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プロローグ
古き大陸エレジア。
偽りの英雄たちがもたらした戦乱が終わり、エレジア王国に若き宰相が誕生してから、数年の月日が流れた。
大陸を蝕んでいた「世界の病」は癒え、各種族は、互いに手を取り合い、新しい時代の秩序を模索し始めていた。
そんな大陸の北西、人の踏み入れぬ広大な「囁きの森」を抜けた、霧深き海の上に、その都市は存在する。
幻影都市アストラルム。
地図にも完全な形で記されることのない、独立都市国家。
その存在は、一部の商人や、知識を求める錬金術師たちの間で、おとぎ話のように語り継がれているだけだった。
都市は、一年を通して、魔法的な霧と、それ自体が結界となっている無数の幻影によって、外界からその姿を隠している。
空を飛ぶ竜でさえ、その正確な位置を捉えることは困難だという。
この物語は、そんな、世界の真実から、そして、エレジア大陸の歴史の大きなうねりからも隔絶されたかのように見えた、謎多き都市で起きた、一つの奇妙な事件から、その幕を開ける