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第17話「声が……?」

 翌日の朝。

 旅館を後にして天橋立を見物しに行った。

 今日は天気が良くて見晴らしもいい。

 

「ここ、なんかほんとに天に架かる橋みたいだべさ」

 キクコちゃんが辺りを見て言う。俺もそう思うわ、ほんと。

 

 来れてよかったってか、キクコちゃんが来てくれたからだな。

 自分だけで来ようとか思えなかったし。


 ……それで思い出した。

 ここって「あの場所」から遠くない。

 次の目的地、広島へ行くには少し時間がかかることになるが。

 もしかすると、うん。


 今度は電車で福知山方面に向かい、そこから大阪まで戻ってというルートを取った。「あの場所」を通るから。




 電車の中。

「天橋立も昨日もバスの窓から見えたとこもだけんど、あたすんとこと似たような場所もあるんだべなあ。ごちゃごちゃしたとこが多いのかと思ったべ」

 キクコちゃんが窓の外を見ながらそんな事を言った。

「ひいおじいさんがいた頃だともっとあったと思うけど、都心部はそうでもなかったのかも?」

 ……与吾郎さんが今の日本を見たら、どう思っただろうな。



 しばらく流れる景色を見て、電車が「あの場所」に近づいた時だった。

「あんら? あそこから聖なる気が出てるだべさ?」

 キクコちゃんが窓の外に見える山を指して言った。

「よっし! ……あ、すみません」

 思わず声を上げてしまったので慌てて周りの人に謝った。


「どしたべさ急に大声出して?」

 キクコちゃんが小声で聞いてきた。

「うん、実はね」

 俺も小声で理由を話した。



 あそこは伊勢神宮に落ち着くまで一時的に天照大御神様が祀られた場所。

 俺は初めてだけど父さんが昔仕事でこの辺りに来たことがあって、電車から眺めていたら光が見えた気がして、「探し人は生きている。いずれ再び会える」と声が聞こえた気がしたとも言っていたんだ。


 ……けど、とうとう会えなかった。

 だから父さんの幻聴だったのか、いや聞き違えていて本当は違う意味だったのか。

 もし俺にも聞こえるならいいが、ダメならキクコちゃんにお願いしてどうなのか聞いてみたかったんだ。




「そうだったべか。それなら先に言ってほしかったべさ」

 キクコちゃんがそう言ってくれたが、

「ごめんね。個人的な事だし、もしキクコちゃんが何も感じられなかったらそのまま言わずにおこうと思ったんだ」

「遠慮せんでもええのに。けんどごめんなさいだべ、あたすじゃ神様の声は聞こえねえべさ」

「え、そうなの? だって精霊さんの声は聞こえるんだろ?」

「精霊とは魔法使える人なら話せるけんど、神様は大神官さんでもそうそう話せねえべ。いつでも話せるのは在位中の陛下だけだべさ」

 キクコちゃんは頭を振って言った。って、

「マジ……? いや、こっちはまた違うかもだし」

 つか、陛下は本当に天子様なのか?


「そうかもだけんど、あたすには聞こえなかったべ。聖なる気を発しているのだけは分かるけんど」

「そっか……あ、ごめんね」

「いんや、あたすこそお役に立てずにだべ」

「いや気にしないでね」

 互いに頭を下げた時だった。


” 旅の終わりに会えますよ ”


 ……え?

「キクコちゃん、今誰かの声聞こえた?」

「んにゃ? 聞こえなかったべ」


 じゃあ……って、なんで俺だけですか?

 旅の終わりにって、アキコさんを見つけたら母がどこにいるか分かるのですか?

 あと、父はもしかして俺の知らないうちに会ってたのですか?


 心の中で聞いているうちに山が遠ざかっていった。

 答えも帰ってこなかった。


――――――


 その後、新大阪で新幹線に乗り、広島に着いた。

 もう夕方だったので予約したホテルに入った。

 しかし今はどこも高いな。

 もし軍資金貰ってなかったらヤバかった。

 それでもなるべく安いとこにだけど、変なとこだとキクコちゃんが……相手を魔法で爆発させるかもしれないな。

 

 そう思っていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「お待たせだべ」

 キクコちゃんだった。当然部屋は別々である。

「ううん、じゃあ行こうか」

「んだ」

 


 着いた場所は広島の場所を教えてくれたフォロワーさんお薦めというか、ご本人がやってる店。

 一見すると普通の小さな古い家っぽいが、玄関に暖簾がかかっている。

「お好み焼き ななしの」と。

 つかハンドルネームは店名そのまんま。

 俺は広島のお好み焼きって食べたことないから楽しみだ。


 暖簾を潜って中に入るとカウンター席に椅子が六つ、鉄板がある四人掛けのテーブルが二つ。壁は電灯のせいか橙に見える。

 こういう感じっていいな、って誰もいない?


「えっと、すみませーん」

 俺は奥の方に呼びかけてみた。

「はーい」

 そう言って出てきたのは……。


「隼人さん、こういう店ってああいう人がやってるんだか?」

「少なくとも俺の知る限り、ここ以外無い」

 それはなんか神話にある落書きみたいな神様のような白い布を被った人だった。


「あら、もしかしてダンさん?」

 ダンとは俺のハンドルネーム。

 苗字が諸星だからという安直なものだ。


「あ、はい。えと、もしかして」

「ええ、ななしのですよ」

 どうやらご本人みたいだ。

 声からして女性みたいだけど、俺は男性だとばかり思ってた。

 投稿内容がそうだし、たまに寒いオヤジギャグも言うから。


「あ、ごめんなさいね。さっきまで子供達向けにしてたもんで」

 そう言って布を取ると……、は?


「ひゃあ、えれえべっぴんさんだべ」

 キクコちゃんが声を上げて言った。

 うん、ななしのさんはなんて言えばいいのか……。

 長い髪を後ろで結っていて顔立ちが整いすぎな人だった。

 また割烹着姿もよく似合っている。

 立つと背も高いし、女優さんですと言われたら普通に信じるわ。


「ふふ、ありがとね。さ、どうぞ」

「あ、はい」

 俺達はななしのさんに促され、カウンター席に座った。


 しかしななしのさんの声、あの時の声に似てる……?

 いや気のせいだろな、たぶん。

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