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第2話「ホントだべ、信じてけろ」

 こことは違う世界って……?

「あのさ、そんな事言われてもね」

「ホントだべ。信じてけろ」

 キクコちゃんが今度は目を潤ませて言う。


「う……まあ、とにかくここじゃなんだし、あっちで話そうか」

 俺はキクコちゃんを居間に通した。

 そこは畳敷きの和室でちゃぶ台が置いてあり、仏壇もある。


「あんの、手を合わさせてもらっていいだべか?」

 キクコちゃんが仏壇を指して聞いてきた。

「え、いいけど?」

「そんじゃ……急に来てごめんなさいだべ。お邪魔してますだべ」

 キクコちゃんは仏壇の前で正座して手を合わせて言った。

 どうやら悪い子じゃないようだな。


 そしてちゃぶ台の前に座ってもらい、話を聞いた。




 キクコちゃんのひいおじいさんはその昔この子から見て異世界、ようするにこの世界からやって来たそうだ。

 ひいおじいさんは頭が柔らかいのか自分が違う世界に来たのはすぐに理解できたようで、元の世界に帰ろうとしたが方法が見つからず、彷徨っていた時にひいおばあさんと出会い結ばれ、それで向こうで骨を埋める事にしたという。


 時は流れ、ひいおじいさんが亡くなってから一年後の今になって異世界へ行く手段が見つかったそうだ。

 それを知ったキクコちゃんは元の世界にいるひいおじいさんの身内に会ってその後の事を話し、出来るならこっちのお墓に分骨したいと思ってやって来た。


 あと彼女の師匠が言うには異世界で最初に会った人物こそが勇者で、キクコちゃんの目的の手助けをしてくれるとか。


 この子の目を見ればわかる。

 嘘は言っていない。

 頭がおかしい訳でもなさそうだが……。




「でもさ、はいそうですかと信じられないよ」

「そう言われてもホントだべ」

 キクコちゃんが真剣な眼差しで言う。 

「うーん、何か証拠があればなあ」

「じゃあ、これならどうだべ?」

 そう言ってキクコちゃんは宙に浮かび上がった。


 って、ええええ!?


「ひいじっちゃが元の世界には魔法なんて無いって言ってたべさ。これで信じてくれるべ?」

「あ、ああ。ところで」

「なんだべ?」

「スカートの中見えてる。早く下りなさい」

 俺は目をそらして言った。 


「別に見られても平気だべさ」

「君何歳だよ?」

「十七歳だべ」

 ……キクコで十七歳って、おいおい。


「とにかく信じるから下りてくれ」

「分かっただ」

 キクコちゃんはさっと降りてまた座った。


「じゃあ聞きたいんだけど、こっちへはどうやって来たの? やっぱ魔法で?」

「んにゃ、魔法は万能だけんど、それでも異世界へ行けないべさ。他に条件があったんだべさ」


「それって?」


「古い文献に書いてあったんだけんど、あたす達の世界の聖地では八十年に一度、三十日間だけ異世界への扉が開くんだべ。あたすはそこを通って来たんだべさ」

「そうだったのか。あ、もしかして」

「んだ。ひいじっちゃは今から八十年前にあたす達の世界にやって来たんだべ。聞いた所じゃ気がついた場所は聖地だったべ」

「やっぱりか。ひいおじいさんは偶然そっちに迷い込んでしまい、どうやって帰ればいいか分からないまま時が過ぎて扉が閉まって、そのまま……」

「そうだべ。あと少し長生きしてくれていたら帰れたのに。だからせめてこれをひいじっちゃの妹さに渡そうがと」

 彼女はそう言ってスカートのポケットから小さなお守り袋を取り出した。


「これは妹さから貰ったと言ってたべ。んで、亡くなる少し前から急に故郷に帰りたい、妹さに会いたいと言うようになったけんど、とうとう叶わなかったべ」

「おそらく自分の時がもう残ってない事に気づいて、それでかもね」

「皆もそう言ってただ」

 さぞ無念だっただろうな……。



「ところでさ、ひいおじいさんが昔何処に住んでたのか聞いてるの?」

「わがんね。日本から来たとだけしか言ってなかったべさ」

 キクコちゃんはそう言って頭を振った。


「うーん。じゃあひいおじいさんの名前と歳は?」

「ヨゴロウって言うべ。ちょうど百歳で亡くなったべ」

「そっか……あ、苗字は? 日本人ならあるんだけど」

「知らねえべ」

「え、どういう事?」

「ひいじっちゃは結婚して婿養子になった後、元の苗字を誰にも言わなくなったんだべさ」

 キクコちゃんがまた頭を振る。


「そうなの? 家族の誰も知らないの?」

「ひいばっちゃなら知ってたかもしれねえけんど、ひいじっちゃより先に亡くなったべさ」

「そっか。名前と歳とお守りだけじゃちょっとなあ」

「ひいじっちゃの故郷は小さな漁村だってのは聞いてるけんど」

「そんなとこ、この国にはいくらでもあるよ」

「残してきた家族は妹さだけだったって」

「それもそこそありそうだな。あ、妹さんの名前は?」

「えっと、アキコだって聞いたべ」

「手がかりはそれだけか。もう少し何かあればなあ」

 あるなら出してるだろけど、と思ったら。


「あの、じっちゃの若い頃写した絵があるべさ」

「え、それちょっと見せてもらっていい?」

「はい、これだべ」

 キクコちゃんが胸ポケットから取り出したのは、

「あれ?」


 それは絵ではなく写真だった。

 色あせて所々破れているが、姿形ははっきりわかる。


 そこには軍服姿の若い男性と、中学生くらいでもんぺ姿の女の子が一緒に写っていた。

 その後ろには何処かの海岸と山が見える。


「ひいじっちゃは戦地へ行って戦ってて、気づいたらと言ってたべさ」

「そうなんだ」


 八十年前って事は終戦の前くらいかな。

 ひいおじいさんは運が良かったのか、それとも……。


 いや向こうで奥さんと出会い、お子さんも生まれ、お孫さんどころかひ孫も見れて幸せな一生だったんだろな。

 キクコちゃんを見ているとそうだったと思えるよ。

 この子、純粋な目してるもんな。




 なんとかしてあげたいな……。

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