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五番目の婚約者  作者: 蜃
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宝石の正体



 それから、燭台の火を木に近づける。

 そこに、つやつやと輝く宝石のような何かがぶら下がっているのが見えた。一瞬、それが何であるかはわからなかった。

 首を傾げていると、オーレリアンがリーズに言った。


「これが、私の宝石です。蝶のさなぎですよ」


「蝶、なのですか?」


 燭台の火を受け、きらきらと輝くそれをリーズは凝視した。蝶のさなぎ自体を目にすることは少ないが、図鑑の絵などでは知っている。だが、こういうものではなく、もっと緑色をした小さいものだったような気がする。


「ええ、このアウロスにしか生息していない種で、美しいからと捕えられたり、餌となるこの木の減少でかなり少なくなっているので、こうして保護しているのです。

 この王宮の敷地は丁度彼らの生育に適しているので」


「そうだったのですか」


 リーズはいささか拍子抜けした気分で、輝くさなぎを見た。確かに、言われてみれば宝石のようにも見える。これが孵化して蝶になるのか、とリーズは黙って観察した。すると、オーレリアンが不安そうに問うてきた。


「あの、姫、平気ですか? 気持ち悪くはありませんか?」


「何がですか? こんなに綺麗なのに」


「いえ、そっちじゃなくて」


 リーズは彼が顔を引きつらせてすぐ近くの茂みを指さすのを見た。そこを見たリーズはああ、と頷いた。

 確かに、だめなひともいるだろう。

 しかし、リーズは別に平気だった。


「別に平気ですよ。もちろん、苦手なものもありますけど、蝶は好きですから。何より、オーレリアン様が保護しているというものを、気持ち悪いだなんて思いません」


 心からリーズは言った。

 すると、オーレリアンは心底ほっとしたように胸を撫で下ろした。その姿を見たリーズは、それまで自分の中にくすぶっていた、彼に対する不信感が消えていくのを感じていた。

 

「……ありがとう。そう言っていただけただけで私は凄く嬉しいです。嫌だと言った方もいましたから。

 やはり姫は心の広い方だ、巡りあえて幸せです。

 きっと、アンヌに、ベッツィー、それからクリスティーヌ、グラシアーヌ、デボラ、ロザリーたちも喜んでくれる」


 オーレリアンは心底嬉しそうな、とろけるような笑みを浮かべる。彼が並べた名前は、以前うっかり立ち聞きした時に聞いたものだ。あのときは愛人かと思ったが、どうやらこの蝶たちの名前だったらしい。

 リーズは愛人か、と勘違いした自分が馬鹿に思えたが、やっぱり彼は変わり者だとも感じた。

 その視線に気づいたのか、オーレリアンが慌てる。


「あの、やっぱり気持ち悪いですか? シルヴェールにも名前までつけるなど理解できないと言われてますし……」


「いえ、それほど大切だということでしょうから、気になりません。ただ、どうして全て女性のお名前なんですか?」


「それはですね、やはり、このさなぎが孵化する瞬間を見ていると、女性が着飾ったときのように見えてしまって、それでつい。

 でも中には女性名じゃない子もいますよ」


 愛おしそうにさなぎを見つめるオーレリアン。それを見て、リーズは、もしかしたら逃げた女性は、悔しかったのかもしれないと思った。あの眼差しが注がれるのが、自分だけではないことが。

 嫉妬してしまうほど、オーレリアンの蝶を見る目は情熱的だ。


「そうだったのですか。でも、何となくわかるような気がします。模様とか綺麗ですから、名前をつけるとしても女性名のほうがしっくりくるように思えます」


 リーズが呟くように言うと、オーレリアンははにかんだような笑みを浮かべた。笑いたいのをこらえるように、口元に手をやって視線をさまよわせている。


「こんなことがあるなんて、ちょっと困るな」


「どうかしたのですか?」


「いえ、嬉しすぎて。今まで誰にもそんなふうに言われたことがなくて、保護活動自体は理解してもらえるんですよ。でも、この子たちが好きだって思いは理解してもらえなくて」


 情けないような顔で、リーズを見るオーレリアン。そんな表情は初めて見る。リーズは思わず目を反らしてしまった。


「貴女に出会えて本当に良かった」


 しみじみと言われ、リーズは気恥ずかしくなった。

 

 そんなに喜ばれるとは思わなかったのだ。この世に、妙な趣味のひとはたくさんいる。少なくとも、リーズには気持ちが悪いとは全く感じられなかった。


「……前にも言いましたが、私は結婚自体を諦めていました。でも、父に押し切られて貴女と会うことになった。きっと、また同じことの繰り返しになると思っていたのです」


 オーレリアンは、何かを告白するように話し始めた。




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