんて一言も言ってないからね。

「霙までは言ってないと思うけど、なんで知っているのかな」

「うっ・・・」

わかりやすく動揺している。

「じゃ、じゃぁ仮にそうだとしよう。だがどこに根拠がある」

どこか矛盾している気がするけど、要はなぜわかったかということか。

「声も同じだし、その長い黒髪とか」

「え、えーっと、じゃ、じゃぁ・・・」

動揺しすぎだろう・・・確かに秘密を知られたりしたらこうなるのかな。

「あ、あの!別に誰にも言わないから!その、趣味は誰でも持ってるしさ!俺だってあるし」

「趣味?」

多分あれだ。コスプレとかそういう類だろう。普段はあんなにおとなしいのに、趣味がこれだと知られたら誰でも驚くだろう。伊那瀬さんも知られたく無い訳だよね。だから夜に・・・。

「趣味・・・趣味ね・・・ははっ」

くすくす笑う伊那瀬さん。あれ俺、変なこと言ったかな。

「俺は全然大丈夫だよ。伊那瀬さんは元が良いんだし、どんな格好でも可愛い・・・あ、いや違う!えっと・・・」

「そっか、趣味か。でも、これ」

伊那瀬さんの顔がいつもより朗らかになっている。どこか口調も変わっているし、本来の伊那瀬さんを見ているようだった。

伊那瀬さんが指差した場所は、突き刺さった刀。

「これ。君の体を貫いているよね?」

「そうだね。痛くもなんともないけど」

「君が人間だからだよ」

「え?」

伊那瀬さんは、ゆっくりと俺の体から刀を抜く。

そして、その刀は雪のような白い光に包まれて消えた。

「この耳、触ってみる?」

そう言って、頭をこちらに傾ける。

「え、いいの?」

「どうぞ。」

触ってみると毛触りがやけにリアルで、温度も感じるし、少しピクピク動いている。

「本物・・・!?」

耳の裏とかもしっかりして・・・。

「ひゃうっ・・・!」

「あ、ごめん!」

なんだか猫を撫でているようで気持ちよくて、つい触りすぎてしまった。

「妖伝って知ってる?」

「妖伝・・・?あぁ、昔話の?たしか、半分妖怪っていう人間の・・・まさか」

でもあれは、数百年も前の話だし、作り話じゃ・・・。

「その話。信じる?」

答えが出せなかった。

この状況で信じないとは言えない。現に証拠が目の前にあるのだから。でも、できれば信じたくないというのが本音。

「まぁ、そうだよね。こんな姿、普通見たら怖くて言葉もでないよね」

「怖くはないよ?」

「嘘」

「嘘じゃないよ。最初は確かに驚いたけど、伊那瀬さんってわかれば怖くなかった」

アニメや漫画などでよくある状況。突然、非日常に飛び込んでしまう主人公。

だけど、主人公は必ず状況を受け止められる。

なんでこんなに、心強くなるのだろうとずっと思っていたけど、今なんとなくわかった気がする。

人はどんな状況でも、信じれば強くなれるんじゃないか。

人が人である由縁は、適応できる順応性なんじゃないかって、どこかで聞いたような理論が思い浮かんだ。

「……して」

「え?」

「私を…人に戻して」

そう簡単にいく訳ないよね。全く意味がわからない。

「ど、どういうこと…?」

突然、「人に戻して」と言われても。戸惑いが隠せなかった。

気づけば仮面もなくなっていた。刀を消した時に消えたのかな。

「元々、こんな姿じゃないの。本当は、本当は!……人だった」

「何かきっかけがあってその姿になってしまった、とか?」

「……2年前までは普通だった」

原因を自分で理解しているのかと次の言葉を待ったが、それ以上は話さなかった。

でも明らかに語りたくはない、という顔だった。

「お願い…!人に戻してっ!」

伊那瀬さんが俺の服を掴んで訴える。

近いっ…!!

「ちょ、ちょっと待って!今まで誰かに協力を求めなかったの!?」

「あなたが初めて。みんな私を怖がったから」

俯きながら答える伊那瀬さん。感情と連動しているのか、耳も尻尾も垂れている。

「あぁ、そっか…なるほど」

だから学校でも暗く、人を避けていたのか。それでも話しかけていたのは、助けてくれる人を探していたのだろうか。

「私だってわかっても、こんな姿になったらただの化物。それでも君は怖くないの?」

「そりゃぁ、まぁ。いきなり知っている人がそんな姿になったら、怖いけど」

「・・・けど?」

怖いけど、どうしてだろう。それは自分でも疑問だった。

正義のヒーローを気取っているつもりか。どこかでこういう状況あったらなって望んでいたのか。

伊那瀬さん・・・だからとか。

どれも当てはまらない。だとすると単純な答えがひとつあった。

「多分、興味を持ったからだと思う」

伊那瀬さんが顔をあげる。

「興味?」

俺は今、伊那瀬さんに興味を持った。好奇心に似た感情は、好きというものとは違うものであって。

屋根の上でみた姿は騒然と恐怖だった。しかし、その直後その姿を「綺麗」と感じたのだ。

月に輝く人の形をした狐が、綺麗だったのだ。

偏見なのかもしれない。ただ、狐の姿をした彼女は、俺の好奇心をくすぶった。

「んー、なんていうのかな。俺は単純に興味が湧いたんだよね。その姿に」

「そ、そうなの・・・?」

耳と尻尾が動く。伊那瀬さんはなんだか考え込んでいた。

そして突然、俺の前から少し離れた。

「そ、それって、その、す、好きとかそういう・・・!?」

「ち、違う、違う!いや、嫌いでもないけど!えっと・・・」

確かに伊那瀬さんは可愛いけど。

「そ、そっか。よかった」

伊那瀬さんが小さく呟いた。ふぅっと息を吐く。

よかった・・・って言った?あれ、俺嫌われているのか・・・?

「人に戻れる方法とかはわかっているの?」

「協力してくれるの?」

「ここまできたら断ることはできないでしょ」

妖伝とやらは、作り話だと馬鹿にしていたけど。本物が目の前にいるなら、本当の話だと信じる他ない。もし本当の話なら興味がある。歴史を紐解くようで楽しそうだ。

「人に戻る方法に確証はないけど…希望はあると思う」

「どんな方法なの?」

「妖をすべて倒す・・・浄化すること。成仏させるって言ったほうがわかりやすいかな」

「すべて!?それって…どれくらいなの?」

すると彼女は指を折って数え始めた。それは一つにつき一体の値なの?それとも十体?

「軽く日本の人口くらいはいるかも」

一つ千万体あたりの値だったらしい。

「それは、気の遠くなる話だね…」

「でもその方法が、本当かどうかはわからない」

「そっか…そうだ!他にも同じような人っていないの?特異人間、だっけ」

その質問をした瞬間、伊那瀬さんは顔をしかめた。幾度か口を開いては口を閉じた。

「いると思う……けど、探したこともないし、会いたくない」

最後の言葉は少し力がこもっていた。

「どうして…?」

聞くのをためらった方が良かったのか。それは全く考えないで、そのまま口に出した。

「……同じ特異人間だとしても、所詮は妖の類。もし、人に戻る方法がさっきのであっていたとしたら……狙われる」

それってつまり、特異人間が人に戻るのは不可能って言っているのと同じじゃないのか?

すべての妖を浄化するなら、すべての特異人間も浄化させなければならないということじゃないか。

それを知っていて、なお伊那瀬さんは希望があると言ったのは、すべての妖を浄化するという方法はあまり信じていない…と言う事なのかもしれない。

「いや、そうとは限らないんじゃないかな」

「どうして?」

「人に戻りたいなら、同じ特異人間同士気持ちは痛いほどわかると思う。それを確証のない方法のためだけに争うとは思えない」

「でも…怖い」

伊那瀬さんは本気で怖がっているようだった。まるで過去にトラウマがあるような感じだった。目は虚ろで、体は少し震えていた。

「そっか…」

やっぱり聞いちゃいけなかったか。ここで、ませたセリフを言えればかっこいいんだろうか。逆に気持ち悪いんだろうか。こんな事で支えられないのが情けない。

「俺にできる事は少ないかもしれないけど…何でも言ってよ」

しばらく間を置いて、彼女は顔をあげて俺に近づいた。

「ありがとう」

それは、彼女が心から言った言葉だと感じた。伊那瀬さん笑顔を初めて見た。

「そういえば、なんで俺を妖と勘違いしたの?」

俺に刀を突き刺した後。確か、伊那瀬さんは俺を妖だと言っていた。

「それはっ…」

言いにくそうな感じだったので、「別に気にしないよ?」となんとなく言ってみた。

「入学式の時に見たでしょ?それで次の日には、私の家の前にいたし、プリントを渡しに来てくれたし…」

成る程、しつこかったわけか。普通なら忘れるとか、それこそ避けたりするはずなのに。俺が妙に興味を持ったから…ということか。

「それに、あんな暗い時に耳と尻尾をはっきりと見えるなんて思わなかったから…」

「俺、夜でもよく見える目なんだよね」

正直言うと、あれは月の光もあったからなのだけど。

「鳥目じゃないんだ。カラスのくせに」

「よく言われるよ。…って、カラスのくせにってのは酷くない?伊那瀬さん…」

一種の持ちネタみたいなものなんだが、カラスのくせにと強く言われたのは初めてだ。自分で言わせておきながら少し傷ついた。

ちなみに夜でもよく見えるというのは冗談。至って普通の目だ。

「……霙でいい」

「流石にいきなり名前は恥ずかしいから、伊那瀬でいい?」

「あっ、そうだね。私、男子の友達なんていなかったから…」

「女子校だったとか?」

「一年だけ。松ヶ前高校も女子校だとおもったんだけど…何時の間にか共学になってた」

やっぱり、伊那瀬は少し抜けているところがあるようだ。天然っていうほどではないようだけど。

「そうだ、もう一つ聞こうとしたことがあったんだ」

「なに?」

「その姿になるのは、いつなの?」

「それが…わからないの」

「え…夜だけってわけじゃないの?」

伊那瀬はうんと頷くと、耳を触りながら話し始める。

てっきり夜限定かと思った。妖怪って夜に出てくるものじゃないの?

「殆ど夜になることが多いけど、時間はバラバラ。一度だけ昼に変わったことがある」

「それ…どうしたの?」

「学校行ってなかったし…大丈夫だった」

あぁ、そうか。だから今日学校休んでいたのか。ということは、ずっと休むつもりだったのかな。

「でも妖が出るのは夜だけ。特異人間は半分人だから、夜じゃなくても活動できるの」

「成る程…でも任意で変わるわけではないんだ」

「うん」

それは厄介そうだ。協力すると言った以上知っているのは俺しかいないわけだし、もし公の場で変わってしまった時はフォローしてやらないと。

「そうだ。猫の鳴き真似してみて」

「…え?」

「にゃあって言ってみてくれない?」

「な、な、な、なんで!?」

伊那瀬は完全に困っている様子だが、俺はあくまで真剣だ。

「いいから、いいから」

伊那瀬の顔は真っ赤になっていた。別に、ただ一言適当に「にゃあ」と言ってくれればいいんだけど。

あくまで真剣な顔をしている俺に負けたのか、伊那瀬は意を決した面立ちで息を大きく吸った。

「にゃ、にゃあ」

「うん。やっぱごまかせそう。猫耳とかって言えば」

「………にゃぁ……」

伊那瀬は呆れた感じで、再び鳴いていた。

「ちょっとリアルなのは…大丈夫だと、思う。……あれ、伊那瀬どうしたの?」

気づくと伊那瀬が目の前まで近づいて、肩を震わせながら拳を作っていた。

「っ~~~!!なんでもないっ!」

何度か軽く俺を叩いてくる。

「ご、ごめん!違うんだ!これなら、学校行っても俺がなんとかごまかせるかなって…だから、学校行こうよ。ほら、その妖を浄化する作戦とかも考えなきゃいけないし、夜だと危ないし…」

というか、変な風に勘違いされかねない。

叩くのをやめ、背を向けて歩きだした伊那瀬。

家の扉の前で止まる。

「じゃあ…また明日ね」

背を向けたままそう言うと、家の中に入って行った。

「うん…また明日」

その日は深く染まった夜空で、綺麗な輪郭を描いた満月がよく映えた。

そういえば、伊那瀬は屋根の上にいたけど、この月を見ていたのかもしれない。

彼女はこの月によく似合う。


その日の夜はよく眠れた。


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