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第5話 真白くんは特別だよぉ?

 制服をハンガーに掛け、クローゼットから適当な服を取り出して着る。

 俺にはファッションセンスが無いし、服を買いに行くような趣味も無いので、機能性が良ければそれで良いの精神で服を選んでいる。ので、特に似合う様な服でも無い。というか、自分に似合う服が分からない。


 まあ、それはいいとして……。


 約束の時間まで今しばらくあるので、適当にゲームでもして時間を潰すとしよう。







 12時前になったので、ゲームを中断して家を出た。

 特段楽しみな訳でも無いが、自分から誘っておいて時間に遅れるのは人としてどうかと思うので、きっかり時間前には家を出るのだ。


 胡桃の事だから先に居るかと思ったが、今日は居ない様だ。


 スマホを弄りながら待つ事数分、真正面のドアが開き、私服姿の胡桃が出て来た。


「ん、行くか?」


 ポケットにスマホを仕舞いながらそう言うと、何故か胡桃がむくれた。


「何か言う事無いの?」


「ん? あー……似合ってるんじゃないか?」


 服の種類も何も分からないが、胡桃の美少女具合が引き立っているのは分かる。


「及第点で良しとしてあげましょう」


 胡桃は何故か上から目線でそう言うと、俺の腕に抱き着いてきた。

 胡桃曰く平均より小さい柔らかみが、服越しに伝わってくる。


 やはり、晴翔の言っていた様な男嫌いには思えない。男嫌いの奴が、こんな事をするだろうか?


 歩きながら尋問する事にしよう。


「なあ……お前って、男嫌いなのか?」


 俺のトークデッキには『遠回しに訊く』というコマンドが無いので、単刀直入に訊く事しか出来なかった。


「何? 急に? ……まあ、どっちかと言えば嫌いかなぁ?」


「…………」


 胡桃の回答に、俺は無言で自身を指差した。


「真白くんは特別だよぉ? だって、幼馴染だもんっ!」


「幼馴染ってそんな特別な存在なのか……?」


「ていうか、誰から聞いたの? そんな事」


 上手い具合に話を逸らされてしまったが、質問に答えない訳にもいかない。

 ついでに、晴翔のオーダーもここで果たしておくか。


「同じクラスの晴翔からだよ。青木晴翔」


「青木くん? あぁー、あの見るからにキラキラしてる人かぁ……。真白くんはそう言う感じが好きなの?」


「そう言う感じが好きってなんだよ……そう言うお前はどうなんだ? アイツの事」


「う~ん……別に私、男の子にそんなに興味無いからなぁ。あ、真白くんは別だよ? 勿論」


「お前の中で俺は男じゃないのか……?」


 胡桃の発言に呆れながら、俺は心の中で合掌した。

 晴翔……無念。お前の想いが叶うのは、当分先になるかもしれない。


「あ、男の子といえど、あんまり仲良くしたら承知しないからね?」


「何故お前に承知されなきゃならん……。お前は俺のなんなんだよ」


「幼馴染!」


「幼馴染ってそんなに重い存在なのか……初めて知ったぞ」


 そんな風な会話を交わしながら、手頃なファミレスに入る。


 客の視線が、白髪美少女の胡桃と、それに抱き着かれている陰キャの俺に集中しているのを感じる。痛い。視線って実は痛みを伴っているんじゃないか、と思うくらいには視線が痛い。


 店員に案内され、席に座る――。


「おい、お前なんで当たり前の様に隣なんだ。向かいがあるだろ、向かいが」


「えー? 何の事か、分からないなぁ」


 コイツ……。


 注文を頼んだ時の、店員の「イチャイチャしやがってコイツら……」みたいな視線に申し訳無くなった。いや、イチャイチャしてる訳じゃないんだ……! 俺らは別に付き合っていない……!


「ねえ」


「なんだ?」


 不意に胡桃が話し掛けてくる。


「なんで、私と通学したくないの?」


「お前と通学したくないというか……いやまあ、表現は間違ってないんだが……お前が嫌っていう訳では無くて、お前と居ると目立つから嫌なんだよ」


「目立つ……?」


 胡桃は、何を言っているのか分からない、と言う風に首を傾げた。

 え、まさかコイツ、自覚が無いのか……?


「さっきだって、客の視線が凄かったろ?」


「え? う~ん……真白くんしか見てなかったから、分かんない」


「は……?」


 なんなんだコイツは……。


 意味の分からない発言に言葉が詰まっている間に、店員が注文した料理を持ってきた。


「以上でお間違い無いでしょうか?」


「あ、はい、ありがとうございます……」


 心なしか、やはり「このカップルが……」みたいに思われている様な。


 まあいい。さっきの話の続きをしよう。


「ともかくだ。お前と居ると、俺は目立っちまうんだよ。それが嫌なんだ」


「なんで目立ちたくないの? まあ、私は真白くんが他の女の子に目を付けられるのは困るけど……」


「何を言ってんだ……。……俺はただ、静かに過ごしたいだけでなぁ」


「私、静かじゃん!」


「お前のどこが静かなんだよ」


「むぅ……要するに、うるさくしなかったら良いって事?」


「うるさくしなかったら、というか……お前が目立たないなら、まあ構わんが」


「う~ん……でも地味な感じにしたら、私の事嫌いにならない?」


「何を言っているんだお前は……」


 コイツはどこを気にしているんだ?


「まあともかく、何があろうと明日は一緒に通学しないからな」


「が、がーん……!」


 声に出すな、声に。声に出すとなんか残念だぞ。


 胡桃は手に持っていた箸を取り落とす演技をしながら、俺にしなだれかかってきた。


「うおっ……」


「ねえ嫌いなの? 私の事嫌いなの? やっぱり胸? 胸が足りないの? 揉ませてあげるよ?」


「なっ、ちょっ、一回退いてくれ……!」


「やだ! 真白くんがさっきの発言を撤回するまで退かない!」


「っ……分かったっ、分かったから退いてくれ……!」


「じゃあ、一緒に通学してくれる? 手も繋いでくれる?」


 なんか知らない間に条件が追加されてるんだが……!?


「分かったから!」


「なら、よし」


 ようやく、胡桃が俺の上から退いてくれた。周りの視線が凄く痛い。


 本当にコイツは何がしたいんだか……。


 ……明日は、胡桃が家を出るより早く家を出るか。そうすれば、一緒に通学しなくて済むだろう。


 俺は心の中で、胡桃からの逃亡を決意した。

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