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第6話 逃げたね!!

 どうにかこうにかして胡桃をひっぺがし、家に帰った後。


 スマホの通知が鳴り、クラスRINEを見てみると、先程電話で晴翔が言っていたカラオケに関する話だった。


 ついでだし、個人チャットで晴翔に話をしておくか。


『真白)さっき胡桃に訊いてきたんだが』

『真白)そもそも男にほぼ興味が無いらしい』


 少しして、晴翔から返信が返って来た。


『晴翔)まじか…』

『晴翔)でも真白は別なんだろ?』

『真白)らしい』

『真白)俺もよくわからん』


 ファミレスでそこそこ会話をしたが、結局胡桃の胸中は読めなかった。


『晴翔)でも、そっか』

『晴翔)興味無いのか…』


 なんか、哀愁漂うチャットだ……。

 慰めの言葉でも掛けるべきか?


『真白)まあまあ』

『真白)アイツが話し掛けてきたら、上手い感じに晴翔も会話に入れれるようにするよ』

『晴翔)まじか!?』

『晴翔)助かる』


 うん、良い感じだな。


 晴翔は俺の目の前の席だし、俺が座っている時に胡桃が話し掛けてくれば、自然と会話に加える事も出来るだろう。


 晴翔との会話も一旦区切りが付いたし、スマホを閉じようとすると、今度は胡桃からの通知が。


『胡桃)真白くん、カラオケ行く?』

『真白)行かないが』

『真白)それがどうした?』

『胡桃)じゃあわたしもいかなーい』


 じゃあってなんだよ、じゃあって……。


『真白)もし俺が行くって言ったら?』

『胡桃)いくー』

『真白)どういうことだよ…』

『胡桃)真白くんについていくってこと!』

『真白)余計わからん』


 ともかく、胡桃は行かないらしい。

 晴翔、哀れ……。


 俺は心の中で再び合掌をしながら、スマホを閉じた。







 翌日。

 昨日早めに寝た甲斐あってか、早い時間に起きる事が出来た。

 母さんだけが起きている様で、リビングでは少しだけ物音がする。


 ベッドから起き上がりながらスマホを開き、軽く通知を確認していく。

 RINEはクラスのが少し動いているぐらいで、個人チャットは特に何も来ていない。


 スマホを置いて部屋を出て、軽く顔を洗い、リビングに入る。


「おはよう」


「おはよう。今日は早いのね」


「ん、まあ」


 短い会話を交わし、母さんが用意してくれた朝食を食べる。


「あら、もう行くの?」


「うん」


「胡桃ちゃんは?」


「今日は一緒に行かないから」


「あら、そう」


 それだけ言ってリビングを出て、パジャマから制服に着替える。


 よし、今から出れば、流石の胡桃も居まい。


 ササっと歯磨きを済ませて、鞄に教科書類を突っ込み、最後にスマホを一瞥して部屋を出た。


「よし」


 廊下にも胡桃は居ない。

 俺は静かな通学時間を楽しめるのだ。

 悪いな、胡桃。


 俺は逃げる様にマンションを出て、高校に向かった。







 人のまばらな昇降口で靴を履き替え、1年2組の教室に入る。

 誰も居な――いや、一人だけ居た。染めたっぽい金髪の、ギャルっぽい女子。


「あ、くるっちのアレじゃーん。おはー」


「……おはよう」


 どういう事だよ、その発言! あとくるっちって独特な呼び方だな!


 と思ったが、見るからに陽の雰囲気の奴にそういう事を言う度胸も無い。

 大人しく机に座って、ホームルームまで寝とこう……と椅子に座ろうとしたら、なんとあっちからこっちに近付いてきた。


「あたし星野(ほしの)結愛(ゆあ)。あんたは?」


「……赤月真白」


「じゃああかっちね。ねえねえ、あかっちってくるっちとどんな関係なん?」


「どうも何も、ただの幼馴染だけど?」


「へぇ……にしては、なんだか仲がよろしい様で」


 意味深にニヤリと笑う星野。


 クソッ、こういうタイプは苦手だ。


「昨日だって、二人揃ってカラオケ来ずに……ねえ? 何してたのかなぁ?」


「……何もしていない」


 星野は尋問でもするかの様に、こちらの顔を覗き込んでくる。


 こっちを見るな……!


「くるっちはこういうのがタイプな訳かぁ」


「何がだよ」


「べっつにー。……逆にあかっちはどうなの? くるっちの事、どう思ってる訳?」


「どうも。強いて言うなら、騒がしい奴?」


「へぇ……ま、いいや。末永くお幸せにー」


「はぁ?」


 星野はそう言い残して、自分の席に戻って行った。


 何がお幸せにだ……。ああいうタイプの女子は苦手だ。高原みたいな大人しい奴の方が、話しやすくて助かるのに。


 溜め息を吐きながら腕を枕にして寝ようとすると、肩を叩かれた。


 誰だ――と思って顔を上げると、そこには茶髪の男子が。


「よっ」


「……おはよう。カラオケは楽しかったか?」


 他でもない、俺の目の前の席の晴翔である。


 晴翔は鞄を置きながら自分の席に座り、俺の質問に答える。


「うーん、まあ楽しかったけど、東雲さんが居なかったからなぁ……」


「あー、そういえばアイツ、行かないっつってたな……」


「連絡取ってたのかよ……あぁ、俺も連絡先欲しいっ!!」


「自分で貰ってくれ……と、噂をすれば」


 俺のスマホがピロン、と鳴った。


 鞄から取り出して通知を確認すると、やはり相手は俺の想像していた通り。


『胡桃)真白くん!!』

『胡桃)逃げたね!!』

『真白)逃げた覚えはない』

『胡桃)一緒に通学してくれるって言ったよね! 手も繋ぐって言ったよね!』

『真白)はて、何の事やら……』


 胡桃からのメッセージを適当に返していると、晴翔が羨ましそうな声で言ってきた。


「東雲さんか?」


「まあな。俺はどうやら、胡桃から逃げたらしい」


「らしいってなんだよ……。一緒に登校する約束でもしたのか?」


「いや、俺は脅迫されただけで、約束を履行する義務は無い」


「変わってんな、お前……。東雲さんと一緒に通学とか、断らない奴の方が少ないだろ」


「知ってるか?必ずしも少数派が間違っているとは限らないんだぞ。民主主義の話し合いでも、少数意見の尊重があるだろ?」


「いや、この場合はお前が間違ってると思う……」


 そんな話をしている内に、教室にはどんどん人が入ってくる。


 次第に陽キャグループの奴らも集まってきて、晴翔は一言「あっち行ってくるわ」と告げると、席を立っていった。


 静かになった事だし、時間まで寝るとしよう。


 そう思って、再び腕を枕に――。


「ま~し~ろ~く~ん~?」


 笑顔で俺の肩を握り締める、白髪の美少女が目の前には居た。

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