第3話 真白くんに嫌われたぁ!!
「ふぅ……」
しばらく走って、背後に胡桃が居ない事を確認すると、俺は息を吐いた。
あとは自由解散という事だったし、とっとと家に帰るとしよう。
――と思った矢先、鞄の中のスマホがピロン、ピロンピロンと続けて鳴った。
鞄のジッパーを開き、手を突っ込んで通知を確認する。
『胡桃)まって』
『胡桃)お願いだから待って』
『胡桃)とまってくれないとゆるさない』
文体は可愛い感じなのに、その後ろに隠された感情を読み取って、思わず身震いしてしまう。
う~ん。
無視すると後が怖いし、ちゃんと待機しておこう。
『真白)待つから落ち着け』
『真白)階段前で待ってる』
短くメッセージを送り、スマホを仕舞う。
守ってない奴が大半だろうが、一応学内でのスマホの使用は緊急時以外は禁止なので、早めに仕舞うに越した事は無い。
待つ事数十秒、廊下の向こう側から、長い白髪を揺らして胡桃が駆けてきた。
「はぁ、はぁ……逃げるなんて酷いよ、真白くん」
「理不尽な追及を始める方が酷いだろ……ほら、息整えるまで待っててやるから」
「……そういう時だけ優しいんだから」
「なんて?」
「なんでもないっ!」
何事か小声で呟いた様な気がしたが、気のせいだったらしい。
少し待つと胡桃の息も整ってきたので、二人で並んで階段を下りる。
「で、結局お前は何がお気に召さなかったんだ?」
「そう、それだよ! なんで私と言う者がありながら、あんな事が出来たんだい! ドキドキしながら君を待っていた私はどうなるんだいっ!」
「私と言う者がありながら、って……別に、俺とお前はただの幼馴染だろ」
「ただの幼馴染~? 真白くんにとって、私はそれだけの都合の良い存在だったんだね!? うわ~ん!」
大袈裟にそう言って噓泣きを始める胡桃。
嘘泣きをするのは勝手だが、人聞きの悪い事を大声で言うのはやめて欲しい。
「くっ、嘘泣きも通用しないとは……! かくなる上は、君を刺し殺して――」
「怖いからやめろ」
「むぅ……じゃあ構って」
恐ろしい事を言い始めようとする胡桃を止めると、頬を膨らませながらそんな事を言ってきた。
そして、無言で俺に向かって手を差し出してくる。
「金か?」
「ちっが~うっ! もう、真白くんの意地悪……!」
胡桃は俺に文句を言いながら、鞄を持っていない俺の左手を分捕って、握り締めた。
さっきまで頬を膨らませて不満たらたらの顔だった筈なのに、それだけで満面の笑みに変わっている。
まったく、何がしたいんだか……。
「――あ」
「え、なに、どうしたの? 私の手がそんなに嫌だった?」
俺は最悪の事に気付いてしまった。
珍しい白髪を携えた美少女。
それと手を繋ぐ見るからに陰キャな男。
一大スクープになるには充分である。
周囲を見回してみると、スマホを構えて撮影したり、こそこそ噂話をしている女子が居たり。
――油断した。
クソッ、俺一人だったら、カメラを向けてきている奴のスマホを分捕って文句を言ってやるんだが、胡桃が隣に居る以上、そう言った事は出来ない。
チッ……謀られた。
「……胡桃」
「なぁに?」
「明日は、一緒に通学しないからな」
明日以降は目立つまい――そういう気持ちで放った俺の言葉は、胡桃の顔を絶望一色に染めた。
――何故に?
「う、う、うわぁ~ん! 真白くんに嫌われたぁ!! どうして、何が悪いの! 胸、胸が足りないの!? 私の平均より小さい――」
「――おぉいお前一回口塞げ!」
唐突に奇天烈で素っ頓狂な事を宣い始めた胡桃の口を、慌てて手で塞ぐ。
「――むぐっ、むぐぐっ」
「一回落ち着いてくれ、ここ、学校、オーケー? 静かにしてくれ、な?」
「…………」
無言でコクコクと頷いたので、手を離してやる。
胡桃はジト目上目遣い攻撃を放ってきた後、そのまま無言で俺の腕に抱き着いてきた。
「……はぁ」
まったく、マジで意味が分からない。
最近コイツとはベランダ越しでしか話してなかったけど、こんな奴だったか……?
いや、俺と陥れる為に、演技をしてわざと周りに見せつけているのか……?
分からない。
学校でのコイツの普段の様子を知らない俺には、これが演技なのかどうかが分からない。
取り敢えず、今日は穏便に済ませて帰らせて、後でどうにかしてコイツの普段の様子を知ろう。
俺は平穏な学校生活の為に、そう決意した。
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