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第15話 お熱いカップルの片割れ

「ふわぁ~……」


 欠伸と共に体を起こす。

 今日は胡桃から逃走する必要が無いので、昨日はそれなりに夜更かしをしてしまった。お陰で眠い。


 洗面所で顔を洗って、それからトーストを食べながらスマホを弄る。


『胡桃)お弁当楽しみにしててね!』

『真白)はいはい』


 胡桃からのメッセージに適当に返信し、トーストの後味をリンゴジュースで消し去ってから歯磨きをする。

 パジャマから制服に着替えて、忘れ物が無い事を確認すれば、朝の準備は完了だ。


「行ってきます」


 母さんに一言告げ、家を出る。


「おっはよ~!」


 家を出て早々、騒がしいのが居た。勿論、胡桃である。


「おはよう……朝から元気だな、お前」


「まあねー。あ、はいこれ、お弁当!」


「……ありがとう」


 胡桃が笑顔で差し出してきた弁当を受け取り、礼を言いながら鞄に仕舞う。


「……んふふ」


「どうした?」


「なんでもなーい」







 家を出て、学校まであと数分ぐらいの距離になると、人の目も増えるというもので。


「おい、東雲さんの隣に居る奴、誰だよ……」


「知らねえ顔だぜ。外部進学勢じゃないか?」


 内部進学者には胡桃の顔や名前は割れているらしく、注目を浴びてしまうのだ。

 そして、隣に居る――というよりも、腕に抱き着かれている俺に、視線が集まる。好ましい視線では無く、射殺す様な視線が。


「居心地が悪い……」


「え、なんで!? 私暑苦しい!?」


「いや、胡桃じゃない……」


 俺と同じくらいの視線を浴びている筈の胡桃は、なんという事も無い様だ。意味が分からない。

 美少女らしく普段からこういう視線に慣れているのだろうか……。


 胡桃をひっぺがせば解決するのだろうが……それだとなんだか、恋人をしている意味が無い様な気がしてならない。

 元々、一か月という期間を設定して付き合っているのだ。胡桃が言い出して、俺も頷いてしまったものなので、その期間はなるべく胡桃のやりたい事をさせるべき……な気がする。


「……はぁ」


 もう諦めよう。

 何かあれば、その時はその時だ。


 にしても、俺はこんなにも憂鬱な気分なのに、何故胡桃は満面の笑みなんだ……凄いな、ほんと。







 昇降口でも廊下でも陰口を叩かれ――聞こえているから陰口と言えるのか分からないが――、ようやく教室に着いた。


「じゃあ私、友達と話してくるねー」


「おう」


 教室に入ったとほぼ同時に胡桃が離れてくれたので、教室でまで視線を感じる必要は無さそうだ。


 溜め息を吐きながら鞄を置き、自分の席に座る。


 取り敢えず、昼休みまでは静かに過ごしたいものだ。


 陽キャグループと楽しそうに話している晴翔や、女子達と笑顔で談笑している胡桃を見て、心の中でそう呟いた。







「起立、礼、ありがとうございました」


 朝のホームルームが終わり、礼をして着席する。

 一限開始まで寝て過ごそうと思っていたのだが、前の席の晴翔がこちらを振り向いて話し掛けてきた。


「おうおう、噂になってたぞー、お熱いカップルの片割れ」


「お熱くねえし、噂ってなんだよ……」


「カップルの部分は否定しないのな」


「そこは事実だし」


「まあまあ。お前と同じくらいのタイミングで登校してきた奴が言ってたぞ。『東雲さんと腕組みながら歩いてる奴が居たー!』ってな」


 あの行為、腕を組むって言うのか……初めて知った。ずっと腕に抱き着くだと思ってたわ。


 現実逃避気味にそんな思考をしてから、溜め息と共に愚痴を吐く。


「なんでもかんでも噂にしやがって……情報回る速度が早過ぎるだろ」


「人の口に戸は立てられぬ、って言うからな。まあ、お前だとはバレてないっぽいし、大丈夫じゃね?」


「それ、遠回しに目立たない奴って言ってんのか?」


「卑屈だなぁ。もっとポジティブに捉えようぜ?」


「そんな噂出回ってる状態でポジティブで居られるか」


 ふと、胡桃の方はどうなのだろうか……と思い、視線を向けてみる。


 なんというか……女子に問い詰められている感じだ。女子が複数人で胡桃との距離を詰めており……胡桃の顔は、女子に囲まれているせいで見えない。


 ぼーっとしながらその様子を見ていると、晴翔から茶々を入れられた。


「お熱い視線だねえ。話しかけに行かなくていいのか?」


「馬鹿、胡桃の方はどうなってんだろうな、って思っただけだよ。それに、今話しかけに行ったら即バレだろ」


「確かになー。まあ、今は静かにしといた方が良さそうだな」


「まったくもってその通り」


 問題は、胡桃の方がちゃんと隠してくれるか、だな……。

 まあ、流石に大丈夫だろう。人に囲まれたりする事の面倒さは、美少女である胡桃ならよく分かっている筈だ。


 丁度予鈴も鳴ったので、俺達は会話を切り上げた。

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