第0話 俺が人間不信になった訳
――俺は人間不信だ。
俺、赤月真白が普通の奴で、もし他の奴がこんな事を宣っていたら、「ハッ、厨二病乙」と鼻で笑っていた事だろう。
しかし、今の俺には、一切笑えない話だった。
何故俺がこんなにひねくれて、人間不信に至ったか。
そこには、ちゃんとした――かは分からないが、まあ原因がある。
家庭環境は悪くない筈だ。
親との仲は滅茶苦茶良いとは言えないが、平均的な家庭ぐらいには良好な筈だ。親に不満を抱く事もあるが、それは思春期の男子ならば当然の事だろう。
マンションの隣の部屋には可愛い幼馴染も住んでいる。中学校は違ったが、ほぼ毎日ベランダで話すぐらいには仲が良い筈――あっちがそう思っていれば、だが――だし、小学校の頃は毎日遊んでいた。
全ての問題は、俺の中学校生活にある。
まず、中学一年生の時。
俺はクラスメイトの一人に恋をした。
思春期の男子中学生には至極当然の事で、俺は悩んだ末にラブレターを書く事にした。面と向かって告白するのは気恥ずかしかったが、行動に移さなければ初恋は終わってしまうと考えたからだ。
下駄箱にラブレターを入れて、ドキドキしながら帰った次の日、俺は教室に入って早々、クラスメイトに言われた。
「なあ、――にラブレター書いたってマジ?」
半ば嘲笑う様に放たれたその言葉に、俺は一瞬頭が真っ白になった。
――なんで?
困惑する俺に、他のクラスメイトが笑いながら言った。
「――がクラスRINEに貼ってたぞ。『なんかラブレター入ってた笑』ってな。……ま、お前じゃ釣り合わなかったんだろうな」
その言葉に、俺は膝から崩れ落ちた。
今ではもう彼女の名前も思い出せないが、確かに彼女はクラスで一、二を争う可愛さだったと思う。
しかし、別に俺の容姿だって悪くなかった筈だ。
平均より少し上程度ではあったと思う。今でこそ、ストレスで顔が丸くなってきたし、髪を切るのも面倒になって前髪が伸びてきて根暗に見えるが、当時はそんな事も無かった。
勉強だってそれなりに出来たし、スポーツもまあ、人並み以上には出来たと思う。
なのに、釣り合わないと言われ、馬鹿にされる。
俺の心には、そこでヒビが入った。
そして、高校三年生の夏。
儚く散っていった初恋の痛みも少しずつ癒えてきたかという頃、俺はクラスの女子生徒の一人に告白をされた。
清楚系で可愛くて、勉強も出来て、でも運動は苦手。そんな感じだったと思う。
俺は告白された事に嬉しく思い、その場でOKと返事をした。
すぐに夏休みに入り、彼女に『デートしよう』と言われ、俺は街に繰り出した。
彼女はオシャレをして、笑顔で、弁当まで用意してくれていた。
俺はそんな彼女の事を愛しく思って、初恋を忘れて彼女の為に尽くそう――そう決めた、矢先だった。
告白から一週間程して。
改めて俺は呼び出された。
なんだろう、と思って、呼び出された場所に行った俺を待っていたのは――彼女だけでなく、彼女以外の複数のクラスメイト。
笑いを堪えながら彼女らが見せてきたのは、恥ずかしがりながら告白を受け入れる俺、彼女と手を繋いで顔を赤くしている俺、弁当を貰って満更でも無さそうな顔をしている俺。
「全部嘘に決まってるじゃーん……あんたみたいな何の取り柄も無さそうな奴に、誰が告白したがるのよ」
あははー、ウケるー、と笑顔でそう宣う彼女らを見て。
俺のヒビが入った心は、硝子の瓶を落としたかの様に、呆気無く割れた。
もし心から音が鳴るのであれば、きっとその場で盛大な音が鳴っていただろう。それぐらい、俺の心は派手に散った。
人は残酷な生き物である。
自らの欲求の為なら、平気で人を傷付け、痛め付け、陥れ、笑い、弄ぶ事が出来る。
俺はその事を思い知らされた。
相手の言動など信用出来ない。言葉の裏には常に気を付けなければならない。
かくして、俺は誰に対しても壁を作るようになり、人を信じる事が出来なくなった。
奴らと半年間も同じ教室で学び、同じ釜の飯を食うのは苦痛と不快の塊だったが、今日からはもうそんな心配はする必要が無い。
何故なら、今日は高校の入学式。
目標としていた近辺最難関の公立高校には落ちてしまったが、幼馴染が通っている中高一貫の私立高校には受かった。
公立に入って欲しかった両親としては少し苦い顔をしていたが、一時期不登校になりかけた俺が喜んでいるという事もあったし、幼馴染の東雲胡桃が通っている、という事もあってか、最終的には受け入れてくれた。
勿論、この高校にあの女達は居ない。
わざわざ残りたくも無い教室に残って、寝たフリをしていた甲斐があった。
俺の過去を知っている人間もあまり多くない。目立つ行動をしなければ、言いふらされる事も無い。
俺はその事を嬉しく思いながら、真新しい制服に袖を通した。
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