頭のよくない王子様とその幼馴染の話
マーナは泣いていました。
聖誕祭の夜だというのに、蹲って泣いていました。
マーナがいるのは城の端の研究塔の中でも一番隅っこの部屋でしたから、窓の外からは皆の楽しそうな声が聞こえてきます。今日は聖王と呼ばれる初代国王さまの誕生日を祝うお祭りなのです。今日だけは、王さまもお妃さまもメイド長も門番もパン屋さんもお花屋さんも、マーナの家の隣のおばさんも、皆仕事はお休みして、朝から晩までどんちゃん騒ぎです。マーナもいつもならそうしていました。去年の今日は、大好きな研究も置いて、幼馴染と花火を見て、それから綺麗な青い花をもらいました。
でも、今年はできないのです。マーナには今年の聖誕祭なんてちっともおめでたくはないし、楽しくもありませんでした。
今日は第一王子さまの婚約発表の日らしいのです。
お相手は、隣の国のお姫様。正式な発表はありませんが、皆そう噂しています。そして、おめでたいことだと口々に言います。
これが第二王子さまや第一王女さまのご婚約だったなら、マーナも満面の笑顔を浮かべて、お祝いにケーキを買ったかもしれません。でも、今のマーナがケーキを買っても、感じるのはしょっぱい味に決まっていました。
(セルディの馬鹿)
マーナは真っ赤に腫れた瞼を擦りました。三か月前まで、マーナは今年も幼馴染と、そう第一王子さまと聖誕祭を過ごせるのだと信じていました。留学を名目にやってきたお姫様に、幼馴染を奪われるまでは。
セルディとマーナが知り合ったのは、二人が五歳の時でした。その頃から神童として名高かったマーナは、ある日国家研究長である父に連れられて城に上がりました。そして、セルディに引き合わされたのです。なんでも、セルディはあまり頭の出来が良くないだとか。王子様なのに、と当初は疑ったマーナでしたが、セルディの回答したテストを見てすぐさま考えを改めました。気の毒になるくらい真っ赤なテストでしたから。何とかしなければと、マーナは決心しました。
文法に算数に経済学、さらには帝王学までマーナはセルディに教えました。決して出来のいい生徒ではなかったけれど、セルディも必死に勉強しました。そして、ようやく最低と評されるラインからは抜けることができたのです。それは二人が十歳の頃でしたが、それからもマーナとセルディの関係は変わりませんでした。マーナが教え、セルディが学びます。
マーナが正式に国家研究員となってからもそれは続きました。マーナは研究が、セルディは国王になるための勉強が忙しくなったため会う機会は減りましたが、時折、国王から出された課題に悩んだセルディが助けを求めてくるのです。その度にマーナは、ため息を吐きながら助言してやります。
『いつもありがとう』
そう言ってほわほわと微笑むセルディが、マーナは好きでした。幼馴染以上の、友達以上の好きでした。聖誕祭になると、偶には休まなくちゃとマーナを連れ出し、一緒に過ごしてくれるセルディに恋をしていました。
でも、マーナもセルディも今年で二十歳になります。マーナは勿論、セルディも結婚していておかしくない年です。そして、恐れていた通りに、セルディに婚約話が持ち上がりました。相手は美姫と名高い方です。それに、姫君がやって来てからのセルディはとても楽しそうに見えました。少なくともマーナが見た限りでは。
(前は、あんなに私を頼ってきたじゃないの)
助けて下さい、と泣きそうな顔で、セルディが課題を片手に訪ねてくることはなくなりました。
マーナがさらに縮こまってしまおうとした時です。後ろの方で、ドアの開く音が聞こえました。同時に聞き覚えのある声がします。
「マーナ、そこにいるのですか?」
もう二十になるというのに情けなくも不安そうな声を出すのは、セルディその人でした。だんだんと足音が近づいてきます。悪あがきだと知っていましたが、マーナはだんまりを決め込みました。
「なんだ、いるじゃないですか。ちゃんと返事をしてくださいよ」
やはり見つかってしまいました。それでも真っ赤に腫れた目元だけは見られたくありません。マーナはなるべくいつも通りを心掛けて声を発します。
「何か用?」
「用って…。今日は聖誕祭ですよ。一緒に屋台をまわりましょう」
マーナはセルディを怒鳴りつけたくなりました。何故こんなにもいつも通りなのでしょう。マーナが必死に演じているというのに、セルディはまるで気が付く様子もありません。セルディの頭の出来は、相変わらずよろしくないようです。
「何言ってるの」
苛立ちを露わに、マーナは冷たく言いました。
「今年からは私ではなく、ルージュさまとご一緒しなさいよ」
「え、何故です?」
これだから馬鹿は嫌だとマーナは内心罵ります。これから婚約する人が何を言っているのでしょうか。この調子では、自分の言葉がマーナの心をズタズタに切り刻んでいることなど微塵も感じ取っていないことでしょう。
「マーナ、何か怒っているのですか?」
セルディが不安そうに聞きました。怒っているのではありません。悲しいのです。そのことを悟られたくないはずなのに、気付いてもらえないことが悲しみに拍車をかけます。
マーナは、ついうっかり嗚咽を漏らしてしまいました。
「な、泣いているのですか?」
セルディがギョッとしたのが伝わってきます。
「泣いてなんかない」
「本当ですか?でも、さっきからこちらを向いてくれませんし…」
セルディはおろおろしています。マーナは苛々しました。そして。
「泣いてなんかないって言ってるでしょ!」
とうとうセルディに向かって叫んでしまったのです。勿論彼の方へ顔を向けて。
「ど、どうしたんです?目が真っ赤ですよ?!」
セルディはギョッとしました。心底驚いたという表情を見てしまった今、マーナには込み上げてくるものを止めることはできませんでした。堪らず涙をこぼします。
所詮、セルディにとっては、マーナなどその程度の存在なのです。マーナが悲しむ理由も思い当たらないほど、セルディにとってマーナは眼中外なのです。
マーナは年甲斐もなくわんわん泣きながら思いました。どうせなら全てぶちまけてしまおうと。困りきった顔のセルディを更に困らせてしまうことは目に見えていましたが、それでもこのままなんてあんまりでした。セルディとお姫さまが結婚してめでたしめでたしになってしまったなら、マーナの存在は何処に行けばいいのでしょう。
きっと不細工な顔だろうと確信しながらも、マーナはセルディに向き直りました。いつの間にか目線が同じ高さにあります。マーナを心配そうに見つめる瞳を拒絶してしまいたいと思うのに、心は好きだと叫びます。何という矛盾でしょう。
「セルディ」
「はい」
ここまで来てもセルディの目には心配の色しか映っていないことに、いっそ笑えてきました。
「セルディ、私はね」
「はい」
「貴方が好きなの」
「はい、知ってますよ」
マーナは苦笑しました。セルディにとって、その言葉は幼い頃と何ら変わりないのでしょう。ですが、マーナは変わってしまったのです。
「セルディ、私はね、貴方と手を繋ぎたかったの」
「いつも繋いでるじゃないですか?」
「キスもしたかったの」
「そ、それは……、あの、頬にならありますよね?」
「私、私ね」
マーナは震える声で言いました。
「セルディのお嫁さんになりたかった」
え、と目を見開いたきり、セルディは動きませんでした。きっと予想外のことに驚いているのでしょう。そうでなければマーナの言った意味が分からないのかもしれません。丁度、昔受けたテストのように。
マーナはすくっと立ち上がりました。ごめんなさいなどとは言いません。セルディは頭がよくないですから、そんなことを言えばまた悩むに決まっています。
「待ってください!」
「…何よ?」
セルディが慌ててマーナを引き留めました。マーナはまたもや泣きたくなるのを堪えます。これ以上セルディの前では泣きたくありません。泣いてしまいたいけれど、泣きたくありません。
「あの…?どうしてそれでマーナが泣くのですか?」
やっぱり馬鹿だ、とマーナは呆れました。でも、馬鹿なところも好きなのですから、こうなったら自棄になるしかありません。
「お馬鹿さんのセルディに教えてあげるわ。だって貴方は、今夜ルージュさまと婚約するのよ。私とは結婚できないってことでしょう。だから泣いているの」
え、と目を見開いたきり、セルディはまた動かなくなりました。
「ルージュ殿と婚約、ですか?僕が?」
「そうよ!さぞ嬉しいでしょうね。この三か月、ルージュさまとばかりいて、楽しそうだったものね」
マーナは厭味ったらしく言いました。出会ってこの方セルディに厭味が通じたことなどないのですが。無論、今回もそうでした。
「えっと…、楽しかったですけど。あの」
「そうでしょうね!あれだけ私に世話になっておいて、最近じゃ陛下から出された課題もルージュさまに相談しているんでしょう?」
セルディは言葉に詰まったようでした。というよりはマーナの気迫に怯えているようです。おずおずと口を開きます。
「でも…、マーナは昇級試験で忙しいって聞きましたから」
「私が貴方の課題を手伝った程度で落第すると思ってるの?生憎、貴方とは出来が違うのよ」
言い終わってマーナは後悔しました。せっかく最後に素直になったのに、全部台無しです。セルディがあまりにも鈍いので、つい苛立ちに身を任せてしまいました。
これ以上の失態を避けるために、マーナは走り去ろうとしましたが、セルディによって再度引き留められます。今度は、掴んだ腕を離してくれません。先ほどより強く引き寄せられました。マーナは今更だと知りながら、ドキリと胸の高鳴りを覚えます。
「あの…」
「な、何?」
セルディは真剣な顔で尋ねました。
「あの、僕とルージュ殿が婚約するって本当ですか?」
一拍置いて、マーナは素っ頓狂な声を上げてしまいました。
「はああああ?」
そして、とある可能性に思い当たります。
「まさかとは思うけど、貴方、婚約のこと知らなかったの?」
「えっと、はい」
「頭悪いにもほどがあるわよ!大体、姫君が留学するわけないでしょう?その時点で婚約者候補だって気づきなさいよ!」
「そうなのですか?」
「そうなのですかって…」
マーナはズキズキと鳴る頭を抑えました。予想外の展開です。ここまで来たら、最後まで面倒を見るしかないようです。それがセルディに恋をしているマーナの役目だというのは、一体どんな皮肉でしょうか。
「いい。貴方は今夜ルージュ姫と婚約するはずなの。皆噂しているし、どう考えてもそうに違いないわ。貴方だって、相手があの方なら文句ないでしょう?分かったら、とっとと姫さまのエスコートでもしてらっしゃい」
悲しみと呆れと頭痛が混じり合って、マーナの頭はぐちゃぐちゃです。今テストを受けたなら、ならセルディといい勝負かもしれません。
セルディは少し逡巡した後、こくりと頷きました。
「わかりました。ルージュ殿の所に行きます」
マーナの胸が痛みました。ズキズキズキ。音が聞こえてくるようです。こうなることは分かっていたはずなのに対策も出来ないなんて、普段のマーナなら考えられません。セルディの前だけ、マーナはおかしくなるのです。
セルディは、そんなマーナの様子には全く気付きませんでした。それどころか、一人で気合を入れています。
「早く行かないといけませんね。それで、断ってこないと」
「そうよ、早く行って断って…」
既に泣きそうになっていたマーナは、さっさとセルディを追い払ってしまおうとしたところで、違和感にピタリと固まりました。セルディの言葉は、何やら変だった気がします。
「断るって、何が?」
「決まってるじゃないですか」
セルディは、然も当然というようにマーナを見つめ返します。セルディにそんな目で見られたのは初めてだったので、マーナは屈辱を感じました。
「婚約を断りに行くんです。早めに言った方がいいのでしょう?」
「は?」
マーナはポカンと口を開けました。ひどい間抜け面です。何だか自分が馬鹿になったような気がしました。セルディの意図することが全く理解できません。
「断るって…、何でよ?」
ポカンとしたまま尋ねると、セルディは不思議そうな視線をマーナに返します。マーナこそ何を言っているんだ、と言いたげな視線でした。
「だって僕、好きな人いますし」
「え?」
「マーナだって知っているでしょう?」
「ええ?」
マーナは混乱しました。全く心当たりがありません。それに、セルディに好きな人がいたという事実に少なからぬショックを受けていました。例え、ルージュ姫との婚約がなかったとしても、マーナには勝ち目などなかったのです。所詮マーナはただの幼馴染に過ぎないのです。
マーナの涙腺がすっかり壊れてしまいそうになっている間、セルディはと言えば、ごそごそと持っていた籠をまさぐっています。そして、混乱の渦中にいるマーナに向かって、青い花を差し出しました。それは、毎年かかさずセルディがマーナに渡しているものです。この時期にしか咲かない花で、鈴が二つ連なったような形をしています。去年までならありがとうと受け取る所ですが、今のマーナには何故このタイミングで差し出すのかさっぱり分かりませんでした。涙も引っ込んでしまいます。
「どうしてここで花なのよ。もっと大事なことがあるでしょう?貴方の婚約のことよ!」
「婚約?えっと、だからこそこの花を出しているんですけど…」
マーナは首を捻りました。そこでようやく、二人は話が噛み合っていないことに気付きます。あれえ?と目を瞬かせるセルディの腕を掴みかえし、マーナは詰め寄りました。
「なんでこの花が重要なの?」
「ええ?毎年渡してるじゃないですか?」
「だーかーら。何で毎年この花をくれるのよ?」
そういえばそうでした。今まで何とも思いませんでしたが、セルディは毎年同じ花を聖誕祭にくれるのです。もう十年間も欠かさず。いつも勉強を見てやっているお礼かと思っていましたが、セルディが驚愕に目を丸くしている所を見る限りはどうやら違うようです。
「ええと?マーナ…、もしかして知らないんですか?」
「何が?」
セルディは悲鳴を上げました。その表情はどんどん絶望に染まっていきます。
「メイドさんたちは、女の人なら誰でも知ってるって!」
「何それ。どーせ私は女らしくないわよ」
ふんっと鼻を鳴らすマーナの前で、セルディは途方にくれているようでした。何故か泣きそうな顔をしています。先ほどまで泣き喚いていたのはマーナだというのに、おかしな話です。
「あのですね、マーナ。聖誕祭に男の人が女の人に青い花を渡すのには意味があるんですよ」
「へえ?そうなの、初耳だわ」
興味深そうに眉を上げると、セルディはますます泣きそうな顔をしました。失恋したばかりで、泣きたいのはマーナだというのに、本当に呆れた幼馴染です。
「マーナ、それはね。『結婚してください』って意味なんです」
「へえ?そうなの、初耳だわ…」
息をのんだマーナは、言われた言葉の意味をしばらく理解できませんでした。ようやく思考回路が回転し始め、意味を租借し飲み込んだ時、マーナはセルディを凝視しました。ここで状況を理解できないほどマーナの頭は落ちぶれていませんでしたが、ここで状況を素直に受け入れられるほどマーナの頭はおめでたくありませんでした。
「な、何それ…?じゃあ貴方は毎年私に求婚していたってこと?」
直球すぎる言葉に、セルディは顔を赤らめました。
二十の男が頬を染める図は通常気持ちよくないはずなのですが、彼の場合は不思議と似合っています。
「う、うん…。てっきりマーナも知ってると思ったから、僕浮かれてました」
しょんぼりと沈み込むセルディは、しっぽを力なく垂らした犬のようでした。
マーナはしばらく呆然とした後、真っ赤になりました。それから金魚のようにパクパクと口を開け閉めしました。そして最後に叫びました。
「馬鹿!」
「うん…、やっぱり僕馬鹿ですよね。こんな勘違いして…」
「違うわよ!私が言ったこと聞いてなかったの?!」
「えっと…、聞いてたつもりなんですけど」
衝撃で忘れてしまったと告白され、マーナは唸りました。確かに、研究にかまけて一般常識に疎かったマーナにも責任はあるかもしれません。
「しょうがないわね。じゃあ、もう一度だけ言うからよく聞きなさいよ」
「はい」
マーナは、何だかいつものように勉強を教えている気分になりました。変な感じです。
「あのね、私は…、その」
先ほどとは違う状況に、マーナは体が熱くなっていくのを感じます。もしかしたら、もしかするのです。
拳を握りしめ、マーナは叫びました。
「わ、私、セルディと結婚したいの!」
え、と目を見開き、セルディは先ほどの告白と全く同じ反応をします。ただしかし、その後の言葉だけが違っていました。口を開く彼の前で、マーナは緊張で手を震わせています。
「僕もマーナと結婚したいです…。じゃなきゃ毎年花を渡したりしません」
「そ、それは私が悪かったわ…」
二人の間に沈黙が下りました。いつの間にか外の喧騒は止み、代わりに陽気な音楽が耳に入ってきました。ポロンポロン。楽師たちの奏でる音は、静かな空気に満たされた部屋の中を弾んでいくようです。
「あ、あのマーナ」
「な、何!」
マーナはびくりとしました。
「その…、婚約のことなんですが、多分違うと思います」
セルディは、ゆっくりと考えながら話しているようです。
「だって、父も母も僕がマーナを好きなことを知っているはずですから。青い花を渡していることも」
「ええ?!」
マーナは驚き、次いで恥ずかしくなりました。結局は自分の勘違いだったのです。それに、セルディの両親に知られていたことも予想外でした。勿論、国王夫妻は花の意味を知っていたでしょうから、実質マーナだけが何も知らずに空回りしていたのです。
マーナはこの瞬間、世界で一番頭が悪くなった気がしました。いつもはぽわぽわして何も考えていなさそうな幼馴染にさえ、今だけは全てを見透かされているかのような錯覚に陥ります。まあ、錯覚に違いありませんが。
「あのマーナ」
どんよりとしていたマーナが顔を上げると、先程より近いところにセルディの顔がありました。目と目がしっかり合います。それを意識したのか、二人とも顔が真っ赤です。
「僕、マーナが言ってたこと思い出しました」
「え?」
セルディは真剣な顔で告げました。
「マーナが僕とキスしたいって…」
マーナは自分の頭から湯気が出ていることを願いました。そしてそのまま沸騰して気絶してしまいたいと思いました。なぜそんな部分だけ思い出してしまうのでしょうか。それは失恋が確定していると思い込んでいたから言えたことなのです。つまりは勢いだったのです。改めて口にされると、穴があったら入りたいほど恥ずかしいことでした。
「そ、それは忘れていいわよ!」
「嫌です。だって僕もマーナとキスしたいですから」
セルディの言葉に、とうとうマーナは限界を迎えました。馬鹿正直すぎるのも困ったものです。今までなら苦笑して受け入れていましたが、今回ばかりは無理な話でした。
マーナは脱兎のごとく逃げ出そうとします。しかし、そうは行きません。今日のセルディは、いつもより頭の回転が速いのです。それだけ一所懸命だったのです。
「マーナ」
ぎゅうっと抱きしめられ、マーナは逃げ出すことを諦めました。されるがままになっているマーナの手に、セルディが何かを握らせます。それは、あの青い花でした。
「マーナ、大好きです」
何の捻りもない言葉でした。でも、マーナにはこれがセルディの精一杯だとわかっていたのです。そして、飾りっ気のないその言葉が、マーナはとても好きでした。
マーナは青い花を今度は自分から優しく握り、その手をそっとセルディの背中に回しました。
今年も、きっと来年も。
生誕祭の夜を二人で過ごせることが、マーナにはたまらなくうれしかったのです。
勢いで仕上げたので、まとまりがないところがあるやもしれません…。
そして、何故こんなに甘いのか。作者にもわかりません。
ただ、頭が悪い王子が書きたかっただけなのですが、「こいつら本当に20か…?」みたいな話に。
姫君に名前がついているのは、もともとちゃんと登場する予定だったところを削ったからです。