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第7話 じゃあ、好き?

「ま~し~ろ~く~ん~?」


 笑顔で俺の肩を握り締める、白髪の美少女が目の前には居た。


「なんで逃げたのか、教えてもらってもいい?」


「い、いや、逃げては無いぞ……?」


「逃げたよね? 私と一緒に通学してくれるって、昨日約束したよね? 手も繋いでくれるって言ったよね? 嘘だったの? ねえ、嘘だったの? 私を騙したの?」


「あ、あれは脅迫されただけで……心から同意した訳では……」


「……私の事、嫌いなの……?」


 俺が否定を重ねると、胡桃は涙目になりながらこちらを見てきた。


 ズルい、ズルいよ……! 泣いただけで、なんだかこっちが悪い気持ちになるんだから……!


 クラスでも目立つ部類である胡桃が泣きそうになっている事で、クラスの視線が徐々に集まってきている様な……。

 まずい、まずい……!


「嫌いじゃない、嫌いじゃないぞ!」


「じゃあ、好き?」


 ノータイムで、俺が殺されかねない問いが。

 胡桃は何の悪意も無さそうな顔で、首を傾げている。


 ……これが演技だったら、俺はもうコイツと縁を切るぞ……。


 さて、何と答えるべきか……。

 ここで首を振ったら、胡桃が大泣きするか逆上して、どちらにせよ俺は死ぬ。

 とはいえここで首肯すれば、胡桃には殺されないが、他の奴からの怨嗟で俺は死ぬ。


 ……終わったのでは?


「ねえ、好き?」


 胡桃が顔を近付けてくる。


 ――ああもう、ちくしょう!


「ああ、好きだぞ。幼馴染とし――」


「――ほんとに!?」


 俺が最後まで言い切る前に、胡桃は更に顔を近付けてきた。


 その勢いに俺は若干気圧されつつも、コクコクと頷く。


「――私も!」


 胡桃は大声でそう言うと、俺の首元に抱き着いてきた。


 ……あ、終わった。


 クラス中の視線が集まっていくのを感じながら、俺は心の中でそう呟く事しか出来なかった。







 クラスメイトが近付いて来て、俺が殺されるという寸前、チャイムが鳴り響き、すんでの所で俺は助かった。


 しかし、俺の尋問は既に開始されていて。


「どういう事だよ、真白……!」


 前の席に座る晴翔が、振り向いて俺に問い掛けてきた。

 追加で言うならば、隣の席の高原からの視線も痛い。


 俺は声高に無実を主張したい。これは冤罪だ、と……。


「なあ、晴翔……イエスとノーのどちらを答えても死ぬ問いって、世の中に存在すると思うか?」


「……は? 急に何を言ってるんだ……?」


「俺はその存在を、今さっき身を以て実感したよ。俺は今死刑囚だ……」


「なんか……すまん……」


 俺が天を仰ぎ始めた所で本鈴が鳴り、教師が入ってくる。

 晴翔も一旦前を向き、授業が始まった。


「…………」


 礼をしながら、俺は今後どうするかを考えた。


 今は授業中だが、授業が終わればクラス中からの攻撃が来て、俺は即死するだろう。

 白髪クォーター美少女胡桃の彼氏容疑者として、徹底的に吊し上げられる可能性がある。

 それをどう回避するか、だ。


 裁判において、弁護する存在は必要不可欠である。


 そう、俺には弁護人が居ないのだ!


 弁護人を作り出さねばなるまい。


 真っ先に候補に挙がるのは、晴翔か。

 目立ち、発言力があり、俺の事をある程度理解している。連絡先を交換して一日だが、胡桃の次に俺の事を知っている人物ではある筈だ。


 しかし、ここで問題が一つ。


 俺はコイツから、ついさっき尋問を受けていたのだ。


 どう味方につけてくれようか……。


 よし、ここはRINEで説得しよう。

 今は授業中だが、そんな事は知ったこっちゃない。

 仮に見つかって教師に咎められても、放課後に逃げる理由が出来上がるだけだ。


 いや、待て……?

 これ、晴翔もスマホを開かなきゃ意味無いのでは……?


 頼む……!


 俺は心の中で懇願しながら、晴翔の背中を四回程叩いた。

 特に決めていた訳では無いけど、なんか四回叩きたくなったから叩いた。


 そして、コッソリ鞄からスマホを取り出し、マナーモードになっている事を確認してRINEを開く。


『真白)頼む』

『真白)見てくれ』


 果たして――。


『晴翔)なんだよ』


 よし!

 お前が天才だ! 晴翔!


『真白)さっきの話の続きをしよう』

『晴翔)いいけど…』

『真白)俺は胡桃の罠に嵌められただけなんだ』

『真白)俺は無実だ!』

『晴翔)でも、お前ら「好き」って言い合って抱き合ってたろ?』

『晴翔)ただの公開告白じゃねえか!』

『真白)ちがうんだ』

『真白)俺はただ幼馴染として好きって言っただけなんだ!』

『晴翔)…どういうこと?』

『真白)胡桃が急に泣きながら「私のこと嫌いなの?」って言ってきてな?』

『真白)俺は「嫌いじゃないよ」って言ったんだよ』

『晴翔)ほう』

『晴翔)今のところ問題は感じられないけど』

『真白)そしたら胡桃が「じゃあ好き?」って言ってきて』

『真白)俺は死んだ』

『晴翔)なるほどな…』

『晴翔)うん、お前東雲さんに好かれてんだよ』


 ……はい?

 ああいや、幼馴染としてって事か。


『真白)幼馴染としてだろ?』

『晴翔)は?』

『晴翔)あれだな、お前…人の感情を学んだ方がいいぞ』

『晴翔)ちょっと引いた』

『真白)なんでだよ!』

『晴翔)だから、東雲さんはお前を男として好きなんじゃないか、って言ってるんだよ!』


 ……はい?


 俺はフリーズした。


 何を言っているんだ、晴翔は?


 第一、胡桃は男嫌いではないのか……?


 ていうか、それが仮に本当でも、俺は応えられないんだが……。


『晴翔)おーい』

『晴翔)生きてるか?』

『真白)死んでる』

『晴翔)なんでだよ…』

『真白)本当にそうだったとしても、俺はアイツの気持ちに応えられないし、お前にも申し訳無くて俺は罪悪感で死ぬ』

『晴翔)好きな人でもいるのか?』

『真白)逆だよ』

『真白)いないんだよ』

『晴翔)じゃあいいじゃん』

『真白)なんでお前はそっち側なんだ!』

『真白)俺が仮に胡桃と付き合って、お前はそれでいいのかよ』

『晴翔)よくはないけど、公開告白するようなとこに突っ込む度胸があれば、今頃他の奴と一緒に告白して撃沈してるからな』


 他の奴に告白されてたんだ……。


 新事実の発覚になんだか少し複雑な気持ちになりつつも、今後の対応を考える。


 う~ん。

 仮に『胡桃俺の事が好き説』が本当だとして、俺はどうすればいいのか。

 結局、俺がこの後殺される事に変わりは無いのでは?


『真白)とりあえず話をもどそう』

『真白)俺、このままだと死ぬから』

『真白)手伝ってほしい』

『晴翔)手伝うって、何を?』

『晴翔)お前が東雲さんに告白するのを?』

『真白)ちげぇよ! ボケんな!』

『真白)今大事な話だから!』

『晴翔)悪いw』

『真白)まあ、あいつの真意を知りたいから』

『真白)授業終わりに俺がクラスメイトに殺されるのを防いでほしい』

『晴翔)要するに、お前と東雲さんが二人っきりになれるようにすればいいってこと?』

『真白)もう面倒だからそれでいいわ…』

『晴翔)それでいいってなんだよ…』

『晴翔)まあ、とりあえずわかったよ』

『真白)助かる…心の友よ』


 そして俺は、今気付いてしまった。


 マナーモードゆえに今まで気付かなかったが、通知の量がとんでもない事になっている。

 発信者は、全て『東雲胡桃』である。


『胡桃)ねえ』

『胡桃)誰と話してるの?』

『胡桃)ねえ』

『胡桃)さっき好きって言ってくれたのに』

『胡桃)もう浮気なの?』

『胡桃)そんなに私じゃ満足できないの?』

『胡桃)ねえ』

『胡桃)ねえ』

『胡桃)ねえ』


 ザッと見ただけでもこれである。


 なんなんだ……俺は浮気を問い詰められている夫なのか!?


 取り敢えず、事実だけを伝えよう。


『真白)晴翔と話してただけだ』

『胡桃)浮気?』

『真白)違うわ!』

『真白)俺は男色ちゃうわ!』

『胡桃)男の子でも関係ないよ』

『胡桃)青木くんかぁ…』

『胡桃)あとでおはなしにいかなきゃ』

『真白)怖いから』

『真白)やめろ』

『真白)それより話がある』

『胡桃)話?』

『真白)ああ』

『真白)授業終わったらちょっと来てくれないか?』

『胡桃)なになに』

『胡桃)愛の告白?』

『胡桃)ここでいってもいいよ』

『真白)とりあえず授業終わったら来い』


 寝惚けた事を言い始めたので、それだけ送って俺はスマホを閉じた。


 さて、取り敢えず、最悪の状況は脱した。

 あとは胡桃の真意を問い質して、そこからどうにかして生き延びる道を探すのみだ。


 俺はスマホを鞄に仕舞うと、板書を写し始めた。

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