カップ麺を巡って〜二分派VS三分派〜
「この国が終わるとしたら、原因はカップ麺だと思う」
そう言いながら月宮千鶴は、日野弥生のデスクにカップ麺を叩きつけた。
「だから三分だと伸びるんですって」
「何言ってるんですか。三分こそ理想の待ち時間であって、一番美味しい食べ方ですよ」
郊外から外れたビルのある一室。何でも屋『トワイライト』にて二人の人物が言い争いをしていた。
「わからない人ですね弥生さんは!」
「わかってないのは貴女ですよ。千鶴ちゃん」
地団駄を踏み、頬を膨らませ抗議する彼女。千鶴は腕を組み見下ろすように視線をやる弥生に憤慨していた。
彼女らがなぜこんなに熱くなってるのかというと・・・・・・
「カップ麺は二分で食べるのが程よく固くて美味しいんです!」
「邪道です。そんなのは制作者の意図とは外れます」
そう。カップラーメンにお湯を張った後何分後に食べれば良いのか。そんな端から見れば、くだらないことで言い争っていたのだ。
「いいですか弥生さん! 三分経ったら麺は柔らかくなるんです! なぜなら麺がお湯を吸収しすぎてしまうから!」
「誰でもわかることをいちいち主張しないでください。だからこそメーカー推奨の三分待つべきって話じゃないですか」
「それだとやわらかすぎるんです! いいですか! 三分経ったら・・・・・・」
「いや、もういいです。埒が空きません」
呆れたように弥生が首を振る。これ以上何を言っても、千鶴が意見を曲げることは無いと言うことを長年の付き合いで知ってるからだ。
「お? やっと理解してくれましたか? 弥生さんも話せばわかるじゃないですか!」
千鶴はその様子を見て腕を組み、一人うんうんと首を縦に振る。
どうやら彼女の中では、弥生が自分の意見をようやく理解してくれたものだと思っているらしい。
「はい。よく理解できましたよ。千鶴ちゃんが正しいカップ麺の食べ方を知らないということが」
鼻を鳴らしてニヒルに笑う弥生。
「お? なんかカッチン来ましたよ?」
湯沸かし器の如く沸点を突破した笑みに獰猛さを込めて、にっこりと弥生を見つめる千鶴。
それをさらに煽るかのように弥生は口を開く。
「あら。ごめんなさい。二分しか待てない人は我慢するのも難しいですよね?」
限界突破寸前。千鶴は青筋を浮かべており、弥生は嘲るような眼差しで見つめる。
まさしく一触即発の空気感。
が、それを遮るかのようにインターホンが二人の間に待ったをかけた。
「やっほー。遊びに来たよー」
軽快な調子で扉から顔を出す女性。高山紫音が乱入してくる。
「どったの? 二人とも?」
二人の間に入り、千鶴と弥生の顔を交互に見合わせると首を傾げる紫音。
「「高山(紫音)さんはどっちが良いと思いますか!?」」
「・・・・・・何の話?」
その後、二人の諍いの原因を知ると紫音は腹を抱えて笑う。
「そんなのどっちでもいいじゃーん! 好きなの選びなよー。それじゃダメ?」
「「ダメです!!」」
見事にハモり合う二人。その呼吸の合わせ方を見て、流石はバディだなという感想を紫音は抱く。
「じゃあさ。二人で異能なしで戦ってみてそれで白黒つけなよ」
紫音の提案に弥生と千鶴は顔を見合わせる。
「「乗った!!」」
***
かくして公園へと移動した三人。審判は高山がやることとなり、千鶴と弥生はお互い見合う形となった。
「じゃあ制限時間は十分間。ルールはお互いにそれぞれついたペイントボール。胸、肩、頭を潰された方の負け」
千鶴にはオレンジのペイントボールがそれぞれ各部位につけられている。また、弥生の方にも青のペイントボールが同じように配置されていた。
「使う武器はこのエアガンとおもちゃのナイフのみ。何か質問は?」
紫音が二人の表情を見つめて確認を取る。
「なさそうだね・・・・・・じゃあ、お互い配置について」
紫音がそう言うと弥生は花壇を取り囲むレンガを盾にするようにしゃがみ込む。
千鶴も木の陰に隠れて背をつける。
「よーい・・・・・・スタート!」
合図と共に千鶴は木を上る。そして花壇の陰に射線が通るように木々伝いに移動して近づいた。
(わざわざ、逃げ場のない花壇の裏に隠れるなんて弥生さんも馬鹿だな)
内心馬鹿にしつつ千鶴はしっかりと花壇の方を注視してポイントまで移動した。
(木々を移動してたなんて思わないはず。この勝負、一方的にだけで私の勝ちだよ!)
千鶴が勝利を確信して枝の隙間から照準を構えた瞬間。頭と肩のペイントボールが破裂する。
(え? どうして!?)
驚くのと同時に月宮は幹から飛び降りて、木の陰からナイフの刃先部分を鏡面に利用して確認する。しかし千鶴の思惑と反して、そこに弥生の姿は無かった。
(どこにいったの・・・・・・?)
すると先ほどと同じ花壇の方からビービー弾が飛んできて千鶴の手の甲にヒットする。
「いった!」
思わず手を引っ込める千鶴。
「わざとやったでしょ! 弥生さんの鬼!」
(とはいっても・・・・・・どうしたものか・・・・・)
***
(千鶴ちゃんは私の位置をなんとなくは掴んでる・・・・・・それでも、もうすでに二つライフを失ってる状態だから顔は出せないに違いない)
弥生は花壇と木から縦の位置に隠れるようにしゃがんでいた。
千鶴が移動することを読んでいた弥生は、木々の微かな揺れに合わせて少しずつ移動していた。
(制限時間もあることから恐らく特攻しかけてくるはず。例え胸を庇いながら来ても隙間を縫って当てる自信ならある。この勝負、私の勝ち・・・・・・)
弥生が考えるとおりの展開としてみるなら間違いなく千鶴に勝ち目は無く、この状況もまた弥生にとって有利だった。
しかし次の瞬間、弥生は予想外の状況を目にする。
千鶴の隠れてる木に煙が上がり始めたのだ。そして次第に煙は大きくなる。
(千鶴ちゃん、まさか木に発火したの!?)
それが火事だと気づくのはすぐのことだった。
思わず弥生は飛び出して、様子を見に行こうとする衝動を抑えた。もしもこれで顔を出した瞬間を狙うという作戦なら、自分が負けてしまうことを想像できたからだ。
(ただ、それでも・・・・・・)
万が一でも、パートナーを失う理由にはならない。そう心に決めて顔を出そうとしたとき。
ナイフが弥生目掛けて飛んでくる。
咄嗟に顔を引っ込めるが頭の先端のペイントボールに当たってしまう。
その結果、顔からペイントを被ることになる弥生。
「ふふふ・・・・・・いい度胸ですね・・・・・・」
この時、弥生はなにがあっても顔を出さないと決めたのであった。
顔を出さないと決めた弥生の背後に足音が近づく。弥生が後ろを振り返った時、胸と肩のペイントボールが割られる。
「え? なんで・・・・・・?」
弥生が振り返るとそこには千鶴の姿があった。
「どうしたんですか。幽霊でも見た顔ですね」
***
千鶴は火を立てて注意を引いた後木々を逆戻りするように移動したのだ。そして注意が燃えさかる木に向いてる隙にゆっくりと堂々と正面から近づいたというわけだ。
「私の負けですか・・・・・・」
「そうですよ。懺悔してください。私が間違えてたって」
勝ち誇るように胸を張る千鶴に弥生は項垂れてしょぼくれる。
「いや・・・・・・月宮ちゃん。どう考えても君の負けだよ」
「ええ!? なんで!?」
「だってほら。あれ、どうすんの?」
紫音が後ろ指にさすのは轟々と燃えさかる木の有様。
「あわわわ!?」
「千鶴ちゃん・・・・・・」
「助けてください!! 私捕まりたくないです! お願い! 弥生さん!!」
その後、弥生の異能。アンコール(十分間前の状態を再現する能力)によって事なきを得たのであった。
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